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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-10 Starting line
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抵抗の先に-3



 その後、ゴライアスの車で病院に戻ってきたジンは、少しふらつきながらも病室に戻る。

 『車を置いてくる。先に病室に戻ってろ。後でまた行く』とゴライアスに言われたので、とりあえず言われるがまま従っておく。

 ……病院を出た時よりもまともに歩ける。ゴライアスに貰ったハンバーガーのお陰だろうか? この短時間にいくらか回復を実感できるとは、我ながら単純な体だと思う。


 病室のドアを開く前に気付く。なにやら中が騒がしい。


 (……? なんだ……?)


 ジンは気付かれないよう、少しだけドアを開き、隙間から中を覗き見る。すると――








 「うっ……うぅ……ジン……」


 「お、落ち着いて下さい……きっと少し出かけているだけですよ!」


 誰かの泣き声と、それをなだめるサラの姿があった。角度的に泣いている人の姿は見えなかったが……。

 


 「――ふむ……重傷と聞いていたが……ところでアールミラー、その女性とは知り合いか?」


 

 サラにそう声をかけたのは、……あの、男は――



 ジンは男の後ろ姿を見た瞬間、思い切りドアを開いていた。



 「――と、刀也……!! その……えっと……」


 刀也と話したいことはたくさんあった。ビッグホーンとの戦い後、怪我はどうだったのか。完全な変異体と化した自分のことを、どう思っているのか。いざ本人を目の前にすると、つい言葉が詰まってしまう。


 「! ……フフ、帰ってきたようだぞ」


 「え?」


 


 ――バゴンッッ、と音がしてしまうような勢いで、ジンの胸に誰かが飛び込んできた。


 サラになだめられていた、大泣きしていた女性……アームズだった。


 「よかった……戻ってきてくれて……ジン……」


 そういえば……寝てしまったアームズには行先を伝えていなかった。(寝ているのでは直接伝えようもなかったが……)


 「……ゴメン。書置きでも残しておけばよかった。何でもないよ、大丈夫」


 「いいよ……何も聞かない。でも……もう、離れないで……ひとりにしないで……グスッ」


 ジンは行先を伝えなかった自分が悪いと自覚していたが、それでも少し戸惑ってしまった。アームズの身体は小刻みに震え、ジンの服を強く掴んでいる。


 (どうして……ここまで……)




 サラと、流石の刀也も状況に困惑しながらも、安堵の表情でジンに話しかける。


 「ジン……色々とあるとは思うが、また会えて何よりだ」


 「ええ。もう起き上がれるようになっていたんですね」


 「あ、ああ……その、無事でよかった。刀也、それにサラさんも」


 「ああ。互いにな」



 ――すると、聞き覚えのある声が背後からかかる。


 「……なんだこりゃ、どういう状況?」

 「フハハハハ! なんだか面白れェことになってるなァ」

 「まぁ……揃っているようで何より」


 なにやら包帯や絆創膏の多い拳二、ニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべるマイルズ、そしてその2人とは対照的に暗い表情のマクスだった。













 

 

 「――んなあああああ!? そ……その女がランク3の機械野郎だとおおお!?」


 「ちょっ、拳二さん……!!」

 

 拳二の叫びに近い驚愕の声が響く。病院中に響き渡ったんじゃないだろうか……。


 互いに情報交換をしている内に、ジンに張り付いたまま動かない彼女の話になったのだ。周りの反応を見るに、マクスさんとサラさんは知っていたようだが……。

 中でも特に目が点になっている拳二に対し、刀也が釘を刺す。


 「気持ちは分かるが声量を抑えろ。病院だぞ」


 「いや、でもよ……ええ……!? マジかよ……!?」


 「いやァ……流石に驚いたぜ。あの黒いのの中身が、こんな嬢ちゃんとはなァ……」


 流石にマイルズも驚きを隠せず、声を漏らしていた。また刀也も注意をしてはいたが、やはり表情には驚きが出ている。


 (確かに驚くよな……俺も最初は内心拳二さん並みに驚いたもんなぁ……)


 ジンもそんな拳二に同意しつつ、アームズの様子を見てみる。


 「……グスッ」


 ジンにしがみついたまま、依然離れようとはしていなかった。落ち着いては来ているようだが……


 



 「――別にいいじゃねぇか。外面(そとづら)なんてよ。ジンだって似たようなモンだろうが」


 そう言いながらゴライアスが入ってきた。その瞬間、どことなく場の空気が引き締まるのを感じる。

 しかしそんな中、気軽に声をかけた者がいた。マイルズだ。


 「! おお、ゴライアス! 顔を合わせるのは久しぶりだなァ!」


 「おう。さて、俺をわざわざ呼び出したんだ。余程の話なんだろうな? マクス」


 ゴライアスはマイルズの挨拶を最低限の反応で躱し、マクスを問い詰める。


 「ああ……そうだな。情報を出し合って、話し合いたいと思う。これからのことを」
















 「――さて、まずは現状の把握からいこう。

 バーテクス正規軍の兵士が次々と喰らう者(イーター)化していったこの騒動で、我々は深い痛手を負った。特にエリア1防衛軍は完全に崩壊している。よって、人類はエリア5の進行を中断し、要塞都市に最低限の兵力を残してエリア1に引き上げている。

