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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-9 Paradigm shift
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パラダイム・シフト-4



 「負けるなーー!!」

 「頑張れーー!!」



 本当に、本当にたくさんの人々の叫び声が聞こえる。


 信じられなかった。

 この声全てが、自分に向けて放たれているということに。


 「……ぁ……」


 ジンは微かな嗚咽と共に、涙を流した。中途半端に半分だけ人間に戻ったその顔の、真紅の瞳からボロボロと大粒の雫を流した。



 ――今まで、ずっと怖かった。


 敵である喰らう者(イーター)の力を使い戦う自分に、いつか敵意を向けられる日が来るのではないかと。『人間の敵』と思われる日が来るのではないかと。

 今や友人となった刀也や、サラ、拳二、アームズ……彼らと話している時も、喰らう者(イーター)と戦っている時でさえも。いつもその恐れは脳裏にこびりついていたのだ。


 それが、今、この瞬間……ジンの脳裏から剥がれて消えた。



 「その涙は、嬉し泣きか? だが残念だったな。そんなもので強くはならない。何も結果は変わらない。お前はここで死に、それで終わりだ」


 バスターはそんなジンの様子を見ながら、もう一度雷を両手に発生させ、剣と盾を顕現させる。放つ殺気は相も変わらず凄まじく、瀕死一歩手前のジン相手に一分の隙も感じさせない。しかし――


 「――いや……そんなことはないよ」


 「何?」


 「こんな姿になった俺を頼ってくれる人がいる。応援してくれる人がいる……これで強くなれない『人間』なんか、いやしない……ッ!! おおおおおおおおッッ!!!」


 ジンは雄叫びを上げながら、再び完全な変異体に姿を変えて真っ直ぐ突っ込んだ。まるで心に溢れた喜びの感情を力に変えるように。


 


 ジンの意識は既に遠い。バスター相手に何の駆け引きも無く、ただ正面から陽炎を振り回す。対するバスターは、そんなふざけているとも取れるジンの攻撃に何の隙も見せず、確実に盾で守りを固めていた。


 『身体が痛い。あちこちがもう動かない、動きたくないと悲鳴を上げている』

 ――それがなんだ。


 『勝てるわけないだろう。変異体は何とか戻せたが、見てくれだけだ。力も速さもまるで足りない、焔だってもう纏ってやいない』

 ――だからって、戦わない理由にはならない。


 ジンの頭は自問自答を繰り返す。消し炭のように真っ黒のままの陽炎を、愚直にバスターの盾にぶつけ続ける。



 「――もういい、死ね」



 見えなかった。反応なんてとても出来なかった。


 バスターの剣が、ジンの腹を貫いた。


 「……」


 ジンは何の声も上げることができなかった。右腕は陽炎を持っていられず、その場にカランと金属音を立てて落ちた。


 「お前は弱い……が、その不屈には正直驚いた。敬意すら感じるほどにな」


 バスターはジンの耳元でそう呟き、ジンから剣を引き抜いた。ジンはおぞましいほどの血を噴出させながら、そのまま仰向けに倒れる。


 ジンの意識は、ここでプツリと途切れた。















 バスターは病院の方に目を向ける。

 ジンが倒れたことで、騒がしかった観衆が再び静まり返ったのだ。


 (……自らの保身は他人任せ。武器を持っている者もいるようだが、向かってくる者はいない、か。心底貧弱な生物だな、人間とは)


 バスターはジンの死体を跨ぎ、そのまま病院に歩いて直進する。


 「皆殺しだ。お前たちに生きる価値など無い」


 「く……やらせない!!」

 「下がってて!」


 咄嗟にバスターの前に立ちはだかったのは、アレックスとミシェルだった。その足は恐怖に竦み、震えている。


 「抗うだけ無駄だ。逃げた方がよっぽど――」




 ――グチャリ、という水音のような音が聞こえた。




 「――ッ!?」



 バスターが思わず振り返ると、そこで死体が立ち上がっていた。



 「ジン……さん……」

 「うそ……」

 

 アレックスもミシェルも、共にバスターへの恐怖も忘れて()()を見た。

 意識が無いのか、立ち上がった状態でピクリとも動かない。



 ――何故?


