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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-10 Starting line
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抵抗の先に



 恐慌に包まれた街を、まるで歩き慣れた道を行くが如く人影が一つ。

 輝く金色の髪、透き通るような青色の瞳。その人影とは、人間体のバスターだった。


 完全に自我を失い、食欲のまま人を血眼で探す喰らう者(イーター)となった『元人間』たちの間をバスターはすり抜けていくようにゆっくりと歩く。

 無論、バスターが彼らに襲われることは無い。喰らう者(イーター)の本能は文字通り『人食い』であり、自我を失っている彼らの目には、喰らう者(イーター)であるバスターの姿は映りもしないのだ。


 そしてバスターは港に辿り着く。するとそこにはボートが1艇、そして見知った顔が2つあった。


 「――よォ。珍しく熱くなってたじゃねーの、バスター」

 「そうね。アナタの怒鳴り声なんて、初めて聞いたわ」


 「……見ていたのか。拳王、ファントム」


 律儀にも拳王、そしてファントムが待っていた。元々ここで落ち合う予定だったが、ジンとの戦いに予想以上の時間を取られ、バスターは約束の時間に遅れてしまっていた。


 「しかしまぁ……結局はお前の()()も引き出せないで終わっちまったな。あいつ結構いいセン行ってると思ったが」


 「……確かに奴は人間にしては特殊だが、それだけだ。俺たちのレベルには遠く及ばない」


 「ふーん、そんなもんかね」


 バスターと拳王がそんな会話をしていると、ファントムが意地の悪い笑みを見せながら言った。


 「フフ、バスター……口ではそう言ってもどこか嬉しそうじゃない」


 「む……」


 ファントムに指摘され、バスターは初めて自分の口角に緩みがあったことに気付く。


 「どの道あの傷だ。生き残れはしないさ」


 バスターそう言って自らの表情を隠すように早足でボートに向かう。


 「……マジかよ。あのバスターが、なぁ?」

 「私も驚いた。例の彼がよっぽど気に入ったみたいね」


 拳王とファントムは感情的な素振りを見せたバスターの姿に驚きつつ、後に続いた。



 



 ――が。

 突如背後からファントムに斬りかかった男がいた。拳王が寸前でそれに気付き、声を荒げる。


 「――ッファントム!!!」


 「分かってる!!」


 青いドレスに高めのヒール。その格好からは想像できないほどのアクロバティックで、ファントムは斬撃を完璧に躱しきった。斬撃は空を切り、そのままファントムのいた地面に大きく抉る。


 斬撃の空振りに生じる隙を狙い、バスターが間髪入れずに男に雷撃を放つ。男もこれは流石に躱すことができなかったのか、雷撃はそのまま直撃した……が、まだ攻撃は終わらない。拳王が男の眼前に迫っていた。


 「喰らいなァ!!!」


 男の顔面を狙う超高速の右ストレート。男はたちまち頭蓋を砕かれ、一撃の下に死すと思われたが……。



 男はその拳を、片手で簡単に弾いた。



 「なに……ッ!?」


 「なんだ……そのパンチは。それじゃあ俺は殺れねぇぞ、喰らう者(イーター)アアアア!!!」


 男は地面にめり込んだ得物をまるで竜巻のように振り回す。凄まじい質量を持った物体が、ありえない速度で振り回される。当然ながら突風と共に轟音が発生し、その攻撃がどれだけの破壊力を持っているかを物語る。

 得物の正体は身の丈ほどもある『大剣』。汚れ、歪み、刃こぼれも著しい柄の付いた『鉄塊』とも言える無骨な代物だった。


 拳王は大きく後方へ飛び退き、その旋風から逃れる。


 「ハハッ、コイツは……!!」

 

