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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-10 Starting line
129/135

それは死ではなく



 「――では、そのように。各自出発まで英気を養ってくれ」


 マクスがそう言い残し、病室を後にする。

 ジンはぐっと拳を握り締めた。その手の中には、真新しいドッグタグが鈍く光る。


 













 その後の方針……。

 ハウンドは数字持ち(ランカー)を2つに分けて派遣することとなった。


 1つは最前線であるエリア5へ。アーロン・ジョンソン……もとい、『将軍(ジェネラル)』が向かったことが確認されており、スティールの拠点があると予想されている。

 しかしエリア1防衛軍の壊滅を受け、エリア5駐屯軍の大部分がエリア1に帰還している。よって駐屯軍の一部精鋭たちと、ハウンドの数字持ち(ランカー)たちを集結させることにより、これに対抗する。

 派遣される数字持ち(ランカー)の数は、ハウンド全体の大部分を占める。また代理人(エージェント)や、他のスタッフたちもこれに同じく。無論、それでも失った戦力は到底埋められるものではなかったが……。


 ――ランク1、ゴライアス・オニール。そしてランク4、マイルズ・カーターの派遣が決まっている。









 (――そして、もう1つ。『エリア4』への()()、か……)


 ジンはかつてオールドライブラリで閲覧した資料を思い出しつつ、マクスからの指示も合わせて考え込む。


 理想都市、エリア4。


 それはバーテクス正規軍の庇護下に無い、独自の発展を遂げた唯一のエリアだ。

 エリア4を統治するのは軍ではなく、企業。


 その名を『アーク』という。


 アークとは、エリア4内を独自の軍隊で統治し『大災厄前の文明を再現する』、という目標を掲げ、理想都市と呼ばれる街を運営する企業。喰らう者(イーター)との戦いよりもその文明再建を重視する方針でバーテクス正規軍と食い違い、敵対するまで行かなくとも、互いに交流を避けているとされている。


 ……が。不穏なことが起きている。

 バーミリオン社も、エボルヴも。どちらの組織もバーテクス正規軍との関係を解消。エリア1から撤退し、エリア4に本社を移した。それはこの騒動が収束してすぐのことだった。


 それに加えて、理由はもう1つ。

 代理人(エージェント)がエリア2の研究所跡地から破壊された設備の残骸を回収した。その残骸の損傷が酷く機能はしなかったが……バーミリオン社製の部品がいくつも見つかったのだ。


 これだけ符号が揃っていて、エリア4に何も無いはずがない。


 ゆえに、エリア4へ調査に行く。


 派遣されるのは、ハウンドの中でも選りすぐりの少数精鋭。

 ランク2、ファング・マクヘイル。

 ランク3、アームズ。

 ランク5、竹内拳二。


 そして新たに昇格し、その数字を大きく上げた者が2人。

 ランク6、神薙刀也。

 そしてランク9、ジン。


 既に潜入している多数の代理人(エージェント)と、他にも何人かの協力者を率いて向かう――













 一通りの話が終わり、ちょっとした談笑が始まる。

 拳二も相当心配してくれていたようで、すぐに話しかけてきてくれた。


 「……にしてもジン。お前よく無事だったなぁ」


 「拳二さんも。なんか偉い人に殴りかかったって聞きましたけど……その、ありがとうございます」


 「べ、別にお前のためじゃねぇよ! 勘違いすんな」


 拳二は少しその顔を赤くしながらそう言うが、マイルズがニヤけながら突っ込む。


 「あぁ~? ホントにそうだったかァ~~??」


 「だぁーーー!! そういう余計なことは言わなくていいんだよ!!」


 「フハハハハハ!! まぁでも、ホント良かったぜジン。手放しに喜べる状況じゃねぇが……刀也も無事に回復したしなァ」


 そういえば……刀也。ビッグホーンとの戦いで瀕死の重傷を負っていた筈だったが。

 

