My ability
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波に揺れる船内。
その一角の飾り気の無い、如何にも軍隊らしい医務室にて、ジンは右肩の治療を受けていた。
その医務室にはジンと、治療処置を手慣れた手つきで行う刀也。そして2人とは離れた位置に少しだけ顔色の優れないサラが居た。
「これは、驚いたな……」
胴体に刻まれた大きな一文字の刀傷。
ついさっきまで血を流していたその傷が、既に塞がりかけていたのだ。
(しかし流石に噛みつかれた右肩、自傷した腕の傷は深いが……既に出血はかなり抑えられている。完治まではそう時間を要しないだろう。ならば、簡単な処置でも大丈夫か)
刀也は先に右肩・右腕の傷口を消毒し、適切な応急処置を施しその上から丁寧に包帯を巻いていく。
そしてこれにはジンも同様に驚愕しており、開いている左手で刀傷に触れる。
――否。既に『傷痕』と言っても過言ではない状態まで回復していた。
「あの時も思ったけど……この急激な治癒力も、喰らう者の力の一端なのか?」
そうジンが呟くと、右肩の処置を終えた刀也が、医療用の資材を棚に戻しながら話しかけてくる。
「その状態ならば、刀傷に処置は不要だな。右肩の噛み痕と、腕の刺し傷は流石に塞がってはいないようだが、時間の問題だろう」
刀也はジンの正面に座り、真剣な表情で話し続ける。
「――さて、聞きたいことは山ほどあるが……まずはジン君、自己紹介だ。俺の名は『神薙刀也』と言う。
最初に謝罪をさせてくれ。敵意の無い君を、一方的に喰らう者と決め付け斬ってしまったこと。済まなかった」
そう言って刀也は深々と頭を下げた。
ジンは今までの人生で、誰かに真剣な謝罪……ましてや頭を下げられた経験が無かったため、どう対応して良いか分からず、ただ困惑し口早に言葉を述べた。
「い、いや……さっきも言った通り、俺が喰らう者の力を持っていたのは事実です。ですから、どうかそんなに頭を下げないでください。もう剣を向けないでくれれば、それで十分ですから」
「……そうか。そう言って貰えると、俺としても罪悪感を感じずに済む。有り難い限りだ」
頭を上げ、刀也はジンに微笑みながら言葉を返した。
2人のやり取りを見ていたサラは、ゆっくりと2人の方へ歩きながら、低い声で会話に入っていった。
「……では、私も自己紹介を……私の名前は……『サラ・アールミラー』……サラと呼んで下さい……」
ジンの目から見て、サラは明らかに様子がおかしかった。
「では、サラさんと……。凄く調子が悪そうだ。まさかさっきの戦闘で負傷を?!」
そう考えたジンは、慌てて心配そうに声を上げたが、その声に応えたのはサラではなく、刀也だった。
「――ジン君。彼女は大丈夫だ」
ジンの心配とは裏腹に、刀也は何処か楽しそうな笑みを浮かべている。
「で、ですが刀也さん。顔色も悪いし、明らかに様子が……」
「クク……問題は無い。彼女は、酷い船酔いなだけだ」
「……え」
ジンは本気でサラを心配していたため、その解答には肩透かしに近いような、何とも言えない感情を抱いた。
「ジン君……お見苦しい所を見せてしまってごめんなさい……うう」
そう言ってサラは口元を手で軽く押さえながら座った。
今にも戻してしまいそうな様子だが、何とかサラは声を捻り出して問いかける。
「ですが……話は聞いておかなくてはいけません。あの街の惨状のこと、そして君の『力』のこと」
「うむ。それには俺も同意見だ。どうか俺達に、聞かせては貰えないだろうか
刀也は微笑んだ表情を真剣なものに戻し、ジンの目を真っ直ぐと見据える。
港で対峙した時の殺気を纏った視線とは違う、敵意の無い、優しさすら感じる視線だ。
そしてそれは、顔色の悪いサラも同じであった。
「もちろん話します。あの日……俺は、あの、時は……」
――ジンの言葉が詰まる。
あの日の光景が克明に、どこまでも生々しくフラッシュバックする。
(声が……どうして……)
なかなか話を始められないジンの様子を見て、刀也もサラも一瞬で理解した。
彼は、地獄を味わったのだと。
(船酔いなんかしてる場合じゃない。何とか勇気づけてあげなくちゃ)
サラは素早く立ち上がり、ジンの傍へ歩み寄った。
「ジン君、大丈夫だよ。もうここは海の上……エリア1に向かってる船の中。ここには君だけじゃなく、頼れる高位の『数字持ち』がいるんだし。それに……」
サラはジンの両手を強く握る。港で必死に語りかけた、あの時と同じように。
「私も君を守るよ。君に命を救って貰ったんだから、私だって命を懸ける。だから――」
その真摯で、どこまでも優しい言葉に胸を打たれ、ジンがサラの顔を見上げたその瞬間の事だった。
――サラが酔いに耐え切れず、戻した。