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0-3 最後に。

 おとうさんがおうちにかえってこなくなった。


 いつ頃だったかは覚えてないけれど、母さんの泣き笑いみたいな表情だけは、はっきりと目に焼き付いている。


 どうしてぼくにはもうおとうさんがいないの?


 そう尋ねる度に母さんは謝るから、傷つくから、けれど簡単に割り切れる程僕は強くなくて。


 もうやだな。


 嫌いになったんだ。

 考えることが、歩くことが、目を開けたままでいることが、生きていることが。

 だって、考えたってどうにもならないじゃないか。

 だって、歩いたって何処にも辿り着けないじゃないか。

 だって、こんな汚い世界、目を瞑りたくなるじゃないか。

 だって、生きてたって


 どうしてぼくだけ。


 今考えたら傲慢だったんだろう。

 よくある話のうち1つに過ぎないのに、まるで唯一の悲劇の主人公振ろうとして。

 一番辛いのは母さんだろう。

 それだけは幼いながらに分かっていたけれど、それでも僕は主人公で居ようとしていて。


 ぼくがおかあさんをまもらなきゃ。


 どうしてかは分からないけれど、僕がいなきゃもう母さんは壊れてしまう気がした。


 だから、いっしょにいなきゃ。


 どうして思い上がれたんだろう。

 壊れそうなものを守れるほど僕は強かったか?


 まもらなきゃだめなのに。


 僕は張り切って、空回って、独りでに壊れていって。

 いつか嫌いになったものさえ、何も思わなくなった。


 ✕✕✕


 アンタは何を考えて生きてんの、そう聞かれた。

 何も考えていなかったと思う。


 アンタは何のために生きてんの、そう聞かれた。

 死ぬ理由がなかった、それだけだった。


 僕は何も無いNPCのままで、…いや、NPCというのは違うか。

 誰とも知れないプレイヤーに言われるままに努力して、命じられるままに歩いて、操られるままに息をした。そんなことが暫く続いた。


 ────────────────────────


 紅い花が僕の目の前にあった。


 高校に入ってすぐだったと思う。初めて見た彼女の笑う顔は焼きつけるまでもなく心に残った。


 どうしてこの子はこうやって笑えるのだろう。


 そう考えるけれど、笑顔の方が彼女に似合うから、その結論にしか行き着けなかった。


 憧れてる、のかな。


 好きになれたんだ。

 考えることを、歩くことを、目を開けたままでいることを、生きることを。

 だって、考えたら彼女のことを理解できるから。

 だって、歩いたら彼女に近づけるから。

 だって、こんな綺麗なものは見ているだけで三人でいた頃を思い出せるから。

 だって、生きていれば


 どうしても彼女と。


 考える迄もなく傲慢だ。

 何処にでもいる僕が彼女となんて。

 それは理解できるけど、それでもまた僕は主人公になりたがった。


 隣に居られたらいいのに。


 どうしてかは分からないけれど、この子と居れば僕は満たされる気がした。


 だから、いっしょにいたい。


 思い上がりだろう。

 壊れてしまった僕を、底が抜けた僕を、どうやって満たすと言うの?


 なんだっていいから。


 僕は話し掛けられて、笑い掛けられて、それだけで救われた気がして。

 いつか嫌っていたものさえ、悪いものじゃないと思えた。


 君は何を考えて生きてるの、そう訊きたい。

 きっと彼女自身ではない誰かを想っているのだろう。


 君は何のあめに生きてるの、そう訊きたい。

 きっと僕のような人を救うためだろう。


 彼女と話して、笑って、いつか三人で暮らしていた時よりずっと幸せでいられて。

 彼女がいるのなら、世界だって綺麗に見えた。




 それじゃあ。

 彼女に迫っているこの鉄の塊はなんだろう。

 彼女がいるから世界は綺麗でいられるのに、それならどうして世界は彼女に牙を剥いている?

