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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-9 Paradigm shift
110/135

Eater in a cage

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 ――意識が覚醒する。

 身体の感覚は鈍く、強烈な痛みと気怠さだけが残っている。


 「……う……ここ……は」


 ジンは目を開き、辺りの様子を確認する。

 窓が無く、生暖かい空気が籠っているその場所は。目の前に映る鉄格子が示していた。


 (牢獄……? 手足も……拘束されて……)


 床、壁、天井、格子、そして拘束具……。

 血の汚れもそのままに、ジンはどこかに囚われていた。
















 日が落ち、真っ暗闇になるはずの大森林の中。

 しかしそこに暗闇は無く、まるで昼間のような明るさが満ちていた。いくつもの照明機材が設置され、苛烈を極めた戦闘の爪痕が照らされている。その場所はジンとビッグホーン戦いがあった場所。騒がしく、現場を調べるバーテクス正規軍の兵士で埋め尽くされていた。



 「――しかし大角(ビッグホーン)とは。驚いたな」



 首を失くし、動かなくなったビッグホーンの死体を見つめながら、アーロンが言った。元帥という立場らしく、厳重な警備兵たちと己の右腕である『騎神』を連れている。

 騎神ことディバイドは、ビッグホーンの死体の損傷具合を見ながら報告するように言った。


 「始末したのはハウンドのランク1、ゴライアス・オニールだそうですが……何でも殺すだけの状態にまで追い込まれていたそうです」


 「ああ、聞いている。戦っていたのは拘束した例の青年……いや、喰らう者(イーター)か」


 「はい。名を『ジン』といい、ハウンドに最近所属した青年です。厳密にはあと1人……剣聖の後継・神薙刀也がいたようですが、彼は早々に戦闘不能になっていたようです」


 「動けなくなった神薙刀也が映像を送ってきたことで、この件が判明した……しかし、だからこそ驚いた。例の青年のランクは23と聞いている。神薙刀也ならともかく、彼にそこまでの力があるとはな。こんな怪物と正面からやり合えるのは、それこそランク1・ゴライアスか、お前くらいのものだろう」


 「……ランク1ならともかく、私はどうでしょうか……彼と並べるには、役者が違う気もしますが」


 「フフ、謙遜するな。お前を凌ぐ者など、世界を見渡してもそうはいまい」


 「その話はともかく、ビッグホーン自体、随分と老い衰えていたようですが……それでも確かに驚異的な力です。それほどの力を、ハウンドは何に使うつもりだったのでしょうか?」


 するとアーロンの声色が少し変わる。部下を叱咤する……とまではいかないが、若干の怒りが込められたような声だった。


 「――決まってる。マクスの奴はいつだって復讐しか考えとらんからな。そこに疑いの余地は微塵たりともありはしない」


 「……失言でした、元帥。ハウンドの総司令、マクス・バードは元帥の元同僚でしたね」


 「うむ……以後、ハウンドを疑うような発言を俺の前でするなよ、ディバイド」


 「はっ。肝に銘じます」


 2人の会話はそこで途切れた。ディバイドは別の兵士に呼ばれ、その場を後にする。アーロンは再びビッグホーンの死体に視線を映す。


 (しかし、あの狂戦士のような男が止めを刺さなかったのにも驚いたが……何よりもマクス、喰らう者(イーター)を狩るために喰らう者(イーター)を引き入れるとは……何を考えている?)


 ――問い質さねばなるまい。

 マクスとその組織ハウンドにはただ喰らう者(イーター)を狩る、という明確な目的がある。それは理解しているし、マクスがその意思を歪ませることなど無いというのも分かっている。

 しかし、だからこそ確かめる必要がある。組織は違えど志を同じくする者として、何よりもかつて共に戦った仲間として。


 















 ――エリア1。

 牢獄の中にジンはいた。疲弊を極め、虚ろな意識のままそれでも現状把握に務める。ここがどこであるかは判断材料が少なすぎるので、ひとまず保留……となるとまずは、自分の身体の状態からだった。

