漆黒の少女
僕を押さえつける彼女の力は尋常なものではなかった。
必死な抵抗も、アルテルトさんの前では無意味だった。
「はぁ はぁ さあ、信彦様、一つになりましょう!」
「お、落ち着いて! まだ出会ったばかりだよ! こんなの良くないよ!」
「体の関係からはじめてもいいじゃないですか!」
僕の操が奪われる。
「なにやってんの」
まさかの母さんの登場だった。
母の一撃でアルテルトさんが吹っ飛ばされる。
「もう若いからって盛っちゃて! ちゃんとゴムは持ってるの?」
いや、そこじゃないだろ。まあ、とりあえず助かった。
僕は、立ち上がると、アルテルトさんの様子を伺う。母の一撃で床に倒れたまま動く気配がしない。大丈夫だろうか。
夕飯は、盛大なものだった。
誕生日と正月と記念日が同時にきたような品揃えといえばいいのか。とりあえず中央のケーキに『婚約おめでとうと』と書かれているのがキツイ……。
「いやーーめでたい! 信彦にお嫁さんができるなんて、父さん感激で涙がでるよ!」
父が普通のビールを飲んでいる。
「アルテルトさんみたいな子が我が家に来てくれるなんて、よかったわ」
母さん、アルテルトさんを吹き飛ばしたよね。
僕は場の空気を壊したくないので、黙々と食べていた。アルテルトさんも何も喋らない。
ついでにいうと、部活の合宿でこの場には妹がいない。
「アルテルトさんの実家はとても立派なのよ、信彦」
そういえば彼女の家族について何もしらない。
「魔界でも強大な力をもった一族なのよね」
「そりゃ凄いなあ!」
「そんなこと、ありませんわ」
この場ではじめてアルテルトさんが口を開く。後、彼女の周りのお皿が空になっている。けっこうあったぞ。
「そうでしたわ。実家から預かったものがありました」
彼女は机の上にそれを置くと、重い音が響く。
金塊だった。
「まぁあああ! いいのよそんな気遣いわ!!!!!」
「そうだよ! これから家族になるんだから!!!!」
両親は金塊に釘づけだった。僕は金塊なんて初めて見た。一体、この大きさで幾らになるのだろう。とりあえず凄い額なんだろうけど。
「信彦! いいか絶対、彼女を幸せにするんだぞ!これで家のローンが完済できる!」
「そうよ! あんたがこれから働いたても、こんだけ稼げないのよ!」
金塊に魅了された両親が、なにやら本心を吐露してる。
僕は、アルテルトさんの反応を見ようとするが、彼女はまったくの無表情だった。さっきより空のお皿が増えていだけだった。
僕はこれからどうなるんだ……
僕は部屋に戻り、ベットに寝る。
もしやと思い、辺りを確認する。アルテルトさんはいない。
「急に結婚とか……。まだ高校生だぞ」
これから何が起こるかわからないじゃないか。
僕の部屋が吹き飛ばされる。
「ケホケホ、な、なんなんだ!」
轟音と衝撃が一気に襲ってきた。今、目の前は煙で充満している。動くことさえできない状態だ。
天井から空気の流れを感じたので、見上げてみる。光が差し込んでいる。
月が見える?
さっきの爆発で屋根が吹き飛ばされていたのだ。月明かりが直接、僕の部屋に差し込んでくる。
「ここらしいですわね」
少女の声が煙の向こうから聞こえてくる。最初、アルテルトさんかと思ったが、声音がやけに甘い。
「誰かいるのか!?」
「あら、あなたがアルテルトの許嫁かしら。思ったより普通ね」
煙が四散していき、声の主が見えてくる。
少女だった。月明かりに照らされた少女が、屋根に空いた大穴からこちらを見ていた。
「君は?」
「私はガルデルマ。魔界の高貴なる暗黒姫」
ゴシックロリータの服を纏った彼女の正体がわかった。
痛い子だ。
強烈な影がガルデルマを襲う。
金属がぶつかり合う歪な音が鳴る。
「何用かしら、ガルデルマ」
アルテルトさんが手刀で、漆黒の少女を抉ろうとしていた。それを少女は片腕で受け止めていた。
「きまってるじゃない。あんたの邪魔よ!」
ガルデルマの背中が大きく開く。それは翼だった。コウモリの翼が月夜に晒される。
僕の視界から漆黒の少女が消える。
アルテルトさんも虚をつかれたらしい。一瞬だが反応が遅れていた。
次の瞬間、僕は宙に浮いていた。目の前に大きな翼が広がっている。
僕は漆黒の少女に抱き抱えられていた。
「キサマ!!!!それが目的かあ!」
僕は浚われてしまう。




