銀座クラブのホステス騒動2
美代sideの話
明日のことで急に休講だと思っていた授業が入ってしまった。しかも、いま受講している科目の一つがわからない点が多く、担当の教授がわざわざ時間をとって質問が多い生徒たちを集めて補講してくれることになった。
それが明日の話だ。だから、いま夜間だが、忘れ物お届け物係としては出動は夕方以降になってしまうと真田に連絡したいと思った。
真田に電話する。ワンコールで必ず出る。
「はい。さな、いえ、あの、如何されましたか? 美代様」
あれ、名前を言わない真田さん? なんか電話口の様子が怪しい。いつもの歯切れがない。
しかも、いつもなら静かなバックブランドがなにか軽いクラッシックの音楽とざわざわと人の会話が聞こえて来る。
「・・・・・どうぞ。・・もう一杯いかが・・・・」
電話の奥から聞こえて来る女性の声に驚愕した。
美代のあまりいつもは発揮されない野生の勘が動いた。
「さ、真田さん!!!銀座のクラブとかに今いませんか?」
「えええ?」
「(やっぱり、この動揺の仕方!)あの前も心配だったんですけど、やっぱりプライベートの話だから、口を挟むのをやめようかと思っていましたが、そういうの似合わないと思います。お金もかかるし・・・破産しちゃいますよ。とっても高いんだって、まえ歩美ちゃんが教えてくれましたから・・」
「(ええ?でも、ここで歩美ちゃんの名前!!、やっぱり美代を勧誘しているのか?夜の銀座のお仕事に!!!)ち、ちがいます。そうですけど、ちがいます。なぜなら蓮司会長も一緒です。」
財務担当大臣が横にいることを説明したいがために、思わず蓮司の名前を出してしまった。
言った瞬間・・・真田は自分の失態を感じた。
え、俺何言った? やばいぞ・・・・
「蓮司会長もいるんですか? でも、真田さんはこういった接待いままで出たことありませんよね・・・」
「・・・・・・はい」
「つまり、蓮司会長が心配して、わざわざ真田さんをクラブに連れ出したのですか?」
「・・・それは、語弊があります。美代様・・・」
「私、いまそちらに向かいます」
「ええ??」
美代はなぜかイライラしていた。たしかに、真田さんには蓮司会長に連れてってもらえたらいいですねと提言したが、まあ本心ではない。だって、同僚が破産したら、困るではないか・・・クラブ狂いが心配だから相談したのに!!なぜその本人をまたクラブに連れて行くのだ。しかも、蓮司付きだ。それって際限なく遊べちゃうじゃん。お金とあのフェロモンだけは有り余るほどあるんだから!!あの男は!!
あの色魔。いっつも女性とくっついている。最近はなぜかその遭遇率は低いが、節操がないには変わらない。だから、別に最初から蓮司の女遊びについてはわかっている。でもあのお正月からの甘い視線や言葉にやっぱり惑わされていた自分が嘆かわしい。でも、あんな色魔の悪い癖がある上司に同僚が悪い影響を受けるのは見ていられない。
伊勢崎さんに連絡した。時間外なのに悪いと思ったが、
「すみません。同僚の真田さんの危機なんです。蓮司会長の女遊びに染まらないように助けに行かないと!!」
電話口の伊勢崎は最初無言だったが、
「蓮司会長の女遊びですか・・・・そんな言葉をまさかあなた様からお聞きする日がくるとは、想像できませんでしたが、美代様のご希望とあれば、致し方ありません。いますぐに迎えに行きます。蓮司様の場所もわかりますので、どうぞご安心を・・・」
***
外は冬の星空が綺麗にきらめき、白い息をはき出す人達が銀座の夜の賑わいに彩りを添えていた。そんな中、銀座一番と歌われるクラブ花純。そこの店に入店が許されるというだけで、成功者という証。
しかも、そのクラブでも一番の顧客がVIPしか席が許されないと言われるホワイトシート。
そのVIPの席で、出される酒さえ手をださずに陰鬱に顔を青ざめながら、手を前に組み考えこんでいる極上の独身男がいた。
「か、会長。わかってくださいますよ。説明をすればですね・・・」
死人だった蓮司の目が、ギロっと真田を睨み付ける。
恐ろしさで背筋に悪寒が走る。なにも言えなくて、真田も下を向いたままだ。
「一人に絞ったのに・・・」
「・・・わかります」
「わ、わからないだろう・・・あいつには!!」
「申し訳ありません・・」
そんな陰鬱な雰囲気をホステスたちもなにかとてつもなく異常と感じたか、なるべく明るい話題へと進めるが、一向にこの美男子二人は眉ひとつ動かさない。
すでに、テイと呼ばれていた男が、なぜ日本名もあるのかとだれもツッコミさえできないような雰囲気だ。
クラブホステスのナンバーワンと言われた雫もうこの二人の接待は絶望的だと諦めた瞬間、黒服の男が自分の耳元に囁いた。
「蓮司会長の忘れ物お届け係という“補佐”と言われる方がお見えです。お通しになりますか?」
***