歓喜、そして絶望
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ジンの本来の戦闘スタイルは、利き腕である右手に剣を。そして左手には散弾銃を持つ、ガン&ソードの構えだ。その組み合わせは特異なものであり、特に散弾銃はハンドガンなどとは違い射撃時の反動が強く、とても片手で撃てる代物ではない。また剣にしても、片手だけで自由自在に扱えるようになるには相当の修練を要する。
早い話、その構えは素人の思い付きでしかないのだ。……が、ジンは違った。その身に宿したべノムの力が彼の身体能力を飛躍的に高め、散弾銃の反動も剣の重量も片手での扱いを可能にした。そして幾度の格上たちとの戦いを経て、ジンは思考と共にそのガン&ソードの実戦スタイルを限りなく実戦的なものに昇華していく。
散弾銃に関していえば、元技術者としての構造理解と扱いの慣れ。剣術に関していえば、実戦に加え、短くはあったが神薙刀也との稽古が大きく糧になっている。
――そう。例え銃を失ったとしても、剣……もとい『刀』だけで、カテゴリーAの喰らう者と渡り合うほどに。
「グッ……こいつ……!?」
レイザーは金属質に変化した己の身体に刻まれた無数の刀傷から血を流し、苦悶してジンを睨む。
――違う。エリア2の研究所で戦った時とは、まるで違う。
あの時はアリゲイターとの2対1だったとはいえ、ほとんど戦闘不能まで追い込めたし、接近戦の打ち合いでも互角以上に戦えていた。それなのに、今は――
「――どうした、その程度か、レイザー」
「!!」
アイツが、言葉を発する。恐らく大して意味も無いであろう、単なる挑発の言葉。分かっているのに……いるはずなのに、一瞬にして頭に血が上る。立ち眩みを感じるほどに、底なしの怒りを覚えた。
ジンは敢えて、安い言葉でレイザーを挑発した。今までの戦いからしてレイザーは、この手の挑発に対して耐性が無いのは分かっていたからだ。以前に比べてどこかその殺気には歪みのようなものを感じるし、身体能力も全体的に上がっているようだが……それでも身体能力任せの単調な攻撃を誘えれば、今の俺なら確実に殺れる。そうジンは確信していた。
(大角や刀也との戦いで目が慣れたのか、それとも『あの姿』になったせいで更に強くなったのかは分からないけど……今なら、きっとやれる)
レイザーの次の攻撃は十中八九、直線軌道の突進だろう。ジンはそう予測し、集中を研ぎ澄ます。陽炎もそれに呼応するように、漆黒の刀身に真紅を滾らせる。
――瞬間、レイザーが凄まじい速度でジンに迫った。確かに速く、最短距離で首を刎ねる鋭い一閃だった。
(――けど……ビッグホーンに比べたら、この程度――!!)
ジンはレイザーの突進を完全に見切り、即座に陽炎を逆手に持ち替える。同時に爆炎を伴った踏み込みで、逆にレイザーとの距離を自分から詰めていく。
「喰らえ……溶断剣ッッ!!!」
すれ違いざまに、逆手持ちの一閃。斬撃の際に発生させていた爆炎を極限まで陽炎の刀身に留め、それをそのまま刀身の温度に変換した超高温の刀身による一閃、『溶断剣』。
その切れ味は凄まじく、レイザーの超硬度を誇る外皮をいとも容易く両断した。心臓付近の胸部、最も外皮が厚い部分を焼き切ったのだ。
「そん……な……」
レイザーは信じられない、と言わんばかりの表情を浮べ、突進の勢いのまま滑り込むように倒れた。血は一滴も出ない。断面は黒焦げに炭化し、即座に命を奪った。流石に心臓は喰らう者にとっても急所らしい。
「……」
ジンはピクリとも動かないレイザーを見下ろしながら、ただ立ち尽くした。
――ああ、勝った。思い付きの新技だったが……発想がシンプルな分、予想通りの成果だった。
「……っと、いけない。他に敵は……」
ハッと思いついたようにジンは辺りを見渡す。すると周りに敵は無く、代わりに目を丸くして自分を見つめる兵士たちの姿があった。
「あ、あの……?」
「う……う……」
「うおおおおおおおおおお!!!!」
「すげえなおい、あんちゃん!!!」
「わああああ、さすがジンさんだ!!!」
その瞬間、歓喜する兵士たちにジンはもみくちゃにされた。(アレックス含む)
「!?!? ちょ、ちょっと!?」
「流石はハウンドの数字持ちだ! あんな強い奴を1発とはな!!」
「凄すぎるぜ!! あんたがいりゃここも安全だな!!」
突然の称賛の嵐に困惑するジンだったが、なんとなく、気が緩んでしまった。
今まで殺伐としていた空気だったし、みんな怖い顔をしていたからだ。恐怖や怒り、或いは絶望を混ぜ合わせたような表情に、場は限りなく暗くなっていた。
よく見ると、病院の入口や窓から顔を出し、称賛の声を上げてくれている人たちもいる。
屈強な兵士に囲まれる中、ジンは思わず笑顔を浮かべた。
この人たちを助けることができて良かった、と。
「……負けたか、レイザー」
歓喜に沸き立つ人々を近くのビルの屋上から見下ろし、レイヴンはポツリと呟いた。
ジンへの復讐に憑りつかれた彼を、止めればよかったのだろうか。そうすればレイザーは、あんな無駄死にをせずに済んだはずだ。教授に何らかの施術をされ、ドーピング的な強化をしていたのにも関わらず、今のジンには届かなかった。
「……なぁ、どうすれば良かったんだ。あんなになってまで挑んだのに、あんな犬死にをする……止めればよかったのか」
「――否、お前がそこまでする必要は無い」
レイヴンの隣に立ち、そう言ったのはバスターだった。無表情を保ったまま、レイヴン同様に人々を見下ろしていた。
「……でも、レイザーはロゼの……」
「そうだとしても、奴が選んだ道だ。ならば最後まで見届けてやるのが、彼女のために出来るお前なり返礼だろう? 随分と優しいんだな、情報屋」
「……優しくなんかないさ……僕は、結局彼女の遺した2人を見殺しにしただけだった」
「……お前とロゼの関係に興味は無い。ただ……人間共が浮かれているのは、見ていて気分が悪いな」
「バスター……?」
「ジン……と言ったか。少し試す。お前は将軍の命令通り、エリア4へ行け。すぐに追いつく」
「はは……バスター、君は」
「勘違いするな。仇討ちなどではない。カテゴリーSと渡り合ったというその力、興味があるだけだ」
「分かってるよ。じゃ、また会おう」
「ああ」
「――!!!」
歓喜に沸く病院前、突然の殺気にジンは気付いた。しかもこの殺気には……覚えがある。
「来る……! みんな下がって!!」
ジンが叫んだその瞬間、鼓膜を破ってしまうのではないかという爆音が、地響きと共に到来した。落雷の音だと気が付いたのは、少し遅れてからだった。
「ッ……!」
凄まじい放電と共に姿を現したあの青年を知っている。輝く金色の髪と、透き通るような青い瞳。かつて手も足も出ず、ただ一方的に、たった一撃で倒されたあの喰らう者を。
「――喚くな人間共。お前たちの試練は、ここからだ」
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