銀座クラブのホステス騒動4
銀座クラブ花純のナンバーワン、ホステス雫は思考していた。
さきほどの王者のような風格を持つ男が、この補佐と言われる女の子が来た瞬間、目がとろけるような表情になっていたのを雫は見逃さなかった。しかも、さっきまでだれも座らせていない彼の隣にわざわざ彼女を引き込んで座らせたのだ。
叔父さんと姪っこなどではない。
あの目線に仕草。
恋する男の顔だ・・・
男と女の駆け引きに熟練した雫は感じる。しかも、やっかいだ。忘れ物お届け物係、兼補佐と呼ばれる女はまったく気がついていないようだ。この野獣のようなフェロモンを出す男の想いを・・・
しかも、他の男性達、お客もそうだが黒服まであの恐ろしい眼光で睨んでいる。絶対に彼女を他の男の目に入れられるのでさえ許さないといった嫉妬ぶりだ。
しかも、この二人の会話が全然噛み合っていないのだ。笑える。
「美代。信じてくれ。俺は浮気などしていない・・・」
「はぁ? 浮気とか意味がわかりませんが、蓮司会長の女遊びは今に始まったことではないじゃーないですか・・」
「美代、違う・・そうじゃないんだ・・・一人なんだ・・」
顔を青ざめながら、美代を見つめる蓮司。一方美代は、傍にいる真田が何をしているか気になって、蓮司の言葉を全く流しながら聞いているらしい。
「はあ・・・よかったですね。決まった方ができたんですね。でもそれで銀座遊びだなんて、本命の方にバレたら大変ですね。呆れられて振られますよ!」
絶句してもっと顔色が青くなった蓮司が困惑した表情を美代に見せる。
「フラれる?」
「そういう恋愛って私よくわかりませんが、普通そういうの、不潔っていうんですよ。まあ不誠実ってほうが合っているかな?・・・ちょっと離れてくたさい。見えないよ。真田さんが・・」
「ふ、不潔!???」
実は、美代。歩美にこう言えと言われた。二人の男に絶対『不潔!!!!!』と言えと・・・『まあそれであいつらは死ぬよ・・・』と言っていた。本当かな???と疑問に思っていた言葉を使った美代。
完全にこの美の化身のような男から生気が一気に失われた。
すこし雫は苦笑した。
この二人の会話はまるでコントのようだ。でも、それでも蓮司という男からこの少女みたいな女に対する愛がダダ漏れ状態だ。この女の子を見守る態度がもう考えられないほど甘いのだ。さきほどの王者であった男からは考えられないほどの変わりようだ。
やってられないわね・・・こんなの。
またもう一人のホステスも隣にいた男に気をとられすぎで、美代が目にはいらなかった。
投資家と思っていたテイが、どうやら本当は会長の補佐らしいと話の流れ的にわかってきた。でも、今彼が補佐だとわかった今でも、雪の動いた心は衝動が抑えられなかった。
ーーやっぱり欲しい。この男。
「でも真田様。やっぱりすこしくらいは銀座にはまっていただきたいわ。できれば、私にハマっていただきたいデスけど・・・」
雪は後に現れた美代を完全に無視して、真田に話しかけた。真田の眉はピクともしないし、視線は相変わらず、蓮司と新しく入ってきたチビの女だけを見ていた。
だが、美代がその雪の胸元に目線を落とす。
美代がその雪の胸元を見てハッとした。本来なら真田を捕まえてこのクラブを去る予定だったが、この手慣れたクラブのホステス達にあれやこれやと話され、なかなか帰るタイミングが伺えない。さきほどなどは、最後までいるとも言ってしまった。
だが、真田の横にべったりと座る雪という女の首元が目に入ると帰りたい気持ちが一気に吹き飛んだ。
「そ、それって・・・す、素敵ですね。そのペンダント・・・」
蓮司が動いた。
「似ているのか?」
その意味の深意を捉えようと美代の目の奥の色が揺れた。その色の変化を蓮司が捉える。彼の心のなかで答えが出たようだ。
美代の手をぐいっと握り、一緒に立ち上がらせる。
「美代。帰ろう。もう大体わかった。あとは真田に任せる」
「え・・・何言っているんですか?」
美代が驚いて蓮司に問いた。
「今日は真田にちょっとだけ遊ばせてだな、恐ろしさを味合わせようと思ったんだ・・・本人も知っている。しかもちょっと調べないといけないことがあってな」
ニヤリと微笑んで真田を見る蓮司。
「んん・・まあ真田、言われたことができるまでここに通え。命令だ!」
「だ、だめです。会長!!真田さんをこんな世界に染めさえるのは!!」
美代が真剣に心配しだした。命令で銀座クラブ通いってどんな仕事なんだ!?道楽すぎるっと美代は思う。
「美代。おまえは真田を心配しすぎる・・・」
蓮司がいまにもトロけそうな顔を美代を覗き込む。
あまりのそのフェロモンにさすがの美代も慄いた。
「こんな場所に、お前が見られているというだけで、我慢ならん・・」
ーーーひぃいいい!!!
