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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-9 Paradigm shift
123/135

パラダイム・シフト-2

更新しました! よろしければ覗いていって下さい!



 ――エリア1第2層。

 

 激しく金属音が響く。

 ジンの持つ陽炎と、バスターの盾や剣が衝突する音だった。


 病院内に避難していた人々は、絶句して2人の戦いを見つめていた。否、見つめざるを得なかった。それほどまでに激しく、凄まじい戦いだったのだ。

 醜い紅焔と、美しい蒼雷。両者の得物がぶつかり合うたびに、焔と雷は互いを喰い合う。常人の目には追いきれない2人の姿。ただ焔と雷の残滓だけが軌跡となって映る。


 激しい戦いへの恐怖を忘れて目を奪われるほど、美しい軌跡だった。
















 ――ジンは激しい攻防の中、内心で迷いを感じていた。

 バスターの戦闘スタイルは盾と片手剣を使う近接型。この上なくシンプルで、何の捻りも無い王道そのものだった。しかし、それ故崩すことが難しい。圧倒的なスピードにパワー、どんな斬撃も的確に見切り、防ぐ反射神経と無駄の無い体捌き。

 そして攻撃においてもそれは同様だった。一切の無駄がない華麗な剣術に加え、強引な盾殴り(シールドバッシュ)を組み合わせてくる。


 正確無比かつ華麗、そして時には豪胆さも覗かせる。正直、スタイルは違えど刀也並みの『技』を感じた。それが喰らう者(イーター)の身体能力で繰り出されれば、ジンが劣勢になるのも当然のことだった。


 「! しまっ――」


 「遅い」


 陽炎による斬撃を剣で弾かれ、その隙を突かれた。強烈な盾殴り(シールドバッシュ)がジンに迫る。

 ジンは咄嗟に左腕を受けたが、消し炭のようになるレベルの火傷を負っている左腕では衝撃を少しも受け止めきれず、大きく吹き飛ばされる。


 「ぐッ……ううう……」


 意識が逆に冴えるような激しい痛み。

 左腕は真っ黒に焦げ付き、ひび割れた皮膚の奥からはベットリと血が滲んでいる。感覚は鈍く、動かしにくいのにも関わらず、痛みにだけは鋭敏に反応するような感じだった。

 苦悶の表情を隠しきれないまま、ジンは何とか立ち上がるが……。


 「……今のお前では話にならない。『あの姿』を見せろ、と言っている」


 バスターは無表情でそう言った。まるで今の自分ではつまらない……そう言われているように感じた。


 「……それは」


 ジンはバスターに最大限の警戒をしつつ、素早く思考する。



 ――『あの姿』……確実に、ビッグホーンとの戦いで目覚めた『変異体』のことだろう。

 あの戦いを見ていたのか、或いは見ていた者から聞いたのか。それとも……


 (いや、そうじゃない。どこで変異体のことをあいつが知ったのかは重要じゃない。重要なのは……)


 そう。重要なのは、変異体になれるかどうか。

 ビッグホーンとの戦いでは死にかけていて、無我夢中だった。その時の記憶自体もぼやけている。憶えているのは痛くて、辛くて、それなのに気持ちが良いほど体が動いたこと。無限に力が湧いてくるような感覚に陥ったこと。

 そして…自分はもう人間ではなくなってしまった、と嗤ってしまったこと。


 ふとジンは自分の背後に一瞬だけ視線を向けた。

 そこにはたくさんの人々がこちらを見ていた。頑張れと言ってくれる兵士や、祈るように手を合わせる人。事態を理解できていないのか、キョトンとこちらを見る小さな女の子だっていた。


 (仮に変異体になれたとしても……ここでは……)


 ジンは変異体になることを躊躇った。

 



 ――その迷いが、状況を最悪へと転がした。




 「――なるほど、人の目が邪魔という訳か。つくづく愚かだな、お前は」


 バスターがそう言った瞬間、ジンの視界から()()()


 「!?」


 軽いスパーク音が耳に届き、咄嗟にそちらを見るとそこには――



 「うぁ……お、お兄ちゃん……助け……」


 ついさっき見た小さな女の子が、人質に取られていた。その細く小さな首元には、今にも剣が――


 「――これがお前の迷いの結果だ。この子供は『お前が殺した』。流石は喰らう者(イーター)、人間を殺すだけの怪物だ」


 剣が振るわれヒュン、と風切り音が聞こえたように感じた。




 脳裏に焼き付いたあの姿が見える。

 喉を裂かれ、ヒュウヒュウと声にならない声で、何かを伝えようとしていたあの姿が。










 『……いいの? ここであの姿になっても。あの姿を見た人々は、きっと君を恐れるよ』


 いいさ。それであの子を助けられるのなら。


 『助けたこと、感謝なんてきっとされない。あの子の親にも、あの子自身にも』


 別に……感謝が欲しくて、助けるんじゃない。


 『じゃ、なんで助けるの? 知らない人でしょう?』


 ……。


 『当ててあげようか』


 なにを……?


 『あの日、君は全てを失ったね』


 『大好きだった人を、目の前で失ったね』


 『なのに自分だけ生き残ってしまった。まるでその命を踏み台にするみたいに、力まで手に入れちゃって』


 『――その罪悪感からだろう? 誰でも命を賭けて助けようとするのは』


 ……!!


 『彼らは死んで、自分は生きている。新しい街に行って、新しい仲間を作って』


 『辛い事はたくさんあった。死にかけたことだってあった』


 『それでも幸せだろう? だから君は自分を許せない』


 ……そう、だよ。姉さんを、みんなを救えなかった。だから俺は――幸せになる資格なんて、無い。


 『――何だっけ? たしか、喰らう者(イーター)のいない世界の先を……だっけ?』


 それは……。


 『ハハハ、よくもまあそんなことが言えたよね。結局、最初と何も変わらないじゃない』


 『今も前も変わらない。君はまだ、ただの自殺志願者だ』


 ……ハハ、参ったな。あの言葉は嘘じゃないけど……けど、人を助けるためなら、俺はきっと命を賭ける。


 でも、違うよ。もう自殺志願者じゃない。


 仲間がいる。刀也が、サラさんが、拳二さんがいる。


 マイルズさんが、アレックスが、スカーレットさんがいる。


 マクスさんが、ミシェルさんが、ボッシュさんやウェバーさん、他にもたくさんいる。


 それに、アームズがいる。まだありがとうを言ってない。約束も果たしてない。


 『……』


 命を賭けて人を助ける。

 けど、今はこんなにも生きていたいと思ってる。


 『……矛盾してるね。結局どっちなの?』


 それは……その答えは、君が見届けてくれないか?


 『?』


 ――この先ずっと、生き抜けるかどうか。

 どこかで死んだら、それは結局自殺志願者のままだったってこと。


 そしてもし生き抜けたら……それはそれで。


 ホラ、簡単な話だろう?


 『……フフ』


 『アハハハハハハ!! なにそれ、結局答えが出てないじゃない』


 ……そんなに笑わなくても。


 『でも……いいんじゃない。なら君の答え、最後まで見届けさせてね』




 その時、ジンの中で何かが()()()















 その刹那、バスターの顔面をジンの変異した左腕が捉えた。

 漆黒の拳が直撃し、バスターは吹き飛んだ。


 泣き叫ぶ女の子を変異したこの身体で傷付けないよう、優しく、優しく抱きかかえる。


 

 漆黒の身体、滲み出る紅き焔。

 例えるなら鬼か、悪魔か――


 ジンは、己の意思で変異体に姿を変えた。

 





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