真田 美代の子供騙しに引っかかる
今日もソツなく日が終わりそうだ。
ありがたい。
あーー、美代様がこちらに同意のうえ、引っ越されてから、なんて素晴らしい日々が続いているのかと真田の胸が熱くなる。
今日も主人が深夜の帰宅をした。通常業務の上、さらにあの美代様の件の後始末がかなり忙しいようだ。でも、どうだろうか? 死にかけていた獅子がまるで生まれ変わったかのような生気を主人から感じる。こんな蓮司は見たことがなかった。ここまで立派になられた蓮司の背中を見ながら、時々目頭が熱くなってしまう。
後は時間が二人の溝を埋めてくれると思っていた。
ああ、蓮司様のお子様を抱いちゃう日が思ったより早く来ちゃうのだろうか?
それだけで、意外と子煩悩な真田は、ぱぁーーーっと世界がバラ色に見えた。
あーー、でも、学生で妊娠してしまうと大変だな。美代様がそのようなことまできっと考えられないであろうから、今からめぼしい女性の人材を揃えておくべきだなと思う。
つつがなく卒業をしてもらうためには、お母さんが信用出来る経験者で、乳幼児の健康管理をキチッと出来る方、うーーーん、幼児教育の免許がある人がいいだろうか? あ、いや、それとも英才教育の大家を呼ぶべきか!
悩む…………。
そうだ、そうだ。何事も先回りしなければ。
そんな妄想をしながら、まあ真田にとってはれっきとしたプランニングなのだが、自分の部屋に入っていく。オートロックのドアは確かに閉まっていた。
2時間前。
美代は私室にいる真田を訪ねた。
今回はある目的で来た。上手くいくかわからなかったが、中日辞典を借りに来た。広東語がペラペラの真田さんが持っているかなと思ったら、ドンピシャだった。
「中日辞典ですか? 中国に興味があるとは知りませんでした。少々お待ちください。でも、これは北京語ですよ。広東語ではありませんので」
真田さんが部屋の奥に消える。この古典的な手口が効くとは全く保証がなかった。やってダメなら、笑い飛ばすしかない。真田さんのドアの側面に頑丈なテープを貼る。これなら、オートロックが閉まらないかもしれないと思った。でも、大原家の住み込み補佐の部屋だ。まさかそんな簡単にいくとは思えない。そして、辞典を借りてそこは立ち去った。
…………え、出来ちゃう?
いま、主人が消えて誰もいなく閉まっているはずのドアが開いた。
周りを見回す。誰もSPらしき人は見当たらない。そーーっと真田さんの部屋のドアを開ける。後で知ったのはこの別館内は、プライバシーの問題から、SPは配置されていない。ただ、外からの侵入に対しては、滅茶苦茶厳しいと山川さんが教えてくれた。そして、あのテープを剥がした。
………失礼いたします。ごめんなさい。真田さん、朝まで考えたいんです。このベット貸してください。
無断で真田のベットに沈んだ。
そして、蓮司から逃げることばかりで考えが足りない美代は気がつかない。ベッドの主もここに帰ってくることを。