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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

戦記 短編

油のでる山

方言の意味


がめつい=欲深い


がいな=頑固、強い、硬い


がいに=大きな、多い


うまげ=きれいな、好都合


まんで、まんでがん=すべて、全員、ものすごい


かいない=少ない


えらい=厳しい、辛い


ちよっとこま=しばらく


はがいましい=腹立たしい


あと=あいつ、奴



昔々、讃岐ん国んな、淺野という村があったんや、そこんの、小さな山があったんやけど、その山からは油が出てきよったんやと。


最初はみんな、晩の夜なべする分しか汲んで帰らんかったんやけどの、がめついんが居っての、鍋で持って帰ってきたんやと。

まんでがんおっかれたんやけど、がいなもんやけん次の日も鍋で汲みに行ったんやと。


そんなことしょったらの、村のもんまんでがんやりだしての、あまっりょるけん周りの村にも売るよんなんっての。岩の隙間からチョロチョロ出よんではかいないけん言うて、掘って拡げたんやと。


そんなことしよるもんやけん百姓ややらんと油売って暮らすようになったらしいわ。


ほなけんどの、油の出る岩をがいに拡げて汲みよったけんかしゃん、そのうち出んよんなってしもたんや。

ええ目しよった浅野のもんはがいに困ったんやと。




それは、ほんまに昔々の話での、ほんまか嘘かもわからん。今は南に池掘っとんやけど、油や出てきとらんけんの、あれは嘘かもわからん。


ほなけんどの、戦争始めて油が足らんで困っとった軍人はそんな昔話に目つけたんやと。


なんぼ、油山言うて名前が残っとるけん言うても、油があるや言ううまげな話んはならんやろ。

油が出よった話がほんまやっても、昔々の百姓がまんで使い果たしとるんや。



ほなけんどの、軍人は来たんや。

浅野の北東に飛行場んなる広い土地があっての、そこを飛行場にするんやけど、油山の油が取れんか言うんや。

みんなあれは昔話でそんなん無理や言うたんやけどの、軍人はわからんのや。


「あると言う信念もって掘れば油は出てくる」


言い出したんやと。

ほんなら信念で飛行機飛ばしたらええのんな。信念では飛行機飛ばんらしいわ。



しょうがないけん、みんな油が出るんか調べるん手伝うたらしいんやけどの、そんなことしょったら、なんか、偉い学者が来てここん油は無い言うたけん、みんな安心したんや。昔話の油がほんまに取れるわけないけんの。


わしら、こんまい頃に遊っびょったけど、油山んなかはしりまわったけど、油出るようなとこないけんよう知っとんや。学者が言うんがほんまや思たわ。

ほんまに油が出よったんなら、今でもなんかあるやろ。あれは、えらい目せんと楽して儲けても後で困る言う作り話や。

みんなそなん言いよった。軍人だけはそれでも騒っぎょったけど、誰も相手にせんかった。

学者が出ん言うんやけん、出ん。みんなそう思とったし、そのとおりやった。


軍人が信念や精神や言うけんの


「ほな、精神や信念で飛行機飛ばしてみい」


言うて呆れとったんや。


そんなことしよる間に戦争激しんなって、その軍人もどっか他所行っての、ようや静こなったんや。


そやけど、こんどは松の根っこ掘れ言われて、せい出してやったんや。

今やったらバイヨ燃料言うんか?それやろの。松の根っこから油が取れるんやと。


昔はそのへんで松茸獲れたんやけど、あれから獲れんようなったわ。

松の根っこ掘っただけやのうて、昔はどこの家も山ん薪取ん行ってそれが松茸生えるもとになっりょった言うんやけど、ほんまかの。


ほんでの、そうやって松の根っこ掘ったんやけど、飛行場の飛行機に使いよんは見たこと無いんや。どこで油作っりょったんやろの。


そなんしょったら高松も空襲されるよんなって、ちょうど油山登ったら高松の空襲がきれいに見えよったわ。


空襲の跡んはの、築港くらいしか残ってなかったんや、ほら見晴らし良かったわ。

高松は戦闘機いうんか、あれも来たらしいけど浅野までは来なんだの。


その頃んは飛行機なしなったんか、飛行場に木や布で作った張りぼて置いとったんや。



え?何の話やったっけ。




そうや、ほんでの、油山の西の端に唐渡言うとこあるんやけど、そこんガソリンカー言うんが走っりょったんや。

唐渡ん隧道。あ、ずいどう言うてもわからんか。とんねるや、今もあるやろ、なんで、あのレンガ落ちて来んのか不思議やろ。わしは怖いけんよう中ん入らん。


それはえんか。


ほなけんどの、とんねる掘ったのん油や出て来なんだんや。あの軍人はなんであんなこと言うたんかわからん。


ほなけんどの、このガソリンカーは儲からんでの、戦争始まった頃ん無しなったんや。


え?話飛っびょる?


