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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-9 Paradigm shift
111/135

Eater in a cage-2

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 「……ランク……1……!」


 ジンは掠れた声で呟いた。

 目の前にいるこの男が、紛れもないハウンド最強の男。そんな男がここにいる理由、ジンには1つしか思い浮かばなかった。


 「俺を……殺しに……来たんですか……」


 ビッグホーンとの戦いで、ジンは変異体への変身能力を目覚めさせてしまった。これでは喰らう者(イーター)の力を宿す人間、とはもう言えないだろう。

 どう考えても言い逃れは出来ない……この身体は、完全にカテゴリーAの喰らう者(イーター)そのものだ。


 であれば、ハウンドのトップランカーである2人が俺を始末に来たのは当然のことだ。

 この状況、そして今の自分の状態を考慮し、ジンは諦めに近い感情を抱く。


 (ああ、勝てない。きっとゴライアスさんには万全の状態でも勝てないだろうし、ランク2のファングさんにも厳しいだろう。何より今は抵抗するだけの力も無い。もう、ここで終わりだ)


 ジンは少しだけ笑い、声を絞り出して尋ねた。気がかりなことが、1つだけ残っていたのだ。


 「……俺を殺す前に……1つだけ、教えて下さい……。

 ――刀也は……刀也は無事ですか……?」


 しかしすぐに返答は返ってこない。ファングは薄い笑いを浮かべ、ゴライアスは依然、殺気の籠った目でこちらを睨んでいる。

 そして少しの沈黙の後、ゴライアスが口を開いた。


 「……剣聖の小僧なら生きてるぜ。なんたって、お前はあの小僧に救われたんだからな」


 「救われた……?」


 「そうだ。俺は死にかけのお前に止めを刺そうとしたが、刀也の奴がそれを拒んだ。血反吐吐きながら這い寄って来て、俺の足を掴みやがる」


 

 ――刀也が、守ってくれた?

 


 「あいつがそこまでしてお前を生かしたかった理由……俺にとってはどうでもいいがな。


 ――ともかく、これで『剣聖』への義理は果たした。あとはせいぜいモルモットにでもなって、そのまま死ぬんだな、喰らう者(イーター)


 ゴライアスはそう言い残して、その場を後にした。

















 「――どうでした、ランク1は。君を殺すために追っていったのに殺さなかったなんて、あの復讐の権化みたいな男が、よく踏み止まったものです」


 ランク2・ファングはその場に留まり、ゴライアスの背中を見送りながらジンに話しかける。


 「……あの人が……ビッグホーンを?」


 「酷い声だ。どうやらまともな食事どころか、一滴の水すら与えられていないようですね。ま、それはともかく……そろそろ知りたいでしょう? ビッグホーンと戦い敗れ、その後あなたがどうなったのか。そしてこれからどうなるのか」


 ジンはその問いに声で答えることができず、代わりに首を縦に振る。

 

 「では、伝えましょう。仮にも君はハウンドの数字持ち(ランカー)マクス(ボス)に認められている。それくらいは知る権利がある」
















 ――君の存在が公になったのは、ボスの下に入った緊急通信でのことです。運悪くそこはバーテクス正規軍、ハウンドのトップランカーたちが一同に集い、下らぬ会議を繰り広げている最中でした。

 焦燥のあまりパニック状態に陥った代理人(エージェント)から、映像と共に救援要請が入ったのですが……そこに映っているものは、人類にとって脅威以外の何者でのない存在でした。


 その存在こそ、カテゴリーS・大角(ビッグホーン)

 10年前、このエリア1に単身で襲撃をかけ、壊滅的な被害を出した観測史上最悪の個体の1つです。その記憶は会議に出席していた多くの将軍を、恐怖のどん底に叩き落すには十分なほどの存在。

 「今すぐ討伐しなければならない、全戦力を投入してでも」などど言いだし、拮抗状態にあるエリア5や最終防衛ラインとなるはずのエリア1からも兵を投入しようとまでしていました。

 完全に会議の場は破綻し、発狂した老人共が喚くだけの場になったその時……うちのボスからあることが告げられました。


 「――ご安心を。ランク1、ゴライアス・オニールが既に向かっています」


 その名を聞いた途端、さっきまでの喧騒が嘘のように収まりました。それも必然……ゴライアス・オニールとは、人類最強の名を冠する戦士の名。

 なにより、10年前にビッグホーンを撃退したのは他でもない彼だったのですから。


 ……もっとも、彼の狙いはビッグホーンではなく君でした。喰らう者(イーター)の力を使うという点で君の存在は彼の逆鱗に触れ、始末するために追いかけていたんです。ボスはそれを避けるために彼に君の事を伝えなかったようですが。


 話を戻しましょう。そこで映像に奇妙なものが映り込みました。

 ビッグホーンにやられ、明らかな致命傷を負った人間が立ち上がったのです。直後その人間は『焔』を纏い、やがて姿を変え、そしてあのビッグホーンと互角の戦いを繰り広げた。


 悪魔、或いは鬼に例えるべき容姿をした、人の形をした人ならざる存在。

 紛れもないカテゴリーAの喰らう者(イーター)、その変異体でした。

  


 


 


 




 





 「……そしてその喰らう者(イーター)の正体はすぐに判明しました。ハウンド所属、ランク23。君の事です、ジン。ビッグホーンと並ぶその戦闘力……当然、放っておかれるわけがありません。すぐに君の経歴とハウンドに参加するまでの経緯の開示を要求されました。いくらハウンドいえど、バーテクス正規軍の総意ともなれば拒否出来ません。かくして、ここエリア1のバーテクス正規軍本部に拘束されているのです。文字通りの物理的拘束と……人間から喰らう者(イーター)になった、という前代未聞の現象の調査のために」


 「……」


 ジンはどこかボーっとした頭でファングのもたらした情報を整理し、現状を把握する。


 まず最初に、自分はビッグホーンとの戦いに敗れた、ということ。そしてビッグホーンを最終的に倒したのはランク1、ゴライアスということ。


 そして次に、ここはエリア1の中だということ。変異体に目覚めたこの身体を調べるために、拘束されているようだ。


 (ゴライアスさんがモルモットって言っていたのは、そういうことか……)


 「君を取り巻く状況はこんなところです。僕は(ゴライアス)のように『そのまま死ね』とかは言いませんが……。


 ――せいぜい人類に貢献して下さい。君が本当に人類の味方をするというのなら、そのままモルモットになるのが最善だと思いますが?」

















 そうして考えもまとまらない内に、ファングも去っていった。これだけことの顛末を教えてくれたのには、何か思惑があるのだろうか?

 ふとそんな事を考えたが、ここで考えても分かることではないし、深く考えることもできなかった。何よりも今は、刀也の無事に安堵している自分がいた。


 安堵すると同時に、ある強い感情が込み上がってくる。

 その感情の正体とは『怒り』に他ならなかった。


 ――あの戦いで刀也が俺の身を庇い、重傷を負った。明らかに格上の相手、勝機など1人では微塵たりとも無かった。であれば、その差は俺の持てる全てを以って埋めるしかない。覚悟を決め、意思を定め、道を自覚し――人間であることを捨てた。

 それでも俺はビッグホーンには届かず、最終的にはまた命を救われた。


 俺を庇って重傷を負った刀也に、二度も救われたのだ。


 「……ッ……」


 悔しさのあまり、血が流れるほど強く唇を噛む。

 当然ながら感謝はある。しかし結局は敗北に終わってしまった無力と、救われるだけの自分に。ただ、怒ることしか出来なかった。








 ――そんな時、唐突に鉄格子の扉が開いた。

 

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