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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-8 I need more……
109/135

Rebellion-2

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 勝った。

 ジンはそう確信し、無意識に安堵した。


 陽炎は確かにビッグホーンの頭部に深く突き刺さった。いくらカテゴリーSの喰らう者(イーター)であろうと、『生物』である以上、頭部へのダメージは確実な致命傷だ。


 ――しかし。














 「勝ったと……思ったか……!?」

 

 痛みに耐えながらも、それに負けじと呻くような声がする。

 ビッグホーンは生きていたのだ。


 「――なにっ……」


 ジンは驚きのあまり、一瞬反応が遅れてしまう。

 時間にして1秒にも満たない、ほんの僅かな一瞬だった。しかしビッグホーンにとって、それは十分な時間だった。



 『――破壊の大角(ディストラクション)ッッ!!!』



 残った左腕の、折れた角による一撃。

 角の先端に鋭利さは無く、変異体となったジンの体表を貫くことは叶わなかったが……


 剛力無双、絶対的な破壊力はそのまま打撃力へと変換され、ジンの顔面を直撃する。



 ――そして、ジンの意識はここで潰えた。
















 ジンの身体はまるで弾丸のように吹き飛び、木々を薙ぎ倒しながらようやく地に落ちた。

 既に変異体は解け、うつ伏せに倒れピクリとも動かない。


 それを見たビッグホーンは、ようやく勝ったと確信する。


 「ゼェ……ゼェ……ようやく……か」


 ビッグホーンは自らの右目に深く突き刺さった陽炎を抜き、投げ捨てる。


 「ぐっ……!」


 カラン、と静寂の中に金属音が寂しく響く。まるで鉄が冷めたかのように陽炎は色彩を失っていた。


 ビッグホーンはゆっくりと歩き、倒れたジンの下へ向かう。断たれた右腕からは出血が止まらず、右目も完全に潰されていた。


 (……これではもう、長くはない、か。運良く刀が右目側に逸れたから即死を免れたが……あと数センチ違っていたら、脳を貫かれて終わっていただろう。勝ちを急いで狙いに甘さが出たか、或いは彼も限界だったのか……)


 おぼつかない足取りで、ビッグホーンはジンの前に辿り着く。


 「微弱だが、まだ息がある。悪いが止めを――くっ!?」


 強い立ち眩みに襲われ、ビッグホーンはよろめく。

 傷が深すぎる。もう数時間としない内に息絶えるだろう、と理解してしまった。衰えきったこの身体の治癒力では、もう生き残ることはできない。


 (……新たな世代、か。恐ろしいものだな、時間の流れとは。10年前の敗北にも同じ事を感じたものだが……)


 死を覚悟したビッグホーンは、少しだけ笑った。

 誰が聞いている訳でもないが、それでも声を上げ、言葉を残すように呟いた。


 「――だがな、最後に立っているのは俺だ。お前のような未来ある若者と相討ったんだ。老いぼれ最後の戦果としては、上々だろう」


 左腕を振り上げ、構える。正真正銘、最後の一撃だ。


 「――さらばだ、反逆者(リベリオン)。恨むのなら、その力を人の身に宿してしまった因果を呪え」















 「――反逆者(リベリオン)か。お前ら喰らう者(イーター)にとってもそうなのか?」



 「――――!!」


 ビッグホーンの独白を遮り、荒々しい男の声が響いた。ゆっくりとこちらへ歩いてくる男がいる。

 比類なき殺気、比類なき強者の気配。それでいながら喰らう者(イーター)特有のべノムの気配を感じることは無い。


 紛う事無き()()が、近づいてくる。

 そしてビッグホーンには、その人間に見覚えがあった。


 「……お前……は」


 大柄な体躯、身の丈ほどもある大剣を担ぐその姿。

 忘れるはずもない。10年前に敗北した、その男の名は――


 「しかしまぁ期待の新人クンとやらを追って来てみれば、こりゃとんだ大物に出くわしたじゃねぇか。随分とボロッボロだが……10年ぶりだな、大角(ビッグホーン)


 「貴様……ゴライアス・オニール……」


 「なんだ、あんたに名乗った覚えは無かったが」


 「喰らう者(イーター)として生きていれば、嫌でもその名前は耳にするさ。人類最強の男、ハウンドのランク1……その名は俺たち喰らう者(イーター)にとって――」


 「――あーあー。もういい、別に話に来た訳じゃねぇ」


 ゴライアスは会話を強引に打ち切り、背負った大剣を掴み、そして構えた。



 「――話すことに意味は無いのさ。10年越しの仕事だ、今すぐ死ね」



 ビッグホーンは殺気の高まりを感じ、すぐさま警戒態勢に移ろうとしたが……間に合わない。既に間合いは詰められ、ゴライアスの大剣が眼前に迫っていた。

 

 どの道、放っておいても死に絶えるこの命。ビッグホーンは全てを諦め、抵抗ではなくジンの方に視線を向ける。

 きっと今の彼に言葉は届かない。それに彼もまた、このまま死してしまうだけかもしれない。

 それでも、ビッグホーンにはジンに言っておきたいことがあった。喰らう者(イーター)の力をその身に宿しながら、決して抗うことの出来ない『母』の声が聞こえないという彼ならば。

 

 世界を壊してくれるかもしれない。

 人間と喰らう者(イーター)が殺し合うだけの、この世界を。



 「貫けよ、『人間』であることを。お前なら、いつかきっと――」



 その言葉は最後まで語られることは無かった。

 ゴライアスの振るう大剣が、ビッグホーンの首を断ち切った。


いつかきっと――『母』にも届くだろう。

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