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Beyond 【紅焔の反逆者】  作者: おとうふ
ACT-1 Beginning
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Zero



 希望の無い世界、常に死と隣り合わせの世界。

 そんな世界になっても、人間は確かに生き残っていた。


 昨日は同僚が喰われ、今日は隣人が喰われた。


 喰われた。

 喰われた。


 ()()に次に出会ったら、もう終わりだ。


 何もかも投げ出して、狂ってしまえばどんなに楽だろうか。

 しかし、もちろんそんな訳にはいかない。俺は優秀ではないが、それでも『バーテクス正規軍』の兵士だ。

 背中には戦う術を持たぬ人々と、何よりも大事な存在(もの)が、2つ。それにエリア3の工業地帯まであと少し。そこまで行ければ、もう安全だ。


 赤子の泣き声がぎゃあぎゃあと響く。

 長距離の徒歩移動が続いているせいか、中には不快そうな表情を浮かべたり、露骨に舌打ちをする者もいたが……俺は全く気にしない。

 その赤子は何よりも大事な、俺の宝物そのものだからだ。


 「――よしよし、大丈夫よ『(ジン)』。パパが守ってくれるから」


 「おう、任せとけ! ……ところでその子の名前、どんな意味なんだ?」


 「もう、生まれる前に何度も話したじゃない」


 「ハハハ、すまんな。だが聞きたいんだ、何度でも。お前の口から」


 「……この子が生きて行く世界は、とても厳しい。本当なら、もっといい時代に産んであげたかった。

 それでも、何かやりたいことを見つけたのなら。或いは守りたいものができたのなら。

 どうかそれに向かって全力を尽くせる、真っ直ぐな子に育ってほしい。

 だから、『(ジン)』」


 「おぎゃあ! おぎゃあ!」


 「――だってよ、ジン! ママの期待に応えられる男になれよ~!」


 俺は赤子の泣き顔を覗き込み、全力の笑顔を見せながら言った。渾身の100%スマイルだったのだが、どうにも泣き止む様子は無い。


 「なれよ、だなんて。エリア3に着いたら軍は退役するんでしょう? 必ず辿り着いて、この子の成長を一緒に見届けましょう? 父親なんだから」


 「……そう、だな。悪い、変なことを言っちまった」


 「さ、行きましょう。最後のお勤めヨロシクね、兵隊さん」


 「おう!」






 

 この一団は、とある集落の生き残り達。

 集落の規模はこのご時世にしてはそこそこ大きく、バーテクス正規軍の小隊も駐在するほどのものだった。


 ――が、そこにも魔の手は押し寄せた。

 人を喰い物にする()()の襲撃より、集落は簡単に血の海と化した。


 命からがら逃げ延びた彼らは、安住の地を求めて『エリア3』へ向かう。









 しかし、彼らがエリア3に辿り着くことは無かった。

 

 紅き焔が現れ、文字通り全てを焼き尽くした。


 たった一つの、小さな命を除いて――


 

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