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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-9 Paradigm shift
117/135

Reverse-3

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 アレックスの持ってきた鍵により、ジンを繋いでいた鎖はようやく外れた。

 ガチガチに固まった身体を引きずるように歩き、ようやく外の景色を見る。空を遮るものが多く、潮の香りがする事から、最下層である第4層ということが分かる。恐らくはバーテクス正規軍の軍港だろう。

 

 「これは……!? 一体、何が起きてるんだ!?」


 ジンは思わず目を疑った。

 あれだけ綺麗だったエリア1の街並みは、まるで戦場のようになっていたのだ。街の至る所から火の手が上がり、絶え間なく人々の叫び声が響いている。

 何か恐ろしいモノから逃げるような、恐怖に塗りつぶされた叫びだ。


 「――!! ジンさん、来ます……!」


 そう言いながら、アレックスが銃を構えた。

 その銃口の先には、バーテクス正規軍の兵士がいた。おそらくは街を巡回する兵士だろうが……何やら様子がおかしい。


 「……ァ……ヒト……ヒ……ト……ヒト人ヒトひとひとひとひとひとヒト」


 言葉を忘れてしまったかのように、狂ったように兵士は同じ言葉を繰り返す。口元に付着したおびただしい量の血、確かに感じるべノムの感覚。


 ――『それ』を目の前にすれば、教えて貰わずとも(わか)る。(わか)ってしまう。


 「ヒトオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」


 兵士は絶叫しながらこちらに迫った。

 ……が、しかしその瞬間兵士の頭は破裂音と共に弾け飛んだ。頭蓋骨の破片と脳髄、眼球……まるで熟れたトマトを潰したかのようだった。


 「……」


 アームズの持つ銃が硝煙を上げていた。

 たった1発、しかしあの有様だ。その破壊力はさながら大口径のライフルに匹敵するのだろう。


 ジンは堪らず尋ねた。何が起きているかはおおよそ見当が付いているのにもかかわらず、聞かずにはいられない。


 「……アームズ、今の人は――」


 「――人じゃない。もう人じゃない……そうでしょ?」


 ジンの問いにアームズは食い気味に答えた。まるで自分に言い聞かせているようだった。


 













 ――現状はアレックスが説明してくれた。

 突如としてバーテクス正規軍の兵士たちが発狂し、人を手当たり次第喰らう暴徒と化したと。実質的な街の治安維持をしていた組織だけあって、その混乱と被害は限りなく大きいようだ。

