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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-10 Starting line
131/135

刀也VS拳二



 「――さて……どうだ拳二。久々にやらないか?」


 「やるって……模擬戦か? お前1対2でやったばかりじゃねぇかよ」


 刀也の唐突な提案に、拳二は思わず聞き返してしまう。


 「そうだが、あの程度なら()()()()だ。問題無い」


 「……」


 どことなく棘のある刀也の物言いに、拳二が眉をピクリと動かした。

 無論、それだけではない。マイルズもファングも平静を保っていたが……場の空気が少し変わった。言うなれば、大喧嘩の始まる直前の悪い空気。それに近かった。


 ジンはこの空気を知っている。程度の差はあるが……かつてエリア3で働いていた時、ガンツとシンシアが夫婦喧嘩をしている時の居心地が悪いあの空気だ。


 「と、刀也。今のは言い過ぎ――


 「――いいぜ」


 ジンはこの悪い雰囲気をどうにかしようと刀也に注意を促そうとしたが、拳二がそれを無視するように言った。


 「さっきの模擬戦か、それともカテゴリーS(ビッグホーン)とやり合って生き残ったのが自信になってんのか知らねえが……。少なくともビッグホーンと最後まで戦ったのはジンだろうが。てめぇが強くなったと勘違いしてんじゃねぇよ」


 「フン……随分と口が達者だな。怖気づいたか?」


 「そりゃてめぇだろうが、クソ後輩」


 刀也と拳二はお互いに口汚く罵り合いながら、自身の得物(V-ウェポン)を手に取り位置へ向かう。殺し合いが始まってもおかしくない殺気がビリビリと伝わり、ジンとマイルズ、それにファングも無言で下がった。


 












 「あーあ、こりゃ始まっちまうなァ。ったく、大仕事の前だってのに」

 「ええ……ですが見物ですね。この2人の模擬戦は久々ですから、少し楽しみです」


 模擬戦用に床にひかれたライン。その外側に出て、マイルズとファングが話し始めた。止める気など毛頭無いのか、腕を組んですっかり観戦モードだ。


 「ま、マイルズさん。それにファングさんも。止めなくていいんですか? 2人共V-ウェポンまで取り出して……」


 「ああ、ジン君はこの2人の模擬戦を観るのは初めてですか。いつも大体こんな調子ですよ。武器使用も含めて。ただ……いつもよりは刀也君が少し、挑発的だったかもしれませんが」


 「昇格して刀也は今やランク6だ。大仕事の前だからこそ、ランク5である拳二を超えたいのかもしれんなァ」


 (そういえば……刀也と拳二さんはほとんど互角って話だったな。模擬戦も僅差で拳二さんが勝ち越してるみたいだけど……)


 ジンは以前刀也に聞いた話を思い出す。

 ランクに隔たりはあっても、実力はそれほど離れていない。そう刀也は悔しそうに語っていた。もしかすると、刀也にはずっと拳二を超えたいという想いがあったのかもしれない。エリア4へ行く前の、このタイミングだからこそどうしても戦いたいのかもしれない。


 













 (――悪くねぇ。傷が完治してる訳じゃ無ぇが、べストに近い調子だ)


 拳二は身体の調子を確かめるように各関節を回しながら、装備されたバルバロスを軽く振るう。ふと視線を相対する刀也の方に向け、考える。


 何故、刀也(あいつ)は俺を焚き付けた?