 バスターだけではない。アレックスもミシェルも、ただそう思っていた。

 腹を貫かれ、今もビチャビチャと音を立てて血を流している。明らかに致命傷だ。にもかかわらず、何故生きている? 何故立ち上がれる?


 「……いい加減にしろ。お前にもう用は無い。弱き者が、俺の前に立ちふさがるな……ッ!!」


 バスターは苛立ちをぶつけるように言い放ち、ジンに向かって斬りかかった。








 ――その時、ジンとバスターの間に銃弾が降り注いだ。


 「――!!」


 バスターは寸前で立ち止まり、その場を飛び退く。踏み潰すのが狙いだったのか、次の瞬間バスターが立っていたその場所に、黒き鎧がまるで隕石のように勢いよく着地した。


 黒き鎧の正体、それは全身をアームドアーマーに覆ったハウンドのランク3・アームズだった。


 「……お前は」


 バスターが問いかけようとしたその時、着地から間髪入れずに銃撃が行われた。バスターはその身に雷を纏い、凄まじい速度で銃弾を回避する。


 (ハウンドのランク3だったな。見る限りあの黒い鎧は機械か……ならば)


 バスターは即座にアームズの後ろを取り、装甲を掴んだ。

 そして、そのまま直接雷撃を叩き込んだ。


 「――うあッ……!!」


 アームズは強烈な雷撃に感電し、苦悶の声を上げた。



 













 『シsテfd596romエj9dfhラー! 警jforweg///:]eコク』


 バイザーに意味不明な文字列が流れる。電気系統のシステムが完全にエラーを起こしていた。

 アームズは全身に焼けるような痛みを感じ、同時に意思とは無関係に身体がビクンと跳ね上がる。


 (これ……電流……っ!?)


 アームズがその場に倒れこむと、今度は物理的な痛みを感じた。痺れてうまく動かない身体を強引に起こすと、アームドアーマーは既に消え去ってアームズ本人の姿が露わになっていた。


 「エラーできょうせい……解除された……」


 気付いた時には既に遅し、緊急用に持っていたハンドガンも取り出せないままバスターが眼前に迫っていた。


 「俺の異能力は『雷』……天敵だったな、ランク3」


 倒れ込み、上半身だけ身を起こした状態のアームズの顔面を最短距離で狙う、片手剣による刺突。抵抗する隙などアームズには微塵も無かった。が、その攻撃はアームズには届かず、代わりに血がアームズに降り注いだ。


 ジンが、アームズの盾となったのだ。



 「ジ……ン……」

 「馬鹿な、まだ……」


 アームズは目を見開き、バスターも同様に驚愕していた。


 ジンはそのまま倒れ込むように力無く膝を付く。しかしバスターはあまりの驚きに気が付かなかった。

 ジンの右手には、落としたはずの陽炎が握られていることに。






 「っあああああああああ!!!」





 力無く膝を付き、倒れ込む動きはフェイク。逆に一歩分、動揺していたバスターとの距離を詰め、大振りの斬り上げがバスターを捉えた。


 刃先がバスターの上半身を掠め、大きな傷を刻む。刀傷自体は浅く、表皮を薄く斬り裂いた程度に過ぎない。しかしバスターは追撃することはせず、すぐに距離を取った。


 「俺に……傷を」


 バスターは傷に触りながらポツリと呟いた。信じられない、という驚愕の中に、どこか嬉しそうな。そんな表情を浮べながら。


 「……もういい、ヤメだ。どの道その有様で生き残ることはできまい」


 そう言って、バスターはその場を去った。















 「……」


 何故退いてくれたのか。分からないまま、ジンは今にも糸が切れ崩れ落ちそうな身体を無理矢理動かし、振り返る。

 どんどん遠くなる意識の中、今度こそ死んでしまうかもしれないと思っていた。


 「アー……ムズ……君に……」


 「ジン……!!」


 アームズも痺れで動かない身体を引きずり、ジンの下に行く。ジンはアームズに身体を預けるように倒れ、アームズはそれを抱きしめるように受け止める。



 「ずっと君に……会いたかったんだ……」


 

 それだけ言って、アームズの腕の中でジンは再び意識を失った。










ひとまずエリア1での騒動はこの話で一段落。

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