I need more power
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――痛みが、痛みと一言で形容できない感覚が、少し遅れてやってくる。
右腕どころか肩のあたりまで抉られている。
(……余波だけ……で……?)
ああ、熱い。傷口が燃えているような錯覚に陥り、命が勢いよく零れ落ちていく。
今まで、どんなに傷ついても立ち上がってきた。
経験も技術も、実力も。あらゆる面で未熟なんだ。そんな俺が出来ることは1つだけ。決して諦めない事だ。
拳二と戦った時も、ロゼの攻撃を受けた時も、バスターの雷撃を受けた時も。
立ち上がった。血を流そうが、意識が飛びそうになろうが、決して勝てない状況だろうが。
しかし、その不屈も遂に崩れた。
圧倒的、破壊的、そして何よりも絶望的な一撃が、問答無用でジンの意識を奪う。
強靭な意志も、その身に宿す力も……何の意味も無かった。
(あぁ……生きたいと、生きて行きたいと思った途端にこれか……姉さん……俺は……)
――ジンは、リアルな『死』を感じながら、その場に斃れた。
――もう、諦めるのか?
真っ暗闇の中、声が響く。
――このまま死ぬなら、それはそれで仕方ないけど。
誰の声だろう。知らない人、けれどどこかで聞いたような声……。
――死にたくないんだろう?
それは……そう、かもしれない。今までは戦いの中で死ぬのなら、本望だと思っていた。
喰らう者を殺して殺して殺して……そしていつか、力尽きて。そうして初めて、胸を張ってみんなの下に逝けると思った。俺は俺に出来る所まで戦って、出来る限り仇をとった、って。
守ることの出来なかった、先輩にシンシアさん、親方……だけじゃない。あの暖かかった、街の人々……そして何よりも、姉さんに。
――けど、分かっていたんだろ? そんなのただの現実逃避の自暴自棄。自殺願望と変わらないって。
ハハ……何でもお見通しだね、君は。俺の心の中まで。
――知ってるさ。お前の事ならワタシは何でも知っている。けど、今は違うんだろ?
うん……でも、どうしたらいい? もう、身体も頭も動かないんだ。
――それも知ってるよ。だから来たんだ。……ワタシは君に嫌われてるけど、それでもだ。
……? それってどういう……というか、君は一体……?
――ワタシの事は後でいい。それよりも、お前を待ってる人がいるだろう? 約束、破るのか?
!! それは……。
――そうだ。どんなに些細なものだったとしても、お前には約束がある。待っている人がいる。何よりも、お前自身が生きて行きたいと思っている。
――だったら。どうすればいいのか。その答えを、お前は良く知っているはずだ。
ジンの目の前に、不自然なほどに赤い、どこまでも紅い焔が灯る。
真っ暗闇の中に1つだけ、大嫌いな色の焔が光を放つ。
「……そうか、君は……」
ジンは目を閉じ、ゆっくりと焔に手を伸ばす。
「――知っているとも。それだけが、俺の取り柄だったんだから」
指先が焔に触れた途端、焔は勢いを増してジンの身体を包み込む。それでいて熱さは少しも感じない。
「確かに君の事は嫌いだった。けど、生きるために、約束を守るために……
君を、受け入れるよ」
「む……!?」
ビッグホーンが、驚きの声を上げる。
目の前の、たった今致命傷を与えた敵が、ゆっくりと立ち上がったのだ。
(馬鹿な……明らかな致命傷だ……!)
ジンの右肩があった場所からは、おびただしい量の血が流れ出ている。人間……否、生物であれば、あの出血量は確実な致命傷だ。
しかしジンは立ち上がった。精神力云々の話ではない。ここまでくると、不屈ではなく不死身だ。
「考えてみれば、お前は半喰らう者……焔の異能力がその反則級の耐久力を生んでいるのかもしれんな。しかしならば、もう一撃加えるまでだ」
ビッグホーンはそう言ってもう一度構えをとる。身体を沈め、右の剛腕を大きく引く。
――その時だった。
突如、ジンの身体が紅き焔に包まれたのだ。
(……!? このべノムの気配は……!!)
ビッグホーンは思わず動作を止める。ジンから発せられる強大なべノムの気配が、ビッグホーンの本能に危険信号を送ってくる。さっきまでと同一人物とは思えない、凄まじい気配だ。
焔はまるで竜巻のように渦を巻き、みるみる収束してより小さく、より高密度になっていく。そして人間大にまで極まった時、焔の渦の消滅と共に焔の主が姿を現す。
そいつは漆黒の岩石で出来た鎧が如く体表に、その隙間から真紅の焔を滲ませる。人の形をしながら決して人ではない、鬼のような、或いは悪魔のような姿。
その正体は……変異体となった、ジンの姿だった。