そうかいの。



ほんでの、高松ん空襲が何回かあって、ようけ人が死んでの、ほら、おばちゃんおるやろ、おばちゃんやの、防空壕行けんで溝に逃げたんやと。


あ、それは前ん聞いたけんかまんの?ほうか。



そなんしょったら、戦争負けての、そらもう、えらかった。


えらかったけどの、そのうちんの、塩江ん太い道できてええよんなったんや。

昔や築港から歩っきょったんぞ?


あ。その頃か?


ほらお前、みんな油の話や忘っせてしもとるわ。とんねる掘ったのん出てこんし、偉い学者が出ん言うんやけん、出んやろ。



わしもそんな話忘っせてしもとっての。

油山ん土地あるけん、柿植えたんや。


八幡さんあろうが、あれのちょっと東からその向こうまで植えての、精出して柿作ったんや。


だいぶ柿が熟れるよんなった頃かいの、あの軍人が来たんや。


そら、もう軍人ちゃうで、なんとか言う会社やったの。

家来ての、また前と同じ様な事言うんや


「この山は石油が出ます、私に掘らして貰ったら絶対損はさせません。そこの柿畑を掘らせてください」


言うんやけど、おかしいやろ。

とんねる掘ったのん出てこんし、偉い学者も無い言うんや、柿切ってまで掘らせてもしょうがないやろ。


ちょっとこま来よったけど、相手にせんかった。


そなんしょったらの、山の北側ん行って話したんやろ、そこ掘り出したんや。


浅野言う民話やけん、あっちが正解や思たんやろの。

しばらく掘っりょったけど出なんだわ。


それ見て思たわ。

やっぱりあの話は昔の作り話や。


ほれでの、何思たたんかしゃん、掘るとこ変えての、また掘り出したんや。

諦めんとよう掘るわ思て見よったんやけど、温泉掘り当てたんや。

仏生山のあれや。

もう、何でも良かったんやろの。



ほんなことしよったら家の柿が病気んなったんや。

うちんは山しかないし、山や売ってもなんぼもならんけん、わしも温泉掘るとこにしたんや。


ちょうど一宮できらりやったか、え?違う?まあええわ。


あそこが掘ったけんうちも出るやろ思ての。


ほやけど、どしてもでんでの。

そろそろ止めえ言われ出したんや。

お前の父ちゃんにもがいに言われたわ。



ほなけん、もう止める言おうとしたらの、あとが来たんや。


「油田が無ければ、ここは掘っても無駄ですよ。油層にたどり着けない以上、もう止めましょう」


言われたけん、はがいましいての、もっと掘ってやろおもたんや。



ほしたらどいや、油出てきたんや。


見て知っとるやろが、黒無いんやろが。

これの、軽質油田言うんやと。

そのままトラクターが動くんぞ?


ほなけんどの、昔話にあるやろ、取りすぎたらすぐ無しなるけん、がいに汲まんことにしとるんや。


知っとるか?この下んは国が50年使える油があるんやと。

ほなけんど、がいに汲み揚げたらすぐ枯れるんは分かっとるけんの。

昔話にならんよん、しよんや。


会社の名前か?

それはの、この油は八幡さんのお恵みや思うけん、讃岐でも浅野でもなしん、八幡油層鉱業にしたんや。


仏生山のあとははがいましいやろの、まさか自分がある言うても信じんかったのん、温泉掘っても無駄や言うたせいでわしが油掘り当ててしもたんやけん。



ほなけんどの、油がある言うても、あんながめつげんしよったらいかん。あとは温泉やけん儲けよるけど、油やったらもう枯れてしもとるわ。


お前も油当てんしたらいかんぞ?

方言の使い方は間違いはないはず。

油のでる山という民話は実在します。


過去にあの日本昔ばなしでも放送された著名な民話なんですが、今では近くの神社等に説明看板がある程度の廃れた話になってます。


実際に油山という山はも存在していますが、油田があるなんて話は残念ながら聞きません。

作中でも触れたように、怠けては行けないという話だったのかもしれませんね。

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