 拳王はその男の名を知っていた。というよりも、自我に目覚めてある程度生き延びることができている喰らう者(イーター)であれば、この男を知らぬ者はいない。


 男の正体。それはハウンドのランク1、ゴライアス・オニールだった。


 「イイねぇ、最高の敵と出会えたじゃねぇか!!」


 拳王は堪らず吠え、今にも飛びかかってゴライアスに挑もうとしたが、それをバスターが制する。


 「――待て。こいつ相手では流石のお前でも()()()。流石に面倒だ」


 「ああ? いいじゃねぇか。俺にもちっとは遊ばせろや」


 「全ては大いなる『母』のためだ。ここは引くぞ」


 「……チッ、わーったよ」


 『母』と聞いた途端、拳王は渋々ではあったがその爆発的な闘気を沈めていく。しかし対照的に、ゴライアスの殺気は留まることを知らない。


 「つれねぇなァ、喰らう者(イーター)。人様の庭でもうちょっと遊んでけよ!!」


 ゴライアスが叫び、大剣を構えて突っ込んでいく。おおよそ人間とは思えない速さで、瞬時に距離を詰めようとする。


 しかしここでゴライアスの前にファントムが立ち塞がる。


 「残念だけれど……ここまでよ。『蜃気楼(シンキロウ)』」


 ゴライアスは構わずファントムに大剣を振り下ろした。……が。


 「!? こいつは……」


 ゴライアスの目には確かに両断されたファントムの姿が映っている。だがまるで手応えが無い。

 すると次の瞬間、2つになったファントムの死体が白い煙のようになって消えた。


 ゴライアスが辺りを見渡すと、既にボートは波止場から遠く離れた位置まで出た後だった。


 「……チッ、一本取られたか。女なら殺れると思ったが……」


 流石に距離が離れすぎている上に敵は海上。跳躍では決して届かず、ゴライアスは追跡を諦めるしかなかった。


 ゴライアスはふと左手に視線を落とす。

 掌がうっ血して青くはれ上がっていた。拳王のパンチを弾いた時だろう。


 (クク……しかしこりゃまた凄ぇ連中が出てきたな)


 ゴライアスは笑みを浮べ、混沌の街へ引き返していった。


 


 


 


 





 「――ハハハハハハ!! 何だアイツ、ホントに人間かよ?」


 海上を走るボートの上で、拳王は爆笑していた。ボートはエリア4に向けて走っている。

 拳王は右手をブラブラと振ってバスターとファントムに見せつける。その爆笑とは裏腹に、拳王の右手は流血しグシャグシャになるほどの複雑骨折をしていた。


 「あれがランク1、『ゴライアス・オニール』か。なるほど中々やるものだ」

 「全く……感謝してよね。私の『蜃気楼(シンキロウ)』が無かったら面倒だったわよ?」


 バスターとファントム、2人とも拳王の怪我を心配する素振りは見せず、むしろ呆れた様子で言った。


 「まァ今回は仕方ねえが……次の時には本気でやり合いたいモンだぜ。クク、お互い()()()が増えたな、バスター?」


 拳王はグシャグシャになった右手を強引に握り、そして開く。開いた時には既に掌は元の形を取り戻していた。


 「楽しみなど……」


 もう無い、と言いかけたバスターだったが、思わず口を閉ざす。

 もし、(ジン)が生き延びて再び俺の前に姿を見せたのなら。


 ――今度こそ、本気で殺してやる。


 

 














 ――目覚め。

 ジンが覚えている限りここ最近の中では最も心地良い目覚めだった。身体が柔らかなものに沈みこんでおり、ベットの上に寝ているのだと理解する。


 「う……」


 朝日だろうか。閉じていた視界を照らし、慣れるのに少しばかりの時間を要する。ジンは上体を起こし慣れてきた視界に辺りを映す。

 白い壁、そして床がカーテンの隙間から差し込む光をよく反射し、部屋全体を照らしている。この部屋の内装には見覚えがある。間違い無く病院の1室だろう。


 そして自分のほぼ全身に巻かれた包帯、繋がれた点滴。


 (そりゃそうか……でも、良く生きてたな。ホントに生きて……いるのか?)


 なんとなく意識がまだ浮いているように感じる。身体の感覚が全体的に鈍く、自分の身体のはずなのに自分の身体を動かしている気がしない。


 ジンは腕を伸ばし、優しくそれに触れる。

 光を受けて輝く銀色の髪。白銀という訳ではなく、どちらかと言えばグレーに近い金属のような色合いの銀髪を持つ少女。ジンのベッドの脇には、アームズがうつ伏せて穏やかな寝息を立てていた。


 ジンが触れたことで目覚めたのか、アームズはハッと起き上がる。


 すぐにアームズと目が合う。光を受けて、その澄んだ瞳がみるみる涙を溜めていくのが分かる。


 「ご、ごめん、起こし――


 「――ジンっ!!」


 「痛てっ!?」


 アームズが勢いよく飛び込んできて、そのまま押し倒されるように抱きしめられた。その身体から伝わる確かなアームズの体温。そして怪我の痛み。


 ジンはこの2つを感じることで初めて、自分はまだ生きているのだと実感した。



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