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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-9 Paradigm shift
115/135

Reverse

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 ――あれから何日経っただろうか。

 『サンプル採取』の名目で来る日も来る日も血を抜かれ、肉を削がれた。


 看守が監視を誤魔化し、その都度食事を持ってきてくれてはいるが……治癒の速度は間に合わず、ジンの身体には生々しい傷跡が増えていった。

 



 「――今日はここまでだ。しかし本当にはかどっているよ。君のお陰で私の夢がようやく見えてきた。そうなればもう……ククッ、聞こえていないか」


 今日もまたグレッグ・ジャクソン博士がジンの牢獄に訪れ、『サンプル採取』を実施した。採血に加え皮膚組織、筋肉組織、果てには骨組織まで。ジンは胸部を肋骨が露出するほどに抉られていた。


 「……う……あ……」


 「ククク……ではさらばだ。これで上手くいけば、君を()()()()()()()。待っていたまえ」


 話すことの出来ないジンに対しグレッグは一方的に言い残し、そして去っていった。




 ――数時間が経過した。窓の無い牢獄では時刻など分かりはしないが、周囲から僅かに届いていた音が聞こえない事から恐らくは深夜帯だろう。

 看守がジンに食事を持ってきた。持ってくるものは毎回同じで、パン1つとコップ1杯分の水だった。


 「――ジン君、毎回こんなもので……すまない」


 「いえ……助かっています。おかげで今日も生きられます」


 毎回同じように看守にパンを食べさせてもらう。手足の拘束は今も解かれないままだった。

 どれだけ質素なものだろうと、食事は食事。この身体はきっとカロリーさえあれば正常に働くのだろう。その証拠に、失血と傷の痛みで朦朧とした意識がどんどん冴えていく。


 ここでようやくジンはまともに思考を巡らせることができる。今日の去り際に口にした、グレッグの言葉。ジンはそれが引っかかっていたのだ。


 (今日の博士のあの口ぶり……どういうことだろう)


 ――グレッグ・ジャクソン博士。その名は間違い無くサラの引き出したデータにあったもので、すなわちあの悪趣味な研究所に関係するものだ。否、関係というような生易しいものではない。何故ならグレッグの名は、そこで行われていたであろう研究プロジェクトの責任者として記されていたのだから。


 (あそこでやっていたのは……確かプロジェクト・リバーシとかいう名の実験。人間の子供を喰らう者(イーター)に作り替える、非人道的な人体実験だ。そんな実験を主導していた人物の夢が見えてきたとなると……)


 ジンは数少ない情報を頭の中で整理し、仮説を組み立てていく。


 1、グレッグ・ジャクソンは人間の喰らう者(イーター)化を目的とする人体実験を主導している。

 2、俺の体組織を採取することで、『夢がみえてきた』と言った。

 3、彼の研究施設にてレイザーやアリゲイター、レイヴンなどスティールの面々と遭遇、戦闘になった。そしてその後、施設はスティールによって破壊された。


 そう、破壊されたのだ。あの時はバスターの圧倒的な戦闘力にただ驚くばかりだったが、まるで証拠を残さぬように、微塵も無く破壊された。バスターを含むあの4体はそのためにあそこへ来たのだとしたら?

 

 (グレッグ・ジャクソンは……スティールと、喰らう者(イーター)と繋がってる……?)


 ジンは不穏な仮説を立ててしまう。

 スティールとの遭遇は偶然かもしれないし、実験だってもしかしたら喰らう者(イーター)研究の単なる一環に過ぎないかもしれない。

 しかし、もし仮にその実験を完成させた場合、一体何が起こるというのか? 一体何が目的なのか? 結局のところ確証は無く、何一つグレッグの目的など分かりはしない。

 今はただ、ひたすらに不安を覚えるばかりだった。

 















 ――真夜中、グレッグ・ジャクソンはトランクケースを手に空輸機に乗り込もうとしていた。

 空輸機のエンジンは既に始動しており、轟音を放つ。


 「――君の計画通りに動く。()()()は既に防衛軍の大半に投与済みだ」


 グレッグが空輸機に乗り込む直前、声をかけた者がいた。見送りに来ていた1人の男だ。


 「ああ、いよいよか」


 男は楽しそうに声を弾ませて言った。口角がつり上がり、表情からしても心底楽しそうだった。


 「クク……しかしいいのかね? 仮にも君にとっては仲間だろう」


 「構わんさ。今となっては『人間』など、固執するのも馬鹿らしい。強き者だけが生き残る、正しき世界を創っていくべきなのだ。……それに、もう我慢できんよ。私にも確かに聞こえる。『母』の声が頭の中を満たすのだ」


 「そうか、ならば何も言うまい。ではな、『将軍(ジェネラル)』。もう会うことは無いだろうが、私の成功例第1号として、せいぜい奮闘したまえ」


 そうしてグレッグを乗せた空輸機は飛び立った。遠ざかり、徐々に小さくなっていく機体を見上げ続ける男は小さく、やはり楽しそうに呟いた。


 

 「奮闘するとも……『教授(プロフェッサー)』。あなたの言う通り、明日世界はひっくり返る」



 男の名は『将軍(ジェネラル)』。またの名を、アーロン・ジョンソン。















 ――翌日、ジンに対してサンプル採取とやらは行われなかった。

 グレッグの代わりに牢獄を訪れたのは、重装備の兵士が2人と、拘束された看守が2人。拘束されているのはジンに食事を与えてくれたあの兵士と、監視カメラを細工していたという、エリア3で救ったもう1人の兵士だった。

 

 「――この2名が監視を誤魔化し、お前に食事を与えていたことが判明した。よってこの2人は処刑となるが……言い残すことはあるか」


 「……!!」


 重装備の兵士が口にしたこの事態。それでジンは全てを察した。


 (そうか……『楽にしてやれる』っていうのは……)


 要するに、もうサンプル採取の必要は無く、自分は用済みだということ。早い話がグレッグの研究の完成を意味していた。

 ジンがこの2人を犠牲に出来る性格でないことを、グレッグは見抜いていたのだ。


 「……2人に罪はありません。俺が、脅迫しました」


 「それは本当か?」


 しかしそこで拘束された看守が叫ぶ。


 「違う! 我々は自分の意思で――」


 「――本当です! 俺が……俺が2人を脅し、強制させた。その2人は無実だ」


 ジンは聞く耳を持たない。看守の言葉を遮るように言葉を重ねた。こう言う以外に選択肢など無かった。



 「そうか。では……処刑はこの2人ではなく、お前だ。我々はお前に対し、生殺与奪の権利を許されている。今ここで、銃殺する」



 鉄格子越しに、ジンは銃を向けられる。

 ああ、見間違えるはずもない。バーミリオン社製の、緋色合金を使った汎用ライフル。エリア3にいた頃、飽きるほどに整備したあのライフルだ。


 (結局……ビッグホーンの言った通りか。アームズ、約束守れなくてごめん)


 ジンは目を閉じ、死を覚悟した。

 今にもライフルの引き金が引かれようとしたその時――



 ――黒き鎧が、牢獄の壁を突き破って姿を現した。


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