 わからない、わからない、わからない。

 考えたって仕方が無い。

 けれど、この場で彼女に危機を伝えたところで、彼女は助からない。

 考える前に伝えればいいのに、未だ目の前で揺れる紅色のポニーテールを、上機嫌な背中を、ただ。


 ────────────────────────


 …それで、どうしたんだっけ、と。

 惚けてみても、しかしその結末なんてひとつしか考えられなくて。

「思い出してくれたみたいだね」

 紅葉が言う。

「まぁお察しの通り私は死にました、これは茜の夢か私の走馬灯です」

「曖昧だなぁ」

「知らないんだもん。私と茜どっちが本物か考えることすらままならない」

「僕は本物だと思うよ」

「おー、どうしてそう思うのかな?」

「例えば僕が紅葉の作り出した幻想なら、僕が知ってることを紅葉が知らない筈無いだろう」

「おー、成程。じゃあ私の知らないことって?」

「熊公友人Bって姉がいるんだぜ」

「知らねぇ」

 笑う紅葉。相変わらず惚れそう。

「にしてもあれだね、私死なないね交差点に飛び込んだのに」

「こっちから見れば分かるけど迫る車がすげぇスローモーション」

「何故」

「夢だからじゃない?」

「いや、違うね私がザ・ワールド使ったから」

「嘘つき」

「こんなん嘘に入らないでしょー」

 割と自信のある説を茶化されて不機嫌になるなって言われても。

 まぁ何にせよ、話す時間が貰えるのは有難い。

 紅葉の言うことを信じるなら(紅葉の言うことを信じないなんて選択肢、僕にないわけだけど)、なんならこれが最後の挨拶になるのだから。

「という訳で最後の挨拶だけどなんか言うことある?」

「母さんへ。取り敢えず僕帰れなかったから夜ご飯カップ麺でも食べといて」

「切実」

「冗談だよ、さておきさ」

「ん?」

「なんで交差点に飛び込んだ?」

「えー、こうでもしないと茜思い出さないじゃん私が死んだこと」

「心臓に悪いわ。じゃあ、なんで交差点から出てこないの?」

「いつでもよけれるかなって」

「なんだ」

「ごめんなさーい」

「…」

「そんな目で見ないでって。反省はしてなくても後悔はしてるんだよ?まだ由莉に何も言ってな


 死人に口は無しみたいな言葉を無視してぺらぺらと喋り続ける紅葉を、突き飛ばした。

「ッ何やってんの!?」

「…やっぱり、嘘吐きじゃん」

 また襲うスローモーション。自分の体が思うように動かせない。

 すぐそこまで迫っているトラックを避けるなんてことは少なくとも出来ないだろう。

「えっなんで!?なんで茜がっ」

 さっきの紅葉もこんな感じだったのか。

 動けないから、友達に別れも告げられない。

「やっぱり茜って馬鹿だったの!?だって、死んだのは私でっ」

 だったら尚更紅葉が死ぬ所なんて2度も見たくない。

「恨む、絶対茜のことずーっと恨むからっ、怨霊になって祟りに行くからっ」

 泣きそうな声で喚き散らす紅葉。

「ねぇ、茜なら私のこと忘れられるでしょ?こんな面倒臭い奴のこと忘れてっ、誰か好きになって、そうじゃないと、許さないからっ」

 許されなくていいよ、と言ったら、もっと泣かせてしまうかな、って。

 言う通り、僕は忘れられるだろう。

 死んだ恋人なんてトラウマもいいとこだ。

 忘れないとやってらんないだろう。

 それでも、忘れたら、僕はまた人形になってしまうから。

 それより、何かを嫌っていられた方が。

「…なんで、茜が行っちゃおうとしてるの?」

 それで、僕が楽になれるから。

 結局僕は自分のことしか考えていないんだ。

 この夢の中で僕が死んでどうなるのかは知らないけれど、お別れになるんだったら、最後に僕の勝手な気持ちを押し付けよう。

「やだ、いかないでよ、あかね…」

 押し付けてから行こう。


「やっぱり大好きだよ、紅葉」


 鈍い衝撃。目の前に広がる赤色はぼくのもの。

 紅葉の髪と、瞳と、見比べても劣らない、綺麗なあかいろ。

 夢の中で死ぬ事はないって、聞いたことがある。

 何だったか、夢は経験の追体験、とか言ったっけか。

 だから、経験したことのない衝撃を、夢の中で感じることはないんだとか。

 それなら、僕の思考がどんどんにぶっていっているのはつまり


 …なんだ、逝かなきゃいけないの、最初から僕の方じゃん


 目の前の上機嫌な背中を押して、突き飛ばした記憶と、最後のさいごでただしいであろうことができたじ、ぶんにしょうさんを送っ















 あかいろがおおった。



 ────────────────────────



「あ、ああ、あああ」

 目の前で光を失っていく眼球は、好きな人のものの筈だった。

 目の前で固まっていく体は、好きな人だったものだ。

「茜だってウソつきじゃんッ!!」

 これが君の夢だったんなら、なんで君がいなくなっても夢が終わらないの?

「自分勝手に行かないでよっ、茜が言うほど私は強いわけじゃないんだよっ!?」

 茜は私が一人でも生きていけると思っているみたいだけれど、そんな訳はない。仙人じゃないんだから。

「なんで茜までいなくなっちゃうの!?」

 話したことはなかったけれど、もう私には父親も母親も妹も母親も父親も。

「私だって、いなかったんだよ…っ!?」

 これじゃ、自分の意思を無くして人に笑いかけるだけの人形だった頃に逆戻りだ。

 それは茜だって知っていた筈なのに、なんで。

「私、もうなんのためにっ…」

 謝るから。

 さっきまで、死んだのが茜だってことを忘れてたことなら、いくらでも。

「だから、いっしょにいてよっ、茜っ、あかねぇ…」

 一人では、私は。


「───────あ」

 茜のお腹に突き刺さった、フロントガラス。

 華奢だとは思ってたけどどんだけ柔らかかったんだうちの彼氏の腹は、と思ったけれど、引き抜いて見るとそれは随分と尖っている。

 ぴちゃ、と、頬に茜色が飛び散った。まだ生暖かい。

 それは、随分と愛おしかった。

「これ、で?」

 茜がいなくて私は生きていけない。

 生きていけないなら、消去法で道なんてひとつしかないじゃないか。

 生きていく道なんて、ひとつだって残されてはいないじゃないか。

「…はは」

 元は透明だっただろう硝子は、茜のその白いお腹の中に入っていたもので赤黒く染められていた。

 それでもって、相当綺麗に見えた。

 顔の高さまで持ち上げる。

 茜だったものが自分の中に入ると思ったら、どうしてだろうか、正体不明の感情がこみ上げた。

 このあかいのを。


 自我の無い人形に戻るのが嫌だからと首に突き立てたそれは、きっと私の意思だ。


こっからキャラメイキングのアレに繋がります。

もうすぐ異世界だやったね(白目)

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