 現在は正気を保ったままの正規軍兵士とハウンドのメンバーで人々の救助・避難と暴徒の()()を行っているという。


 「バーテクス正規軍の反乱……いや、反乱というよりは兵士の豹変でしょうか。とにかく、ホントにまるで喰らう者(イーター)みたいに」


 「人の喰らう者(イーター)化……間違いないだろう。アレックスも見ただろ。あの研究施設で俺が倒した女の子。さっきの兵士、まるで一緒だった」


 「喰らう者(イーター)化……! そんなことって……」


 「考えるのは後だ。とにかく、今は動こう。何とかみんなと合流しなくちゃ」


 ジンはそう言って動こうとするが、ガシっと腕を掴まれた。アームズだ。


 「アームズ?」


 「マクスから、ジンを確保したら第2層の病院に連れて行けと言われてる」


 「病院……そこにみんないるのか?」


 「みんなは最上層の正規軍本部に。暴徒の巣窟になってるからそこを潰せばきっと……って」


 「なら、俺も本部へ行くよ。こんな状況なんだ、俺も戦わないと!」


 ジンはアームズの腕を振り解いて上層に向かおうと駆け出すが、すぐにガクンと膝を付いてしまった。うまく体が動かず、呼吸もし辛い。


 「あれ……なんで……」


 慌ててアレックスと看守がジンに駆け寄る。


 「ジンさん! 大丈夫ですか!?」

 「無理だジン君、君はもう2週間は動いてないし、まともな食事も摂ってない。そんな状態じゃ……戦えっこない」


 2人に肩を借りてジンはようやく立ち上がる。肩を借りなければ、歩く事さえ難しい。


 「でも……こんな状況で、俺は――」


 「――何も出来ない、訳じゃない」


 ジンはアームズの言葉に顔を上げた。

 するとそこには、ジンの得物である『陽炎(かげろう)』が差し出すアームズの姿があった。


 「……ジンの武器、ちゃんと拾っておいた。病院は今、保護した人たちの避難所になってる。あそこには動けない人も多いから。だから、行って守ってあげて」


 「アームズ……」


 「本部を潰せば一網打尽、きっとこの混乱もなんとかできる。だからそれまでの間、役割分担。病院には足を失くしたあの人、それにランク11もいると聞いてる」


 「……!」



 「じゃ、私は行く。


 ――またね。きっとまたね、ジン」



 アームズはどこか惜しむように言った後、爆発的な加速を以ってその場から飛び立った。


 「……分かったよ。確かに、任された。行こう、アレックス、兵士さんたちも」


 「へへっ、了解です!」


 「ああ、私たちも行こう。私たちは幸い正気のままのようだしな」

 「あんな化物にはなりたくないなぁ……」


 こうしてジンとアレックス、そして看守だった兵士2人は、第2層の病院へ急ぐ。


 


 


 



 

 






 「――元帥、ここも限界です。残念ですが……離脱しましょう。本部を捨て、ハウンドの一団に合流。その後は速やかに敵を殲滅しなくては」


 バーテクス正規軍本部、総司令室。

 エリア1の街並みを見下ろすことの出来る大窓があり、それを見つめるアーロンの背中にディバイドが声をかけた。ディバイドは幾らかの返り血を浴びていたが、ほとんど無傷の状態だった。


 「現存の防衛軍はそのほとんどが壊滅……いえ、ほとんどが喰らう者(イーター)になったと」


 「そうか……」


 「ですが、生き残って今も戦う兵もいるようです。本来であれば防衛軍を指揮する立場の者がいるはずですが……いやはや、見事なものです。事態発覚から1時間としない内に全員がエリア4へ逃げ出した」


 「……」


 「この騒動も結局はハウンドが解決するでしょう。原因はともかく……これを機に、軍の主権をエリア5の駐屯軍側に移したらどうでしょうか。ここの連中は、ハッキリ言って屑しかいませんよ」


 「そうだな……」


 「私であれば……いえ、私以外でもエリア5の将校たちであれば、民を見捨てて逃げ出すような事はしない……!!」


 ディバイドはそう言って血が滲むほどに拳を握り締める。


 すると不意に、アーロンがディバイドに向き直って言った。


 「なぁディバイド。人間とはなぜこうも卑しくなってしまうと思う? 元の志は同じはずなのに」


 「……元帥?」


 「答えは、弱いからだ。弱いから、力を持たないから外道に墜ちる。お前ほどの力があればよかったのに」


 コツ。コツ。と音を立てて、ゆっくり歩きながらアーロンは語る。

 切羽詰まった状況にこの行動、ディバイドはアーロンの意図が分からず、ひとまず答えることにする。


 「元帥……お言葉ですが、人は誰もが強く在れる訳ではありません。弱きものを守るのも、また我々バーテクス正規軍の使命です」


 「フフ……いい答えだ。その通り、人は皆お前のように強くはなれない」


 「……」



 「――だがな。私の答えはこうだ」



 アーロンは銃を取り出し、真っ直ぐにディバイドを狙う。

 緋色合金で造られた、バーミリオン社製の大型拳銃。いくらディバイドほどの達人とはいえ、この近距離で銃弾を躱すことなどできはしないし、狙いを外すのにも期待はできない。

 それは、ディバイド自身が良く知っていた。銃の扱いを教えてくれたのは、他でもないこの人なのだから。


 「……元帥……いや、アーロン。何故ですか」


 「弱き者の為に強き者が損をするのは、おかしなこととは思わないか。強き者だけが生き残れば良い。もっと言えば、強き種が人間にとって代われば良いのだ。新人類としてな」


 「……何を、言っている……?」


 「分からんか。無理もない、この身体を持たぬお前には」


 アーロンの瞳の色が変わったことにディバイドは気付く。

 飽きるほどに見た、忌々しい紅色(あかいろ)



 「……あなたは……誰だ……?」



 「アーロンだよ、ディバイド。孤児だったお前を拾い、育てた。お前の父親代わりのな。

 ――もっとも、今は『将軍(ジェネラル)』と呼ばれることが多いがな」




 重い銃声が響く。

 恐慌する街の中、その音は誰の耳にも届かない。


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