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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-9 Paradigm shift
116/135

Reverse-2

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



――数時間前。


 エリア1の往来にて、フラフラと歩く者の姿があった。バーテクス正規軍の巡回兵だった。

 

 (くそ、別に昨晩酒を飲んだわけじゃないのに……なんかの病気か……?)


 時刻はちょうど昼頃。往来の人通りもかなり多い。

 情けない話だが、体調不良ということで一度病院へ行こう。早上がりするならタイミング的にもちょうど良いだろう。

 そう考えた巡回兵は本部に戻ろうとしていたが、不意に何かが足元にぶつかった。


 「いてっ……」

 「あっ……ごめんなさい、兵隊さん」


 小さな女の子だった。ぶつかってしまって自分も痛いだろうに、まず謝れるとはとても良い子だ。

 巡回兵はしゃがんで女の子の頭をなでる。


 「ははは、大丈夫だよお嬢ちゃん。子供は元気が……一番……あれ」


 その時、急な眩暈が巡回兵を襲う。

 女の子に触れた途端、眩暈だけでなく一気に身体の感覚も鈍くなってしまった。

 

 女の子の頭をなでる、なでる、なでる……徐々にその力は増していき、己の意思とは関係無くどんどん手つきが乱暴になっていってしまう。


 「い……痛いよ、兵隊さん?」


 (あれ……あれ……? 何やってんだ、俺は……)


 眩暈は止まらず、意識が薄れていく。

 それなのに身体は動く。感覚も無いのに、薄れゆく意思に反して勝手に動く。顎が外れるほどに口を開き、女の子の細い首に近付けていく。


 (やめろ、やめろ、やめ――)


 








 グチャリ、グチャリというみずみずしい咀嚼音と共に、噴水のように噴き出る血が巡回兵を汚す。

 巡回兵は人通りの多い往来のド真ん中で、女の子を()()()()()


 















 ――真っ黒な鎧、各所に備えられた推進装置が火を噴きながら、壁をつき破ってそのまま滑るように移動していく。


 「な……なんだこいつは!?」

 「こいつは確か……ハウンドの……!」


 重装備の兵士達が慌てて銃を向けるが、間に合う訳がない。何の前触れも無くいきなり牢獄の壁をつき破ってきたのだ、驚かず迅速に対応するのは不可能だ。


 アームズはそのまま速度を緩めず兵士達に接近し、手に持った大型の銃器で殴りつけた。


 「っぐあ!!」

 「くっ、この――」


 1人が一撃の下に昏倒し、残ったもう1人が抵抗しようとするが……。


 「――がっ!!」


 推進装置による驚異的な加速を活かした、猛烈なタックルが炸裂した。兵士は吹き飛ばされ、壁に叩き付けられてそのまま夢の中へ。2人の重装備の兵士を無力化するまで、わずか2、3秒といったところだろうか。

 その次元違いの力を前に、ジンも看守たちも思わず唖然としてしまっていた。

 

 ジンは我に返り、慌てて声をかけた。


 「ア、アームズ……?」


 アームズはジンの言葉に反応せず、銃を持ち変えて右腕に内蔵されたブレードを展開した。

 そしてそのままジンの腕を拘束する鎖にブレードを叩き付ける。鼓膜が破れてしまいそうなほどの衝突音が響く。


 だが、鎖は断ち切れない。喰らう者(イーター)の拘束に使用しているのだ、十中八九この鎖は緋色合金製。同じ緋色合金製のブレードだとしても、容易に切断することは出来ない。

 

 「待ってて。すぐに……すぐに助けるから」


 アームズはそう言って何度もブレードを叩き付けた。表情はアームドアーマーを纏っているゆえ見ることは出来ないが、その言葉からは焦りのようなものを感じた。


 「アームズ! なんでこんなことを……正規軍を敵に回すつもりなのか!?」


 ジンはもはや人ではなく、実験材料のモルモットとして生かされていたに過ぎない。用済みとなった今、処分されるのは道理だった。それをこんな強引なやり方で開放してしまえば、それは人類への反逆とみなされてもおかしくない。

 いくらランク3とはいえ、処刑は間違いないだろう。


 しかしアームズは手を止めずに言った。


 「ジンを助けるためなら構わない……けど、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。外は大変なことになってる」


 「外……? 何かあったのか?」


 「うん……だから話は後。今は早くここから出ないと。このままじゃ危ない」


 (あのアームズがここまで言うなんて……一体、外では何が起きてるんだ?)


 アームズはその後も鎖にブレードを叩き付けたが、やはり鎖を断ち切ることは出来ない。

 手を止めて焦燥を滲ませた声で呟く。


 「これじゃダメ……何か他に手は……」




 



 「――これなら、どうっスかね?」


 鍵を鳴らし、そう言いながら牢獄に入ってきた者がいた。声変わりして間もない、まるで少年のような声だ。


 「……!!」


 アームズが声を聞くなりすぐに銃を向けたので、ジンは慌てて声を張ってアームズを制止する。ジンはその声の主を知っていた。


 「待ってアームズ! 彼は正規軍の兵士じゃない」


 「……ジンの知り合い?」


 アームズは素直に銃を下ろしてくれた。何とか間に合ったようだ。


 「ああ。でも驚いた……何故ここに?」


 「ここに捕まってるって聞いて。流石に迷ったけど……やっぱりいてもたってもいられなくなって。

 ――俺も助けに来ました、ジンさん」


 ジンの拘束を解くための鍵を持ってきたこの少年、忘れるはずもなかった。

 少年の名はアレックス・マグレディ。エリア2で共に戦った、マイルズの部下の1人だった。


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