 死者数は……もはや不明だ。回収できるだけの死体は郊外で火葬されているが……」


 ジンはマクスの話を食い入るように聞く。話すマクスの表情も、それを聞くみんなの表情も。悔しさ、そして怒りが滲み出ているようだった。


 「次に防衛軍の兵士が豹変してしまった原因……それは――間違い無く、医療機関『エボルヴ』にあるだろう。ここにいる者には少し話したが、僕とマイルズで極秘裏に調べた結果、どうやらこの組織は人命救助のための医療部門、そして喰らう者(イーター)の生物的研究部門2つに分かれているらしいが、黒幕はその片割れ……喰らう者(イーター)の研究をしている部門だ」


 「それは……その部門のトップは――」


 「――そう。拘束中にジン君も、酷い目に遭わされただろう。グレッグ・ジャクソン博士だ」


 ――グレッグ・ジャクソン博士。

 自分の身体を切り刻み、骨肉を採取しながら見せていたあの狂気の笑みを思い出すだけで、体中に痛みが走るような錯覚に襲われる。


 「そしてバーテクス正規軍の元帥であるアーロン・ジョンソンの裏切り。彼は……間違いない。喰らう者(イーター)となっていた。繋がっていたのは間違いないだろう」


 「アーロン・ジョンソンと言えば……あの『騎神』はどうだったんだよ」


 拳二がマクスに問いかける。聞けばアーロンと対峙した際、その場に拳二も居たらしい。


 「ディバイドは生きていたよ。精神的なショックは大きかったようだが、既に新たな元帥になり、指揮を執っている」


 「そうか……ま、そうじゃねぇとな。いつかリベンジしなくちゃなんねぇ」


 どことなく嬉しそうな反応の拳二。何か因縁があるのだろう。


 「そして問題なのが……拳二、アームズ、そしてファングの3人をたった1人で凌いだ喰らう者(イーター)の存在だ。彼は自らを『拳王(けんおう)』と名乗ったが……聞けば、同レベルの個体が他にもいるようだね」


 思わずジンは耳を疑った。


 「そんな個体が……!? そうか、それで拳二さんはそんな怪我を……」


 「バカ、お前も人のこと言えねぇだろ。つーかお前の方が重傷だろうが、ジン」


 「そ、それはそうですけど! ……ってマクスさん、他にもいるってことは……」


 「ああ。君が病院の前で戦った、雷の異能力を使う個体。そして刀也がオールドライブラリの前で戦った女性型の個体だ」


 「……俺が戦った、雷を使う喰らう者(イーター)。バスター、って呼ばれていた。遭遇したのは2回目だけど、どっちもまるで歯が立たなかった……」


 ジンは声に悔しさを滲ませ、吐き出すように言った。そんなジンの肩をポンと叩き、マイルズも補足するようにバスターについてコメントを残す。


 「バスター……か。そいつはエリア2で俺も見ていたが……ありゃ強えぇな。変異体にもなっていなかったんだ。まるで底が見えなかったぜ」


 「ふむ……変異体にならなかった、か。俺の方も同じだったな」


 続いて難しい顔をしながら刀也が話す。


 「俺の遭遇した個体は『ファントム』と名乗った。異能力は……おそらく幻覚の類だろう。大した攻撃をしてこなかったので正直、遊んでいただけだったかもしれんが……情けない話、それでも一度も捉えきれなかった」


 「……」

 「……」


 ただでさえ状況は最悪なのに、そこに3体もの強敵の出現。そんな絶望的な事実に、場は静まり返ってしまった。


 その沈黙をいとも簡単に破ったのは、ゴライアスだった。


 「――で、これからはどう動く、マクス。それを聞きに来たんだぜ」


 「ゴライアス……」


 「なんだってやってやる。早く俺に喰らう者(やつら)を殺させろ」


 「……ゴライアス、君にはエリア5に行って貰う。アーロンを数人の代理人(エージェント)に追跡させているが、やはり行先はエリア5だった。


 ――恐らくは、エリア5のどこかにスティールの拠点がある筈だ」


 「クク、それでいい。そうと決まれば俺はもう行く。ややこしい事は後で連絡しろ」


 ゴライアスはそう言って、挨拶もせずに病室を後にした。病室を出る直前、ゴライアスとほんの一瞬だけ目が合った。



 『――立ち止まっている暇があるなら、今すぐ動け』


 そう、言われた気がした。



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