Enemy-2
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――さながらそれは、爆発のようだった。
指令室のある最上階の外壁が砕け、瓦礫と共に血塗れの人が落ちてくる。それを遠方からスコープ越しに見ていたマイルズは、思わず目を疑った。
「拳二……!?」
「がっは……くそったれが……ッッ!!」
拳二は痛みに軋む身体を動かす。自由落下の中超人的な身体能力で体勢を立て直し、共に落下する瓦礫を蹴って着地を成功させる。
――だが、息をつく間は無い。
すぐ後ろから強烈な殺気を感じ、拳二はすぐに振り返るが――
「――っぐあっ!!」
顔面に拳打の直撃を受ける。ガードが間に合わず、拳二は吹き飛ばされる。
「へ……なんだ、こんなもんか? 結構期待してたんだけどな、ランク5」
拳二を吹き飛ばしたこの男。拳二の兄と寸分違わぬ貌をしたこの男は――
「くそっ……なんだお前は、何者だ、お前は!!」
「俺か? 俺の名は『拳王』。そう名乗っている。残念だが、お前の兄貴とは人違いだよ」
「ハッ……拳の王とはな、随分な名を名乗ってるじゃねぇか」
「そうでもないさ。ステゴロで俺に勝てる奴がいないってだけのことでよ。だから『王』を名乗るのは、当たり前のことだろう?」
「……野郎……」
拳二はただ拳王を睨み付けるのみ。
かつて兄が言っていた言葉とほぼ同じだ。同じ顔、同じ言葉。違うのは名前と、その瞳の色のみ。外見だけでなく、その戦闘スタイルまで同じだった。自分が憧れ、追い付き追い越したいと願い続けたその拳、それは余計に拳二を惑わせる。
(くそ……どうなってやがる!? 本当に兄貴じゃないのか……!?)
しかしそんな拳二の迷いを断ち切るように、地を抉るほどの銃撃が突如拳王に降り注ぐ。
「っとォ!?」
拳王は驚いたような声を上げながらも、余裕のある体捌きで銃撃を躱して見せた。一発でも被弾しようものなら喰らう者の肉体だろうと大きく削る、緋色合金の弾丸。アームズの放ったものだった。
「なんだよ、物騒だなぁ。全身ガチガチの機械鎧か、苦手なタイプだ」
「……」
低空で滞空しているアームズと拳王が睨み合う。躱したとはいえあの破壊力、拳王の顔つきが変わる。
拳二はそんな拳王の様子を目にし、慌ててアームズに駆け寄った。
奴と戦うのは俺だ。奴とは俺が戦う……!
「待てや機械野郎……奴とは、俺が……!」
「――いや、それはだめだ」
「――!? アンタ、いつの間に」
拳二の背後から不意に声をかけたのは、ランク2・ファングだった。
「君も分かってるだろう。奴は……格が違う。だが幸いこの場にはランク5、ランク3、そして僕も揃ってる。全員で掛かるよ」
「な……!? いや、でも……」
拳二は……頭では分かっていた。兄と瓜二つなこの男の正体も、それに固執する自分の意思も。今はそれどころではない。それどころではないのだ。今この瞬間にも、エリア1の住民たちは喰い物にされている。一刻でも早く、この混乱を終わらせて原因を突き止めなくてはならない。
「……そう……だな。確かにアンタの言う通りだ」
「……ああ、それでいい」
心底悔しそうな拳二の表情を見ながら、ファングは僅かに微笑んだ。
――そうだ、それでいい。ランク5・竹内拳二は喧嘩早く、短絡的な男だが……馬鹿ではない。少なくとも今の状況を理解し、私怨を捨てて正しい選択をすることができるほどには。
「ランク3、そういうことだ。いいかな?」
「……異論は無い」
話はまとまり、3人は並んで拳王と相対する。空気を焼くような殺気の衝突が場に満ちる。
「――ハハ、3対1か? それでもいいぜ。来いよ、ハウンドォ!!」
「ぐあああああああッッ!!」
「――なんだ……!?」
騒がしい病院の中までに響く叫び声。どうやら外からのようだが……。
「な、なに……?」
「奴らが来たのか……!?」
「うわああああん! 怖いよおかあさん!」
ジンは立ち上がって外へ出る。まだ身体は重かったが、動かずにはいられなかった。このべノムの感じ、覚えがある。
すると外にいたのは、金属質の表皮に覆われた一体の喰らう者だった。ここを守る兵士を刃状に変化させた腕で貫き、蹂躙するその姿。
「……レイザー」
「……アァ、ようやく見つけた。ここにいたか、探したよ」
もはや言葉は要らない。ジンとレイザーは互いに睨み合い、そして駆け出した。
――ただ殺す。二人の頭の中には、それしかなかった。
久々の更新です。仕事が忙しく中々執筆が出来ませんが、この先も頑張ります。どうか応援よろしくお願いします。