その微笑を向けられ、ダメだよ、その笑みは反則!そう思った瞬間、美代は大きな手が腰に回ったかと思うと、いきなり蓮司会長に抱っこされた。
「な!なんで!!」
美代はいきなりの蓮司の行動に叫ぶが、そんな美代をニヤっと見ながら、美代を腕の中にしまいこむ。
「真田。お前にここは任せる。十分遊んで帰れ。アレが達成されるまで、おまえはここに通い詰めだ。わかったな」
「!!!!!!!蓮司会長!!」
「そ、そんな真田さんが!!かわいそうじゃないですか?」
お姫様抱っこされている美代を蓮司が怪しい顔つきで覗き込んだ。
「美代。どんな世界だ・・ここは・・」
「よ、夜の世界です・・お金とか・・・いろいろ・・」
「男と女の世界だ。美代・・」
「男と女の世界・・・」
「美代ももっと知りたいか?」
ブンブンっと首を横に振る。美代の野生の勘がそうさせる。
蓮司の切れ長の瞳の中に男の欲望が妖しく光った。美代はその視線を間近で感じ、今までにないようなゾクゾクとしたものを背筋に感じた。
そんな様子を見ていて、たまりかねた様子の雫が中に入る。
(こんなんじゃ、この子、目の前で喰われそうじゃない。全く)
「美代さん。そんな私たちも銀座の女よ。節度はわかっているわ。心配しないで。私が約束するわ。真田さんが身の丈にあわない遊びをしないように見張っているから大丈夫。でも、今日は蓮司会長のお許しがあったみたいだから、その辺は、まあ見逃してちょうだい・・」
「雫さん・・・」
「真田さんも男なのよ。美代さん。だから、ちょっとお遊びも必要よ・・・」
雫の色気とその言葉の内容を理解して、美代は顔を赤くさせた。そして、その先にもっと顔を赤くさせたり顔を青くさせたりした真田が、じっと助けを求めるかのように美代と蓮司を見つめている。
「・・・美代様・・違うん・・・」
「じゃー、真田。まかせた。お嬢さん方。真田を改めてだか、よろしくな。特に、雪さんかな?」
名前を出された雪が驚いて、美代を抱っこしたままの蓮司を見つめる。見られた雪は、改めてこの蓮司という男の美形ぶりに頬をピンクに染めた。
「は、はい。会長様。わかりました」
そして、周りのホステスたちが嬉しい悲鳴とともに反応する。
ーーいいじゃない。補佐でも。あの蓮司会長の信頼おける部下。(ホステス歴2年 ヘルプ カレンさん)
ーー欲しい!!いい顧客になりそう。(ホステス歴5年 雪さん)
ーーイケメンだし。(ホステス歴2年 みかさん)
ーー草食系っぽいから、操れそうだし!!(ホステス歴8年 すみれさん)
!!!!!!!真田は残された。銀座の女豹たちに・・・
しかし、その夜の新たなる銀座伝説が生まれた。それは次回のお話に・・・
そして、美代はそのまま会長に抱っこされたまま、外に連れて行かれた。まるで、人目から腕の中のものを隠す子供みたいに・・
<追加情報・・・美代さん、基本インドア系なんで、色白です・・・>