0-0 僕の恋情について
僕は紅葉が好きだ。
別に紅葉と付き合っていることを隠すつもりもないし寧ろ全力で惚気けて行くつもりだから言うけれど、僕は紅葉が大切だ。
自分なんかよりずっと。
これに関しては自分自身が大嫌いっていうのもあるのだろうけれど。
自分か紅葉かを選ぶなら迷いなく紅葉を選ぶと言いきれる。
紅葉だけが僕の全てだ。
無論これは綺麗事を並べたに過ぎなくて、生死の選択を迫られたとしたら生存本能から自分を選んでしまうかもしれないし、紅葉以外にも趣味くらいある(…まるで紅葉を趣味と言ってるみたいだ、否定はしないけど日本語としてどうなんだろう)
けれども、そんな他の趣味で埋められない心の虚を彼女に補ってもらっているというのもまた事実な訳で。
対して、彼女には欠点が無いように思える。
成績優秀で、頭が良くて(この時点で既に窺える僕の頭の悪さ)顔は良くて、運動もできて人当たりも良くて、僕の付け入る隙は見当たらない。
きっと彼女は僕がいなくてもこのまま生きていけるのだろう。
そのことに別に文句を言うつもりはないし、そもそも文句を言える立場じゃない。
少し頼られたいとは思うけれどそれは只の傲慢だって理解している。
凭りかかられただけで潰れてしまいそうな僕を紅葉が選んで頼る理由なんてどこにもないのだ。
僕は彼女に依存しているけど、彼女は僕に依存している訳では無いと、それだけの話。
さて、僕の愛情が一方通行という結論が出たところで、さっきの話だ。
僕と紅葉のどちらかが死なないといけないのなら、僕は彼女のために死ねるだろうか?
…先程は「かもしれない」なんて言葉で誤魔化したけれど、…きっと無理だろう。
僕は彼女のように綺麗な人間なんかではなくて、醜くて、汚い人間で。
彼女を見殺しにしたとて、僕はその亡骸を抱いて泣くだけで、一生後悔なんて出来やしないんだろう。
次の拠り所を探して、他の誰かに『好き』を唱えるのかと思うと、僕は少し…怖い。