表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-8 I need more……
106/135

Bad bad bad news-2

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 「――では、続いての議題はエリア1防衛における、戦略兵器拡充について――」


 バーテクス正規軍・元帥であるアーロンが席に着き、ようやく会議が始まった。

 といっても最初の議題は正規軍内の事案ばかりであり、ハウンドの面々はただ黙ってその場にいるだけであった。

 拳二は退屈そうに、欠伸をしながら周りを見渡す。

 すると隣に座っているマイルズが小声で話しかけてきた。


 「おいおい小僧……気持ちは分かるが、少しは抑えろよ」


 「あー……だってよ、こんなどうでもいい議題じゃ、俺らのいる意味無くないか?」


 「まぁなァ……だが、ただの会議って訳でもなさそうだ。元帥はともかく、あの『騎神』まで来てるじゃねェか」


 そう言ってマイルズが視線を投げたのは、アーロン元帥の隣に座っている男だった。

 同じタイミングで元帥と共に入室してきた、褐色の肌と独特な民族衣装を纏った男。その男の名と『騎神』の渾名は喰らう者(イーター)と戦う者なら、誰もに轟くほどのものだった。


 ――男の名は『ディバイド・ピッペン』。エリア5に元来住み付き、長きに渡って喰らう者(イーター)と戦ってきた戦闘民族の末裔であり、現バーテクス正規軍のエリア5駐屯部隊を率いる将校だ。


 「騎神……その名前は俺も良く聞くぜ。正規軍最強の戦士にして、元帥の右腕にあたる奴だろ?」


 「ああ。まだ年は30そこらだが、階級は大将……偉そうにふんぞり返ってるここの老人共より、もう一段上になるな」


 「ハハッ、なるほどな。それで連中、大人しくなったのか」


 「そうだなァ。騎神もそうだが、元帥自身も最前線に立つタイプの武人だからなァ。皆、あの2人の前ではあまりデカい態度はとれんのさ」


 「ふーん……だったらなんで、他の連中は頑なに前線に出ないんだ? 逆らえないのにおかしくないか?」


 「それにはまぁ、至極簡単な理由がある。――っと、ちょうどその話だな。よく聞いてな小僧」


 













 「――続いては私から。エリア5駐屯軍司令、ディバイド・ピッペン大将です。エリア1防衛軍を統括する()()()()()に関しましては、久方振りでございます」


 「……ゴホン! 遠い地での健闘、ご苦労だ、大将。だが勘違いをするなよ、貴殿の階級も最前線であればこそだ! エリア1の防衛に比べれば、優先度の低い現場だということを理解したら、話を続けたまえ」


 「……無論、承知しております。()()()()


 「ぐっ……この若造が!」


 ディバイドが席を立ち、敢えて階級を強調しながら発言する。このやり取り1つとっても、防衛側と前線側には深刻な溝があると想起することができる。

 

 

 ――ディバイドの要求は、簡単に言うと前線における兵員・装備の増強だった。

 エリア5の制圧が進むにつれて敵も強さを増していき、現在の戦局はほとんど硬直状態だという。


 では、その敵の『強さ』はどこから来たものか? 当然そんな疑問の声が上がる。そこでマクスが立ち上がった。


 「――我々ハウンドが確認したことが1つ。『スティール』という組織名を自称する、喰らう者(イーター)の組織の存在です」


 マクスは今までに受けたスティール関連の情報を集約し、この場で説明を行った。なぜもっと早く正規軍に報告しなかった、と糾弾されるも、マクスはまるで意に介さず話を続けて行く。


 (流石の強心臓だな、マクス。曲者揃いの数字持ち(ランカー)を束ねているだけはある)