 俺の前で仲間を軽視するような発言は、俺を怒らせると分かっていた筈だ。それに、あいつがあんな失礼なこと言う奴じゃないのは俺も良く知っている。第一あいつ自身も言っていた。ファングとマイルズの戦闘スタイル的に、正面からぶつかり合う形式の模擬戦では逆に不利だったと。


 「……怒らせてでも、本気でやりたい訳か。ったく、不器用な奴め」


 拳二はボソリと呟き、少しだけ笑顔を見せた。

 その笑顔は、拳二自身も無意識のものだった。無意識に……自身もまた、本気の刀也と戦えることに沸き立っていた。





 ――互いの準備が済み、睨み合いになる。


 刀也は既に抜刀し、深呼吸をしながら静かに構えている。

 対照的に拳二は軽いフットワークを見せつけるように小刻みに小さく跳ねながら構える。そして両腕のバルバロスをガシャンとぶつける、お決まりの動作を見せる。


 「……ごくっ」


 ジンが思わず唾を飲み込む。その音が響いてしまいそうなほどの沈黙の後……。


 

 両者が、同時に飛び出した。



 初っ端から刀也が大振りの上段。対する拳二も全体重を乗せたジョルトブローを打つ。強烈な一撃が正面衝突し、凄まじい衝撃と音がシュミレートルーム全体を震わせた。

 正に戦闘開始。互いに最初からトップギア、超高速の斬撃と拳打の応酬が始まった。


 「ッ……いきなりこんな……」


 ジンは思わず声を漏らした。初撃のぶつかり合いに驚いたのもそうだが、やはりこの2人は強い。今でこそこの高速戦闘もギリギリ目で追いきれるが、少し前までなら何が起きているかすら分からなかっただろう。


 刀也の流れるような斬撃を拳二は全てやり過ごしている。紙一重で躱し、或いはバルバロスで確実に受け流す。そうして間合いを詰めようとするが、拳二の間合いにはあと一歩足りない。拳二が押しているように見えて、実は防戦一方だ。剣術と格闘のリーチ差を、中々に埋め切れない。


 激しい応酬が続くが、戦況は硬直し始めている。手を出し続けるものの、あと一歩を詰め切れない拳二。しかし刀也もまた、拳二に対して有効打を与えられずにいる。互いに対人戦闘技術の高さが光る。


 そんな戦況を観ながら、不意にマイルズが言った。


 「硬直しだしたな。ここまではいつも通りだが、ふむ……なァジン。お前ならどっちに賭ける?」


 「賭けですか? ええと……うーん」


 「昼も近いし、どっちかに賭けて勝った方が昼飯を奢るってのはどうだ」


 「え!?」


 ……そんなに気軽に賭けなど出来る戦いなのだろうか?

 ジンは反射的にそう思ったが、先程マイルズは『ここまではいつも通り』と言っていた。この殺し合い一歩手前の緊張感も、刀也と拳二にとってはいつも通りのようだ。


 「ハハハ、まァ気軽に考えてみろ。状況予測の訓練とでも思えばいい」


 「そ、そう言われても……ここまで互角だと難しいですよ」


 すると、ファングも話に乗ってきた。


 「互角……ですか。()()()()()()()()()。普通に見たら拳二君が押しているように見える」


 「ファング。お前さんはどう見る?」


 「そうですね……現在の戦況、一見拳二君が押しているように見えますが、その実は違う。得意な距離まで詰められていない。刀也君が上手く間合いをキープしていますね。流石は剣聖の名を継ぐ者だ」


 「ほうほう、なるほどなァ。じゃ、お前さんは刀也に賭けるか?」


 「――いや、それはありません」


 「ほう?」


 「今のところは互角ですが、両者の状況は違う。拳二君は自分の間合いの外から戦っているのに対し、刀也君の間合いはベストだ。その結果が互角の戦況ということなら……いずれ拳二君が押し切るでしょう。という訳で、僕は拳二君に賭けますよ」


 その時、まるでファングの言ったことに呼応するように戦況が動く。

 


 雨のような斬撃をすり抜けるように躱し、受け流し。刃を頬に掠めながら……


 「――捕まえたぜ」

 

 拳二が遂に、間合いに入った。

 












「え、もう退院している? 困ったなぁ、どこに行ったんでしょう、ジン君」


ジンが病院を出てから10分後、今度はサラが入れ違いで訪ねて来ていた。

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