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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-9 Paradigm shift
114/135

Fragment

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 ハウンド本部。

 お馴染のソファーに転がされた拳二は、オリバーとモーリスから傷の治療を受けていた。


 「いってえええ!! くそっ、もうちょい丁寧にやれよ!」


 「るっせーな、ただの擦り傷で大げさなんだよ」


 拳二が涙目で訴えるが、オリバーは半笑いのまま意にも介さない。オリバーらしい、多少雑ではあるが的確で手際の良い応急処置だ。それが分かっているのでマイルズはもちろんのこと、モーリスですらオリバーの治療を咎めることは無かった。

 治療も一段落したところで、マイルズが拳二に声をかけた。


 「――それにしても、随分派手にやられたなァ。どうだった、『騎神』は」


 「……どうもこうもねぇよ。噂通り……いや、噂以上の強さだったな、あれは」


 一度気を失ったのが響いたのか、拳二はある程度の落ち着きを取り戻していた。かなり不本意そうな態度だったが、ディバイドの実力は素直に認めているようだった。


 「そうだなァ。ディバイド・ピッペン……あのゴライアスに次ぐ、人類屈指の実力者だ。むしろあそこまで打ち合ったお前が凄いよ」


 「ケッ、見え見えの世辞はやめろや。気にしなくても、落ち込んじゃいねぇよ」


 「フハハハハ! そうか、悪かったな」


 マイルズはどう見ても強がっている拳二に笑いながら、少し考え込む。


 ――ディバイド・ピッペン。身の丈以上もある大槍を軽々と扱い、力と技の融合した『武』を極めた男として、その名は轟いている。バーテクス正規軍の発足する前からエリア5に住み付き、喰らう者(イーター)と戦っていた戦闘民族出身の兵士だが……特筆すべきは戦闘力だけではない、という所にある。

 限られた武器・人員・物資で確実に戦果を挙げる高い指揮能力。そしてエリア5の厳しい風土でも士気を高く保つ統治能力。簡単に言えば、カリスマ性というものだろう。あの実力に加え、そんなものを併せ持っているのだ。

 正に軍神……と言いたいところだが、彼はエリア5では好んで馬に騎乗する事でも知られている。そんな彼はいつしか『騎神』の渾名で呼ばれるようになっていたという。


 そう、ディバイドとはあらゆる面で完璧な男だ。正面から当って勝てるのは、それこそゴライアス以外にはいないだろう。そんな相手に拳二が戦いを挑んだ理由……それは。








 会議中にマクスの下に届いた映像。その映像は一部始終を映していた。

 ビッグホーンがジンに致命傷を与え、その後ジンは突如として変異体に姿を変える。そして熾烈な戦いを繰り広げた後、最後の最後でビッグホーンに敗北する。映像はちょうどそこで途切れたが、戦いは終始変異体になったジンの優勢であり、互角以上に渡り合ったと言っても過言ではない内容だった。


 そして正規軍の下した判断はこうだった。変異体への変貌を遂げたランク23は正規軍が身柄を拘束、然るべき調査を実施した後、()()()()、と。


 それを聞いた瞬間、拳二が元帥に殴りかかったのだ。ディバイドが即座に取り押さえたが、拳二はそこである提案を持ちかけた。

 

 『――ふざけんじゃねえ……なら勝負しろよ。俺が勝ったらジンを解放しろ……!!』


 意外にも元帥はこの話を快諾したが、絶対的な信頼があったのだろう。正規軍側が出したのは当然ながら軍最強の使い手、ディバイドだった。


 そして、今の状況に至る。















 「――なァ小僧。今のお前じゃ敵わない相手なのは、分かっていただろう。それなのにお前は……」


 「――やってみなけりゃ、分からねぇだろ。ジンは仲間だ。俺の……俺たちの仲間だろ。助けるために手を尽くして何が悪いんだよ」


 拳二は心底悔しそうに言った。その声、その言葉だけで拳二がジンを信じていることが分かる。まだあいつはこちら側だと。変異体になったとしても、その魂は変わっていないのだと言いたいのが伝わってくる。


 「……そうか。なら忘れてくれ、野暮なこと聞いちまったな」


 「つーかオッサン。あんただって考えてることは一緒だろ。なんで行動しねえ」


 「……事が事だからな。ジンが敵になったとは思っちゃいねえが……あのビッグホーンと渡り合ったんだ。軍が恐れるのも分かるんだよ」


 「……そりゃそうだけどよ……」


 「だから今は待つとしようぜ。マクスの奴が正式に交渉を進めているんだ、ここで俺らが暴れてもその邪魔をしちまうだけだ」


 「……ちっ」


 拳二は不機嫌なままソファーに身を沈めた。納得はできないが頭では理解している、正にそんな反応だった。

 これ以上ないほどに分かり易い拳二の態度にマイルズは微笑みながら、煙草を取り出し火を入れる。乱れた心を落ち着かせるため、代わりに肺を汚す。


 (……俺もお前と同じさ、拳二。だから勝敗は見えていたのに止めなかった。


 ――ジン、お前は無事なのか……?)
















