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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-10 Starting line
127/135

抵抗の先に-2

かなり間が空いてしまいましたが、更新しました。よろしければ覗いていって下さい。



 ポタポタ、とジンの顔に雫が落ちる。


 ああ、本当に心配してくれたんだなと思った。あの恐ろしく整った、人形のような顔がこんなにもクシャクシャになっている。


 「良かった……目覚めてくれて、本当に良かった……! 3日も目を覚まさなかったから……私……!」


 








 ――その後の状況については、一通りアームズが教えてくれた。

 ハウンドの数字持ち(ランカー)や、生き残りのバーテクス正規軍兵士達が協力し、何とかこの暴動は終息したらしい。


 しかし、被害は甚大。壊滅的とも言っていいようだ。

 エリア1の防衛軍は兵士全体の7割以上の犠牲者を出し、おまけに上層部はほぼ全員がエリア4へ逃亡したという。生き残った兵士たちの疲弊、怒り、そして民衆の反感、疑念は留まることを知らず、もはや防衛軍は存続すら難しいほどの状態に追い込まれていた。


 そして何よりも、人間が『喰らう者(イーター)』に変貌してしまう、というこの事態。

 「遂に神が人類に愛想を尽かした」だの、「喰らう者(イーター)になってしまう病気が広まっている」といった噂が人々の間に広まり、当然ながら混乱は続いているようだ。





 「そっか、そこまで……」


 ジンは視線を落とし、思考の海へ深く潜る。


 ……この暴動の原因。

 エリア2の研究所で見つけたあの実験施設。そしてサンプル採取と称してこの身体をズタズタにしながら口にした、「喰らう者(イーター)は人類の進化した姿」という言葉。


 そして「サンプル採取は十分、もう楽にしてやれる」と言った次の日に、看守が俺に食事を与えていたことが発覚した。

 俺が2人を見殺しに出来ない事を完全に理解していたのだろう。密告1つで始末しようとしたんだ。恐らくはこの騒動を起こすのに十分な成果を得て、用済みになったから。


 そして楽しそうに俺の身体を切り刻む、あの狂気の目。人間側じゃない、確実に()()()()の存在だ。

 

 この事はすぐにでもマクスに伝えなければ。そう考えジンはアームズに居場所を聞こうと顔を上げたが……


 「……すぅ」


 アームズはまた寝てしまっていた。俺が目覚めたことで、気が抜けてしまったのだろうか。

 その顔をよく見ると、目は涙に腫れ、クマも酷い。


 「何度も泣いて、ちゃんとした睡眠も取らずに待っていてくれたのかな……俺の目が覚めるのを」


 ジンは、もう一度アームズの髪を撫で、呟く。


 「……ありがとう。君が起きたら、もう一度ちゃんと伝え――」







 ――その時、乱雑に部屋の扉が開いた。


 「――よォ、ぼうず。起きたのか。ちっと付き合えよ」


 ランク1、ゴライアス・オニールだった。
















 エリア1の都市部を抜け、農業区画の方面に向かう1台の車。都市部と農業区画の間には、しばらく大災厄時の廃墟群が立ち並ぶ。


 雲一つない開放的な快晴のはずなのに、どこか重苦しい独特の空気を感じる。

 それは凄まじい破壊の痕跡をそのままに残し、風化していく廃墟群がそうさせるのか。それとも隣で運転している最強の男が作り出しているものなのか。


 ジンは助手席に座りながらそんなことを考えていると、不意にゴライアスが紙袋をジンに渡す。


 「とりあえず、それでも食ってろ」


 「あ、ありがとうございます……」


 渡されたものは、キングスバーガーのロゴが入った紙袋。中にはいくつかハンバーガーが入っていた。


 

 ――ジンは、正直困惑していた。

 ゴライアスの目的が分からなかった。初めて会った時に彼は言った。そのままモルモットになって死ね、と。


 (それが、今はご飯をくれて……そもそもどこに連れて行くつもりなんだ……?)