 「ああ……まだ本調子とはいかないがな。ジンに比べればだいぶ回復している」


 腕を組みながら刀也が言った。

 随所に包帯などの治療痕が残るものの、そのいつものクールな調子に安心を覚える。


 「ともかく拳二、それにマイルズも。盛り上がるのはここまでだ。少しはジンを休ませてやれ」


 刀也はこの騒がしい状況を嫌ったのか、少し尖った態度で言った。


 「む……おおっと、そうだなァ。俺はお前らよりもちょいと早くエリア5だ」

 「……そうだな。わりぃジン、今日の所は失礼するぜ」


 拳二とマイルズがこちらを見る。

 何か察した様子で2人は騒がしいやり取りを止め、並んで退室していった。


 「お前らもだ、アールミラー。それにランク3も」


 刀也は隣に立っていたサラと、ジンにしがみついたままのアームズにも注意を促す。アームズは刀也を睨み付けるが、言葉がうまく出ないのか、もごもごと言う。


 「……私は、まだ……」


 「はぁ……ジンの顔をよく見てみろ。どうするのが正しい?」


 「それは……そうだけど……」


 拳二、マイルズに続きアームズもジンの顔を見た途端、なにやらやりきれないような表情を浮べる。


 「顔? 俺の顔がなにか……?」


 「いえいえ、何もおかしい事はありません。私も話があったんですけど、出直しますから今日はゆっくり休んでください」


 「……ジン、私も明日また来る」


 サラもアームズも、刀也の忠告を素直に受け入れ病室を後にした。


 「あ……」


 正直な所、みんなとはもう少し話をしていたかったが……。

 騒がしかった病室は、気付けば自身と刀也だけになっていた。


 「エリア4に行く手筈が整うまで、早くて1週間という所だろう。俺も準備のために一度帰るが……長い仕事になる。出発前に改めてまた会おう、ジン」


 そう言い残して病室を去った。




 

 「……なんだか一気に静かになったな」


 誰もいなくなった病室で、ジンはポツリと呟く。

 窓の外をふと眺める。思いの外時間が経っていたようで、空は一面茜色に染まっていた。


 「綺麗だな……ん?」


 窓に映った自分の顔が視界に映った。刀也や拳二以上の治療痕に加え、笑ってしまうほど酷い顔色だった。


 「……みんな気を遣う訳だ。感謝して、今はしっかり休まないとな」


 

 













 ――その夜。

 エリア1、郊外。

 集団火葬が行われた広場にて、グチャグチャと水音を立てながら蠢く影が1つ。その身体は人間よりも丈夫がゆえに中途半端に焼けただれ、そして死んでいるがゆえに腐り始めていた。


 死した人々の血肉は焼かれ、そのほとんどが灰と骨だけになっていたが……超大人数の集団火葬の弊害か、僅かに肉の残った部分もあった。もちろん黒焦げで、とても喰えたものではなかったが。


 それを骨ごと食べてしまいそうな勢いで貪り喰う。


 「あっ、アァッ、あッあああ……ああアぁぁ」


 意識はまだある。

 ただ、まるで身体の感覚が無い。何も見えない。何も聞こえない。

 

 それなのに、何の感覚も無いのに、自分が人を喰っていることは分かる。

 美味しくない。

 美味しくない。

 美味しくない。


 『――殺せ、殺せ』


 『人間を殺せ、喰い殺せ』


 自分の中に声が響く。

 いつも耳鳴りのように響くその声は、聴力を失ったからか、やけに大きく聞こえる。


 ……聞こえる? 何も聞こえないはずなのに、声が――


 『喰い殺せ、喰い殺せ』


 うるさいな。もちろん殺すさ。殺したい奴がいる。


 『喰い殺せ、喰い殺せ』


 ……殺したい奴? それは一体、誰のことだっけ?


 『喰い殺せ、喰い殺せ』


 そもそも、誰なんだ。誰が言ってる。誰? ダレってなんだ。ボク? ボクってダレだ……?


 自分とは。

 自分が何者であるかという自覚。それは何が決める? 身体に走る、あらゆる感覚、五感的な部分だろうか? それとも意識、自分が持っている自意識だろうか?


 感覚はすべて失った。自分の生きる意味も、名前さえも忘れ果てた。


 『喰い殺せ、喰い殺せ』

 

 あぁ、消えて行く。意識が、意思が、『自分』が消えて行く。

 母親や姉のように慕っていた人も、喰い方の汚かった親友(あいつ)のことも。


 消えたくない。消したくはない。けど、なぜ消えたくないのか、消したくないのか分からない。


 『喰い殺せ、喰い殺せ』


 ……消えたくない? 最初から自分(そんなもの)は無かったんじゃないか?

 だってそうだろう? ボクの中にある、ずっと変わらないものは、この『声』だけなんだから。



 ――そうだろう? 母さん。









 ――レイザーの腹部がまるで水風船のように内容物を飛び散らしながら爆ぜる。

 内臓の代わりに出てきたモノは、骨に溶けかけた血肉を貼り付けたような腕だった。


 「ぅアアアアア……ァァ……」


 ずるり、ずるりとそれは這い出て、どんどん肥大化していく。そして気が付けば、既に人型の原型は留めておらず。出来上がったのは人間モドキの腕や足を無数に生やした、芋虫のような怪物だった。


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