 そんなマクスの堂々とした姿に、アーロンは微笑んだ。














 マクスによる敵組織・スティールの説明も終わり、話は収束を迎える。

 ディバイドがマクスに礼を言った後、改めて要求を伝えた。


 「――以上が、我々駐屯軍が兵員・装備の増強を求む理由です。どうか、こちらの要求を承認して頂きたく――」


 しかし、ここでディバイドは猛反発を受ける。まるで噴火のような勢いで、並び座る中将らが騒ぎ出した。


 「――無理だな。今以上の戦力を駐屯軍に費やす訳にはいかん」

 「そうだ! エリア1の防衛よりも優先するべきことではない!」

 「そもそも、現状でも駐屯軍に戦力を割き過ぎているくらいだ! むしろ防衛軍に戦力を返す事を検討すべきでは?」


 エリア5の戦場を知っていれば、日常的に喰らう者(イーター)と戦っていれば、そんな台詞は出てこない。

 拳二は怒りを通り越し、呆れ顔で呟いた。


 「腐ってるって知ってはいたが……ここまでとはなぁ……ありえねぇだろ」


 「まァ、こいつらは10年前からこんな感じだ」


 防衛軍側の中将たちは、もはや聞き取れないほどの騒ぎようだ。ディバイドが若干気の毒になってきたところで、誰かが言った一言で場が静まり返った。


 

 「――10年前の大角(ビッグホーン)も、5年前のワームビーストも! もう忘れたのか!!」



 その名に、誰もが沈黙する。

 誰が禁じた訳ではないが、その件に関しては口にしないのが暗黙の了解になっていた。


 拳二はその瞬間、正規軍腐敗の理由を察した。


 (そうか……あのカテゴリーSの件がトラウマになってやがんのか……)


 考えてみれば、すぐに分かることだった。きっと彼らはその当時も防衛軍を率いていたのだろう。カテゴリーSの絶対的な力に、二度も直面すれば臆病になってしまうのも分かる……気がした。

 実際の所、拳二はそのどちらとも対面したことは無かった。10年前はハウンドに所属していなかったし、5年前はエリア1にいなかったからだ。

 だが、それでもカテゴリーSの脅威は感じていた。当事者からの話を聞いたり、エリア1に戻った際に破壊の痕跡を目にしたり、誰が犠牲になったかを知ったり……。


 拳二はそれを知ってなお戦うことを選んだ。だが同様に、逃げ出したくなる気持ちも分からないでもない。軟弱だとは思うが……難しいところだ。何故なら、自分は直接カテゴリーSを目にしたことは無いのだから。


 そんな答えの出ない思案を続ける拳二に、再びマイルズが話しかける。


 「……分かっただろ? その臆病な気持ちも、カテゴリーSを見た奴なら本能的に分かってる。何だかんだと、俺たちは連中を責められないのさ。だからこそ、戦う意思は停滞し、組織はゆっくりと腐っていく」


 「でも、どうしろってんだ。駐屯軍と俺たちハウンドだけじゃ、いずれ――」




 ――突如、マクスのノートPCが音を鳴らした。

 通常の着信ではない、緊急通信(エマージェンシー)の音だ。


 ノイズ交じりの音声が会議室中に響き渡る。



 『こちら代理人(エージェント)のサラ・アールミラー! マクスさん、聞こえますか!?』


 マクスはサラの焦燥しきった声に何か嫌なものを感じ、会議中を気にせず即座に通信に応じる。


 「マクスだ。サラ君、どうした?」


 『現在ランク11と23の両名が、喰らう者(イーター)と交戦中! ランク11は既に倒れ、ランク23も重傷!! 至急応援を求む!』


 サラの報告に場が騒めく。

 それは正規軍だけでなく、ハウンドの面々も同じ事だった。


 (な……刀也が倒れただと? それにジンまで……!?)


 拳二は慌ててマクスの下に駆け寄ろうとしたが、マイルズがそれを制する。


 「落ち着け小僧! 通信の邪魔になるぞ」


 「っ……ああ、そうだな……」


 半分パニックのような状態になっている防衛軍側はともかく、この知らせにはアーロン、ディバイドも驚きを隠しきれていないようだった。


 「ふむ……ディバイド、たしかランク11というのは……」


 「はい。2代目剣聖と呼ばれている、神薙刀也の事です。しかし、彼がやられるとは……相手は一体……」


 ディバイドの疑問に答えるかの如く、サラの通信は続く。

 通信状態が悪く、ノイズが酷い……が、声自体はしっかりと届いている。それほどまでにサラは声を荒げていた。


 『位置情報と映像を送ります! とにかく、どうか救援をお願いします……!! 相手は……相手は……!


 ――カテゴリーS・大角(ビッグホーン)なんです!!』


 その名と共に映像が届く。

 撮影者はその場に倒れ、おびただしい出血を。

 その奥に映った、未だ立っている男は既に片腕を失くし。


 そして、その男の前に立ち塞がっている怪物。

 10年前、人類を滅ぼさんとした、怪物の姿そのものだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