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団長の思い

「たのもー!」


「なんだよ、それ」


 サーカスの一座を訪れて、私が叫べば猫姿のミネがすかさずつっこんできた。


「一度でいいから、言ってみたかったんだ」


「どうでもいいから、真面目に試験をしろ!」


 そんな会話を交わしているうちに団長のリオンがテントから出てきた。


「またお前か、何度来ても同じだ。帰ってくれ」


「待って下さい、どうしてサーカスやめちゃうんですか? それだけでも教えて下さい!」


「……もう、おしまいなんだよ。サーカスも、グホンも……」


 真剣な眼差しで呟いた言葉に私は押し黙ってしまう。リオンは、そのままテントの中へと戻っていった。


「グホンさんが関係してるってこと?」


「だろうな、グホンのところへ行ってみよう」


 私は頷いて指輪から羅針盤を出すと、グホンがいる場所を教えてもらい、そこへ向かった。グホンは、あいかわらず落ち込んでいるようすで広場のベンチに座り込んでいる。


「グホンさん!」


「あ、天の使者様……」


 様付けで言われたことに思わず、舞い上がったがミネに睨み付けられてたたずまいをただしてグホンに告げた。


「やっぱり、リオンさんから聞き出せませんでした。すみません」


「いえ、こちらこそ、わざわざ私事なのに真摯になっていただいてありがとうございました。団長が決めたのなら、仕方ありません。それでは」


 そういってグホンは、とぼとぼと歩いて行ってしまう。


「なにか出来ることがあればいいのだけれど」


 そうだ、と思い立ち私は指輪に口づけを落とすとポンという音と共に耳当てがあらわれる。


「おまえな」


「いいじゃん、いいじゃん」


 私は笑ってごまかして耳当てをあてる。すると、私が思っているところの音を聞くことが出来るのだ。


『はあ……グホンには悪いが、サーカスはもうおしまいなんだ。最初は盛況だったが、グホンの考える芸は誰にも、うけない。だからといって、親友であるグホンのいないサーカスなどしようとは思えない』


「そっか、そうだったんだ……」


 リオンの言葉を聞いて私は思わず呟いていた。


「どうにかして、リオンさんの思いをグホンさんに届けられないかな」


「………」


「そうだ!」


 私は声をあげるとまた指輪に口づけを落とした。



 ほうきを使って二人のようすをながめることにした私は今、上空にいる。


「うまくいくといいけれど」


 ハラハラとしながら私は二人のようすをながめる。リオンがテントから出てくれば、グホンがあわてたようすでリオンにかけより、何やら声をかけた。

 話の内容までは、わからないもののグホンは涙を流しながらなにかを訴えている。

 耳当てを出して、二人の会話を盗み聞きすることにした。


『リオン、なぜもっとはやくこのことをいってくれなかったんだ! もっとはやく言ってくれれば』


『お前にいったら、傷つけると思って黙っていたんだ。気の弱いお前のことだ。落ち込んでふさぎ込むだろう』


『たしかに、そうなってたかもしれない。けど、なにも聞かされ無いままだった方が嫌だ』


 グホンの言葉にリオンは、今までの表情をやわらげてほっと息を吐く。それから、『そうか』とつぶやいて『勝手な懸念だったか』と言ったかと思えばグホンと抱き合う。

 どうやら、仲直り出来たようだ。


「よかった」


「まさか、“手紙”を使うとは思わなかったぞ」


 私のとなりでミネが呟く。

 そうなのだ。人の心をうつしだす手紙をグホンに渡して、心のうちを知りたい相手を思い浮かべるよう助言したのだ。

 見事、手紙はリオンの心をうつしだして、グホンに思いを届けてくれた。


「えっへん!」


「いばるなよ」


 あきれてミネがつぶやいたけれど、私はそんなこと気にならないくらい二人が仲良くしていることが嬉しかった。

 そのとき――二人のこぼした涙がかさなって宝石のように形をなしてきらめいた。


「ベル」


「うん!」


 私はガラスの小瓶をとりだして、フタをあけた。瓶のなかにきらめきながら、その涙が入る。


「これで、この世界の欠片は回収した。次の世界へ行くぞ」


「うん、行こう!」


 私はひるがえして、“月の影”へと入っていった。



***



「どうかしたのか?」


 空を見上げるグホンにリオンが問いかける。


「なんでもないよ。ただ本当にあの子は不思議な女の子だなと思って」


「そうだな、本当に世話好きで変なやつだったな。今度、あったら礼を言おう」


「そうだね」


 そう答えながら、グホンはあの子にはもう逢えない気がしていた。


(あの子は本当に天の使者だったのかな)


 空を仰いでグホンは満面の笑みを浮かべた。

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