確認なんですが、お返事はしなかったと思います。
「え、会長、私はお返事しましたっけ?」
この質問をもう一度してみた。
30分前。
何でしょうか? この轟音と騒音。外が嵐とは違った音がする。まるで大人数がアパートの鉄階段を上がっているような音だ。
あの意味深な質問の後、いきなり蓮司が布団のシーツで美代をぐるぐると巻き寿司のように拘束した。
ニヤっと微笑む顔がなんかヤバイ。
「会長! これって、なんのいたずら?」
もう、明け方に近いはずであり、嵐は山場を過ぎていたが、風や雨はまだ多少続いていた。
蓮司がただ窓に向かって手を挙げただけだった。
ただ、それだけの仕草だった。
ドアの鍵が普通に平然と開けられ、そこにあのSPチームがガタガタと入ってきた。
ーーな! 鍵! どうやって入れたの? 鍵、閉めたよね!
考える隙もないくらいの素早さで、武装したチームに囲まれた。
「イーグル確認、リス確保、移動開始」
ーーえ、何か嫌な予感だ。イーグルって多分会長だ、リス? リスって何よ!
「あの、蓮司会長? これって!」
と言った瞬間、シーツに包まれたまま蓮司に抱っこされた。
「お前は俺と一緒に住む。そう承諾しただろ?」
「え、何も返事など...」
「ふっ、馬鹿だな、無言は昔からyesという意味だ」
「え? 何? なんの文化の話!!」
「おい、ばたつくな、そんな暴れるとシーツが剥がれるぞ」
はっと、思う。そうだ、このシーツの下はヤバイ。あの恥ずかしいマークがあられもないところまで付いているのだ。
無理やりアパートの階段をお姫様抱っこされて降りた。
降りて、愕然とする。
人間トンネル?
降りしきる雨の中、二列に整列した蓮司専用のSPチームが傘を交互にさせて、道路に置いてあるいつもの乗り物へ、傘のトンネルを作っている。もちろん、本人たちはずぶ濡れだ。30名ほどいた。
その傘トンネルが黒塗りの車まで続いている。
「気が効くな、山川」
「会長の奥になる方、当然かと思います。お身体に支障があってはなりません」
ーーなに? オクって?
慌てていると、何かが目に入る。
なんだろ、いつもの黒塗りの後ろには巨大なキャタピラーがついているごつい乗り物があるじゃないか。
「あれは? まさか、会長のもんですか?」
「あ、まあ念の為だ……」
「……」
「まあ嵐が静まって良かったな。あれは中に冷暖房がなくてな、寒いぞ。まあ俺が暖めれば問題はないがな」
ーーえ、なにそれ! 拉致しようと思っていたの? 嵐でも構わないでってこと?
身体に悪寒が走り、ぶるっとした。
その皆様が作っていただいている傘のトンネルの中を潜り抜け、車に乗り込んだ。
「美代、今日から俺と一緒に住め」
「は? え?」
「お前が横にいないと、落ち落ち寝ることもできない」
車の中でギャーギャーと反論したが、全く相手にされない。笑われたりキス!されたり、しまいには、
「そんなかわいいこというなよ。ここでは、抱けないからな」
な、なんて言う始末。
おい! おかしいぞ! 日本語が通じない!
なんども言いますが、お返事はしなかったと思います。