Reverse-4
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強烈な拳打が喰らう者と化した兵士の吹っ飛ばす。壁にぐしゃりと叩き付けられた兵士は、首が1回転するほどの一撃を受け即死していた。
が、敵は絶え間なく襲い来る。自我を完全に失った彼らは、もはや本能的な恐怖の感情も無いのだろう。
「――クソ、キリがねぇ!」
拳二が吐き捨てるように言った。
素早い身のこなしで攻撃を躱し、カウンターで拳を正確に叩き込んでいく。
――否、こんなものは攻撃ですらない。ただ捕食するためだけに飛びかかってきているに過ぎない。
「我々は内部の敵を殲滅しつつ、最上階を目指そう。外はマイルズたちに任せればいい」
苛立つ拳二に対し、マクスが言った。
マクスは拳二の後衛に徹しつつ、大型拳銃で正確に兵士の頭を撃ち抜く。
そうして死体を跨ぎながら、2人は奥へ上へと進んでいく。
「へッ……マクスさん、こんな現場に来なくたっていいんだぜ。病院に残ってた方が……」
「いや、幸いあそこには喰らう者に変わっていない兵士たちが集まってくれた。防衛軍の兵士ということで練度の不安はあるが、人員は十分。任せても問題無いだろう。
それに……アーロンの無事をこの目で確かめたい」
「……なぁマクスさん。アンタと元帥との関係ってのは、なんなんだ? 元々軍にいたってのは聞いてるが……」
「……ハウンドの生い立ちは知っているだろう。古いメンバーはそのほとんどが元正規軍所属の兵士たちだ。もちろん、僕も例外じゃない。マイルズだって――」
「――っ!! 後ろだマクスさんッ!!!」
拳二が叫び、すぐさま飛び出すが――間に合わない。2人が進んでいく中、死角に潜んでいた敵の存在に気付けなかったのだ。
「ォアアアアアアッ……アア……ァ?」
奇声を上げながら飛びかかって来た兵士の首がゴトリ、と落ちる。まるで首が落ちたことに気付けないかのように、兵士の首は血を吐きながら奇声を上げ続けていた。
頼りない照明の下、薄暗い通路に鈍く光る短刀がそこにあった。
「ボス……それに拳二君も。いくら僕が後ろを固めているとはいえ、不用心ですよ」
短刀と共に現れたのは、ランク2・ファングだった。
「ありがとうファング、助かった」
「……チッ、正直今のは俺も不意を突かれてたぜ。済まねぇ」
「素直でよろしい。最上階の指令室まであと少しです、気を抜かないよう」
「わーってるよ、急ぐぜ」
拳二はファングの分かりきった忠告にイラつきながらも、それを素直に聞き入れる。
性格的なウマはそもそも合わず、そうでなくともジンを軍に売ったのはゴライアスとファングだと聞いている。それもあって拳二にとってファングはかなり嫌いな部類に入る人物だったが……それ以上に、拳二はファングの実力を認めていたのだ。
なぜ拳二がハウンド内において、近接戦闘においてはゴライアスに次いで『2、3を争う』という評価を受けているのか。それはひとえにこの男に原因がある。
闇に紛れる灰色の双短刀を中心に、銃器や爆発物など多種多様の武器を使い分ける柔軟で非道とも言える戦闘スタイルが特徴で、特に得意としているのは戦闘すら起こさない『暗殺』だ。
それでいてあらゆる戦闘技能に通じる達人でもあり、メインウェポンである双短刀だけでも拳二と互角に渡り合うだけの実力を持っている。
本当は気に食わないところだが、そんな実力者に後ろを固めて貰っているのだ。今は状況的にも私怨で行動を左右すべき時ではない。
ただ、ひたすらに前進あるのみだ。
「――病院……やっと着いた! ジンさん、こっちに」
ジン、アレックスらの4人はようやく第2層にある病院に辿り着いた。道中数体の喰らう者化した兵士に遭遇したが、アレックスのお陰でなんとか切り抜けることができた。
アレックス自身は数字持ちではないが、流石はランク3の私兵なだけはある。
ジンは病院のロビーに座り込む。既に院内は人で溢れており、ソファーなど空きがある筈もなかった。
「っ、はぁ……アレックス、それにお二人も……本当に助かりました」
「ふぅ……なに、大したことではないさ。私たちも軍人だ」
「そうそう、それに君への借りの方が何倍も大きいしね」
「……名前を聞いてもいいですか? これだけお世話になっておいて……俺はまだ、あなた達の名前を知らない」
ジンは乱れた呼吸を少しづつ整えながら、兵士2人に聞いた。
「ああ、そういえばまだ名前を名乗ってはいなかったか。私は『ウェバー』という」
「俺の名は『ボッシュ』だ。今更感はあるが、ヨロシクな」
ウェバー、それにボッシュ。
牢獄の中、直接パンを食べさせてくれた聡明そうな兵士がウェバー。そして監視カメラに細工をして食事の時間を誤魔化してくれていた、少し頼りなさげで軽そうな兵士がボッシュだ。
「ウェバーさん、それにボッシュさん。改めて……本当にありがとう。あなた達のお陰で俺は生きていられました」
「……礼には及ばない。結局のところ私たちの行為は中途半端な偽善でしかないし、ボッシュの言う通り君への恩の方が遥かに大きいからな」
「そうそう。ホントに大したことないって」
「いえ、そんなことは……」
しかしここでジンは口をつむぐ。
これは……堂々巡りの予感。刀也やマイルズさんにも「行き過ぎた謙虚さは失礼」的なことを言われてたような気がする。
そんなことを考えていると、いつの間にかウェバーとボッシュが立ち上がり、どこかへ行こうとしていた。
「2人とも、どこへ……?」
「どこって……決まってる。ここの守りを手伝うのさ。見た所兵士の数もそれなりだが、やはりこの規模の施設を警備するのにはまだまだ人手不足だろう」
「モチロン、キミはそこで休んでるんだぞ。ここで無理されちゃ連れてきた意味が無いからな」
2人はそう言って病院の外へ出て行った。
すると横にいたアレックスも慌てて2人を追いかけて行った。
「お、俺もまだ全然元気なんで! 手伝ってきます!」
「……」
……1人になってしまった。いやだからなんだという話ではあるが。
ジンは深く息を吐き、寄りかかっている柱に後頭部を預ける。
(お言葉に甘えて……少し休もう。いざという時に備えて……ん?)
ふと見慣れない物が目に入った。湾曲した板のようなものが人の足の代わりに付いている。十中八九義足の類だろうが、人の足の形からは随分逸脱している。
(めずらしい形だな……忙しそうに歩いてる。すごいな)
よくあんな義足で動けるものだと感心していると、ふとその義足の主がジンに振り向いた。
(――え)
「あれ……ジン君……?」
ジンの名を確かめるように呼んだ、義足の主。
見間違えるはずもない。彼女の足は奪ったのは、他でもないジン自身の無力だったからだ。
「ミシェル……さん……!」
ミシェル・マローン。
義足の主はエリア5の前線基地で出会った、彼女だった。