 「ぐっ……ううう……!!」


 牢獄の中、手足を拘束されたジンが苦悶の声を上げた。

 左腕には極太の注射針で採血を、右腕は一部皮膚を深く剥がされていた。


 「ククク、悪いねぇ。だがこれも喰らう者(イーター)研究のためだ。死なない程度にサンプルは貰っていくよ」


 「あなたは……」


 「私? 私の名はグレッグ・ジャクソン。喰らう者(イーター)専門の研究者さ」


 面会という体でこの牢獄に訪れたこの老人……グレッグは、扉を開いて有無を言わさずこの『サンプル採取』を始めた。


 「しかしサンプル採取開始から3日間……ここにきて何故急激に回復した? クク、いいねぇ、謎は多いに越したことはない」


 (……3日間、か)


 ジンはグレッグの言葉から自分の身に起きたことを何となく推察した。恐らくこの牢獄に繋がれてから意識を取り戻すまで、今のように『サンプル採取』をされていたのだろう。意識を取り戻した時の不調の理由はそこにある。ビッグホーンとの戦闘ダメージの回復を、その行為によって阻害されていたのだろう。いくら異様な治癒能力とはいえ、今のように血を抜かれ、皮膚を剥がされていたら、治るものも治らないというものだ。


 そんな推察をしていると、不意にグレッグが話しかけてきた。気味の悪い半笑いのまま、顔周りのパーソナルスペース容赦無しの距離まで迫って問い詰めてくる。


 「君の経緯は聞かせて貰った。元々人間だったそうじゃないか」


 「……嘘だと思ってますか?」


 「とんでもない。君の体組織、血液を調べさせて貰ったが……君の言っていることは嘘じゃない。君が元々人間だったのは、このサンプルたちが証明しているよ!」


 「? どういうことです?」


 「ククク……そうだな、1つ授業をしてやろう。君は『人間』と『喰らう者(イーター)』の違いはわかるかね」


 「違い? そんなの……多すぎて」


 「残念、ハズレだ。身体構造、体組織、遺伝子構造に至るまで……生物的に見れば、人間と喰らう者(イーター)にほとんど違いは無いんだよ」


 「な……!?」


 遺伝子だのなんだのとジンには分からない言葉も多々あったが、最後だけはなんとなく意味が分かり、そして驚愕した。人間と喰らう者(イーター)がほとんど違わないなんて、まるで信じられなかったからだ。

 しかしはグレッグはそんなジンの様子など気にも留めずに話し続ける。まるで自らの研究成果を喜々として語るかのように。


 「しかしあくまで一致率が高いだけで、もちろん違う所もある!喰らう者(イーター)の遺伝子は人間の遺伝子に比べ、不完全な部分があるんだ。だからその不完全を埋めるために……人を捕食するのさ。捕食したモノの体組織から遺伝子レベルで糧とすることができる……クク、正に超生物と言っていいだろう!」


 「そして人の遺伝子とかいうのを取り込んで、喰らう者(イーター)は人に近付いていく……そういうことですか。でもそれなら……なんで喰らう者(イーター)は人間にならない? どうして変異体に、べノムによる異能力なんかを備え持っているんです?」


 「ホホウ! 遺伝子が何なのかもわからんくせに、随分と理解が早い。教えてやりたいのは山々だが……私も暇じゃない。授業はここまでだ」


 グレッグはそう言うとジンの左腕に刺さっていた注射針を乱雑に抜き取った。ジンは痛みに表情を曇らせるが、それでもジンは去りゆく老人の背中にそのまま問いかけた。どうしても知りたいことがあったからだ。


 「くっ……待って! べノムとか、変異体とかもそうだけど……! いったい何なんです! 『喰らう者(イーター)』って、何なんです!?」


 すると老人は立ち止まり、一言だけ。



 「――決まってる。人間の進化した姿だよ」
















 グレッグが去り、再びジンは牢獄の中、孤独となる。

 止血の処置などされなかったのに加え、針も太かったからだろう。左腕からの出血が中々止まらない。そして右腕は皮膚を剥がされた箇所が、まるで焼けるような痛みを感じさせる。


 そんな中、ジンは1つ、ふと重大なことを思い出した。


 「グレッグ・ジャクソン……そうか、あの研究所のデータにあった……!」


 思い出したのはグレッグの名前。ジンはエリア2でマイルズの任務に同行した時、サラの入手したデータの中でその名前を目にしていたのだ。

 

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