 そんなジンの疑念を見透かしたように、ゴライアスは少し笑って言った。


 「別に裏なんか無ぇよ……いいからそれ食って黙って座ってろ。すぐに着く」


 「は……はい」


 とりあえずジンはハンバーガーを言われるまま口に運ぶ。

 アームズと初めてこれを食べた時は驚くほどに美味に感じたが、緊張のせいかまるで味がしなかった。




 

 


 


 


 


 



 「ここは……」


 車が止まったのはちょっとした高台になった、大きく開けた場所だった。

 すぐ下に更に大きく開けた場所があり、見下ろすような形で一望できる。そしてそこにはおびただしい数の人が集まっていた。どうやら中央の大きな穴を囲んでいるようだが……


 視力の高いジンには、その穴の中に何があるかすぐに分かった。

 集まっている人たち以上の……死体だった。


 「ゴライアスさん、これは……」


 「集団火葬だ。あの騒動でくたばった連中のな」


 荷運び用のトラックに積まれた死体が、まるでゴミのように穴の中に落とされていく。

 ちょうど最後だったのか、すぐに火が放たれた。可燃性の薬品が撒かれているのだろう、火の手は瞬く間に広がり、巨大な炎となって死体を焼いていく。


 集まっている人はそれぞれに祈ったり、泣き叫んだり、呆然として見ていたりしていた。


 アームズから話だけは聞いたが、この集団火葬を目の当たりにすることで、ジンはより一層強く実感する。本当に大変なことが起きてしまったのだと。


 「……何故、俺をここに?」


 ジンの問いかけに対し、ゴライアスは目を合わさずに答えた。


 「ファングの奴には会ったよな。探してみろ、あの中にいる」


 「ランク2の……ええと……」


 そう言われても、ざっと数千人はいる。この中で見つけるのは……いや、見つけた。

 あの不審者のような恰好が逆に目立ち、しかも割と手前にいたこともあってすぐに見つけることができた。ファングと、隣には……ファングの手を繋いだまま泣きじゃくる小さな女の子が――


 「――あの子は」


 「そう。お前が病院前で救った子だ。あの子はファングの娘だ。母親がこの騒動で死んだ」


 「……!」


 「実を言うとな、病院前のあの戦い、少し見ていた。お前を見極めたくてな」


 「そうだったんですか……」


 「お前は……文字通り死に物狂いで戦ったな。人間のために。なぜだ?」


 「信じて貰えないかもしれないけど俺は……人間です。確かに身体は喰らう者(イーター)かもしれないけど、それでも人間なんです」


 「……」


  少しの沈黙の後、ゴライアスは煙草を取り出して火を着けた。



 「……お前は自分のことを、人間と言う。だが俺からすればただの喰らう者(イーター)だ。何を根拠に自分は人間だと言い張る? 何がお前を動かしている? あの姿になっても、お前は自分を信じられるのか?」


 

 ――剣を構えている訳ではない。

 無防備にただ煙草を吸っているだけだ。だがその言葉と同時に、ゴライアスから凄まじい殺気が放たれているのが分かる。まるでべノムの気配と間違うほどの威圧感だ。


 今から口にする答えがゴライアスを納得させるだけのものでなければ、たちまちここで殺されてしまいそうな予感がした。


 ごくり、と唾を呑み込み、慎重に言葉を考えて……

 

 (喰らう者(イーター)のいないくなった世界の先を見たい?)

 (大切な人たちを今度こそ守りたい?)


 ふと思い出す。自分の気持ちの、ドス黒い気持ちの源泉を。

 刀也に言われた、正しいか正しくないかは関係ない。「人」の気持ちにそんなものはない、という言葉を。


 嘘じゃない、どっちも。

 この先、喰らう者(イーター)がいない世界を生きて行きたいという気持ちも。

 姉さんを、ガンツさんたちを殺された復讐がしたいという気持ちも。


 なら――



 「……俺から姉さんを、全てを奪った喰らう者(イーター)を滅ぼしたい」


 「……」


 「そのためなら、何にだってなる。それで1匹でも多く殺せるなら。とにかく殺して殺して殺して――」


 「――もういい、良く分かった」


 「え?」


 「取り繕った綺麗事を抜かすようなら叩き斬ったが……まぁいいだろ」


 ゴライアスは煙草を投げ捨て、車に戻っていく。


 「その意思さえ確められればいい。さぁ、帰るぞぼうず」


 「……! はい!」



 ゴライアスは……その後は口を開くことはしなかった。

 全てを見通された気がしたし、逆にゴライアスのことも少し分かった気がした。


 ゴライアスにとってはどうでもいいのだ。

 本来なら俺の事情や生い立ち、もっと言えば名前すらも。


 ただ、殺し続ける。その意思があれば、向いている先は同じだから。


 

 ジンはなんとなく、自分はこの人に良く似ているな、と。そう思った。

 

 

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