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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-8 I need more……
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紅焔の意志

更新しました!よろしければ覗いていって下さい!



 「――その紅い瞳。この姿の俺を恐れながらも、戦うことを諦めていない強き瞳だ」


 ビッグホーンの口から低い声が聞こえる。

 この怪物はジンが恐怖し、足を竦ませている事に気付いている。


 あいつの言う通り、戦う意思は捨ててはいなかった。一刻も早く刀也の無事を確かめねばならないからだ。……が、それだけだ。勝てる見込みも無ければ策も無く、頭でもビッグホーンには『絶対に勝てない』と認めてしまっていた。そうなれば当然、まともに動けなどしない。


 「っ……おおおおおおお!!」


 ジンがここで選んだ行動は、まさに最悪だった。

 無謀にも身体能力任せに、正面から特攻したのだ。確かに速く、鋭い。しかし自分でも分かっていた。完全な変異体になったビッグホーン相手には、その程度では何の意味も無い事に。


 「……無謀な。剣聖の後継が身を挺したのも、無意味だったな」


 ビッグホーンは呆れたように呟き、心底つまらなそうな目で特攻してくるジンを捉える。


 まるで人間が小さな羽虫を払うように。ジンは角の側面に薙ぎ払われた。

 刀也に繰り出した攻撃とは打って変わって、迫力の無い攻撃だった。にも関わらずジンの身体は宙を舞う。防御が出来なかったのか、それともしなかったのか……薙ぎ払いは腹部に直撃していた。


 受け身すら取れず、グシャリと地に落ちる。

 ジンはすぐに立ち上がったが、動き出すことができなかった。強烈な身体の中の痛みと、吐血が止まらない。


 「グッ……ガハッ……! なんで……こんな攻撃で……!?」


 「気付かなかったか。お前はとっくに限界だったんだ。

 初撃の蹴り、2撃目の殴打。そして今の一撃……いずれもお前の腹部を狙った。多数の内臓破裂と、恐らくは肋骨の骨折もあるだろう。いくら喰らう者(イーター)に近い治癒能力があるとしても、もう耐えられまい」


 「ガハッ……! ぐっ……くそ……」


 ――3撃目を引き金に、急激に意識が遠のいていく。

 ビッグホーンの言う通り、ジンの身体には限界が来ていた。大きな外傷が無かったため、自分でも気が付いていなかったのだ。


 

 ――それでも、それでも……!

 ジンは膝を折らない。陽炎の峰を自ら額に叩き付け、血を流しながら意識を保つ。


 そんなジンの様子を、ビッグホーンが見下ろしながら言った。


 「まだ折れないか。不屈……というより、諦めることを忘れてしまったのか? そこまで行けばもはや、打たれ強いだけのサンドバックだ。もういい、いい加減折れろ」


 

 ――殴打。

 吹き飛ばされて、立ち上がって、また殴打。

 殴打。

 殴打。

 殴打。


 まるでジンが立ち上がらなくなるのを待っているように、ビッグホーンはひたすら手を抜いた殴打を繰り返す。手を抜いたとはいっても、低級の喰らう者(イーター)に比べれば、その破壊力は比較にならないほど大きい。


 ジンは幾度となく吹き飛ばされた結果、血塗れの満身創痍になっていた。

 しかしそれでも、立ち上がる。ガクガクと笑う膝を必死に抑え、真紅の瞳で敵を睨む。


 「……何故だ。何がお前を奮い立たせる? 既に勝ち目は無く、頼れる仲間も倒れた。絶望的だ。なのに何故、その刀を手放さない? 何故まだそんな瞳ができる?」


 「……俺は……」















 薄れきった意識の中、ジンの中である記憶が蘇る。

 最初にエリア1に来た時、いきなり拳二と戦う羽目になった時の記憶だった。


 『そんな死にそうになってまで、君は何を求めてるんだい?』


 あの時も意識はハッキリとしていなかった。

 けれどその問いはよく覚えている。その答えも。


 あの時は、ただ憎かった。目的は殺す事。殺して殺して、ひたすら殺して……その中で力尽きるのなら、それもいいと思っていた。


 (でもそれは……ただの自殺願望と変わらない。

 刀也……サラさん……アームズや拳二さん、マクスさんにマイルズさんとウォーウルフ隊のオリバーさん、モーリスさん、アレックスも。他にもたくさんの人に出会ってきた。みんなそれぞれ戦う理由があって、必死に生きている。生きているんだ)


 ジンは笑った。

 徐々に固まりつつあった『答え』の形、まさかここで定まるとは。



 「――世界は広いよ。まだ知らないこと、景色、人……果てしなく広がってるんだ」


 「……フン……」


 ビッグホーンは歩みを止め、ジンの言葉に聞き入った。

 


 「だから戦う。家族を失った悲しみも、その復讐心も、全部抱えて()()()()()。そしていつか喰らう者(イーター)を滅ぼして、誰もが穏やかに、怯えずに、ただ笑って……


 俺は、『その先』にある世界が見たいんだ!!」



 ジンは強い決意を込めて叫ぶ。

 焔はその決意に応えるように噴き出す。


 「なるほど、それがお前の不屈の源泉か。すまなかったな、その覚悟を試すような真似をして」


 ビッグホーンが謝罪の言葉を述べるが、ジンは既に走り出していた。愚かにも真っ直ぐに、身体の限界をべノムで誤魔化しながら、ひたすらに前へ。


 「お前は誇り高い戦士だった。そんな力を持ちながらも、理想的な人間そのものだ」


 心臓を炉心にして、ひたすらにべノムを燃やす。まるで命を削るような感覚に陥りながら、大嫌いな色の焔を作り変えていく。


 「だからこそ、喰らう者(イーター)の俺に出来ることはこれだけだ。人間と喰らう者(イーター)……決して相容れぬ存在だ。例え()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ビッグホーンは姿勢を沈め、右腕を後ろに引いて構える。巨大な全身の筋力、そしてあまりにも膨大なべノムの全てを集中させていく。

 しかしジンは突進を止めない。走り出したが最後、もう止まった瞬間に力尽きてしまう所まで来ていた。


 最後に選んだのは、全身全霊の力を込めた刺突。

 今までジンの繰り出してきたどんな攻撃よりも強く、文句無しに最高の一撃だった。




 「高潔で誇り高い戦士に送る、最大の返礼だ。せめて一瞬で沈め。


 ――『破壊の大角(ディストラクション)』」




 ビッグホーンが構えた右腕を突き出した。とても目に見えぬ速度で、気が付いた時には突風が身体の右側を突き抜けていった。


 しかしジンには妙なことが2つあった。

 1つはビッグホーンとの間合いが遠いこと。結局のところあの凄まじい一撃は空振りで、こちらには全く届いていない。

 もう1つは、全速力で走っていたのに今は立ち止まってしまっていること。あの突風が通り過ぎてから、なんだか身体の感覚が鈍くなった気がする。特に右側が顕著だ。


 「……?」


 ジンはその感覚を不思議に思い、自分の右腕を確認する。





 ――そこに右腕は無かった。

 陽炎を握っていたはずの右腕は存在せず、ジンの身体は右肩ごと大きく抉り取られていた。


ようやくBeyond(超えて、その向こうへなどの意)タイトル回収です。もちろんまだまだ物語は続きますので、これから先のジンの戦いも見届けて貰えればと思います。


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