 ある程度傷は治癒しているようだったが、完全には治りきっていない。いつもの治癒が中途半端な状態で止まっている。そして全身の脱力感から判断するに……

 

 (完全に燃料切れ……ってことか。べノムどころか、身体を動かす事もキツい……空腹、貧血、それになんだか熱もあるみたいだ……)


 とはいえ、このままここで動かない訳にもいかず。ダメ元で声を出してみることにした。牢獄の中で何を言おうと出してもらえるはずもないと分かってはいたが、それでも声を上げる必要があった。何故なら傷の痛みや空腹よりも耐え難い、喉の渇きが限界だったのだ。


 「……っ……誰……か……」


 ……声がうまく出ない。喉は焼け付くような痛みを伴い、とても大声なんか出せそうになかった。


 (ダメか……くそっ、このままじゃ……)


 




 早くも心が折れそうになったその時。

 鉄格子越しに、人影が2つ近づいてくるのが見えた。


 「あなた……たちは……?」


 1人は大柄な中年の男性。一目見て強そうだと分かる体格に、身の丈ほどもある大剣を背負った特徴的で、分かり易い男性。

 もう1人は不気味な雰囲気を纏う男性。ロングコートにハット、サングラス、口元を覆うマフラーと、もはや不審者と言える姿の男性。


 すると不気味な方の男性がおもむろにサングラスを外す。細く鋭い目がジンを捉え、対照的に優しさすら感じる声で言った。


 「――初めまして、ジン。いきなりで申し訳ありませんが、僕たちの事は知っていますか?」


 ジンはその男に少しだけ恐怖を感じた。鋭い眼差しと優しそうな声色が合っていないのだ。まるで今から喰い殺す獲物を、甘言で騙し信用させるような印象を受ける。

 緊張を感じながらも、ジンは正直に首を横に振る。鉄格子越しの2人にはまるで見覚えが無かった。


 「なら、まずは自己紹介をしておきましょう。僕の名前はファング・マクヘイル。君と同じ数字持ち(ランカー)で、ランク2に位置している」


 「……!」


 ランク2、ファング・マクヘイル。あのアームズよりも更に上の数字を持つ、トップランカーの1人。となれば、言葉だけで恐怖を感じたのも頷ける。規格外の実力者であることは間違いないだろう。


 「そして隣の彼が――」


 ファングが続けて隣の男性を紹介しようとした時、男性がそれを遮る。


 「――おいファング、ついでに紹介すんじゃねぇ。自己紹介くらいできる」


 「そうですか? てっきり口を利きたくないものだと」


 「まあそれはそうだが……()()()()の頼みだ、少しは譲歩してやるさ」


 「なるほど、ハウンドきっての狂犬も、義理まで忘れた訳じゃないということですね」


 「ハッ……どうだかな。ただの気紛れかもしれないぜ」


 ジンは話が分からず、困惑するばかりだったが……遂に体格の良い方の男性が、ジンに語りかける。



 「よう、喰らう者(イーター)。お前には幾つか聞きたいことがあるが……まずは名乗ってやる。察してるとは思うが、俺もコイツと同じ数字持ち(ランカー)で……お前をここにぶち込んだのは俺だ」



 この男性の声が、ジンの本能を刺激してくる。


 ――逃げろ、殺される――ひたすらに心はそう叫んでいた。


 それほどまでに殺気丸出しの声と雰囲気、そしてこの男から感じる、形容し難いこの感覚。しかしジンにはその感覚に覚えがある。

 ビッグホーンの変異体を目にした時? バスターの雷撃を食らった直前? 



 ――違う、これはエリア3で初めて遭遇した、あの焔を纏う喰らう者(イーター)以来の、『死』への警告だ。



 (……間違い無い。この人は――)


 ジンの直感した通り、男性の口からはその名と共に数字が告げられる。



 「――名はゴライアス。

 ランク1、ゴライアス・オニールだ」





ようやくランク1とジンが出会うことができました。

しかしまさか100話以上ももかかってしまうとは……構想通りではあるのですが……(笑)

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