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ぬいぐるみの王国

「きゃああああああっ!」


 ほうきが言うことを聞かず、異空間の扉をくぐったあとも早さが弱まる様子はない。


「ぐわあ! 止めろよ、ベル!」


「むりー!」


 そのまま木の中へ突っ込んだ。ようやく、ほうきは動きを止める。


「あいたたた……」


 せっかくの上質な絹の服もどろまみれ、草まみれになってしまう。


「いいかげん、ほうきの操作の仕方ぐらい覚えろよ、ベル」


「かんたんに言うけど、難しいんだからね!」


 使い魔であるはずなのにミネは、いつも偉そうにそんなことを私に言う。むくれながら何か言おうと口を開いたとき、ふと周りのようすに目を輝かせた。

 周りはぬいぐるみのような可愛い生き物がまるで人のように歩き回っている。本を読んでいたり、買い物をしていたり……すべての動作が可愛い。


「ミネ! 見てみて、プリッシュ王国についんたんだ!」


 うきうきとしたようすで私が辺りをくるくると見回していると、ベンチに座っているパンダのようなぬいぐるみが落ち込んでいる。

 気になって、思わず声をかけた。


「ねえ、どうしたの?」


「うわ、なんですか、あなた! 体大きいし、化け物ですか!」


「違う、違う。あなたの悩みを解決するためにやってきた、天の使者……かな?」


 ミネが「何いってんだ、こいつ」みたいな顔をしているけど、この際は知らないふりをしておこう。この試験を受けている間、自分の素性を知られてはいけないのだ。


「天の使者ですか。それなら、話してもいいか……ボク、グホンっていいます。サーカスをしているのですが、そのサーカスの団長がサーカスをやめるといいはじめて……どうしてなのか、教えてくれなくて……」


「わかりました、私が聞いてきます!」


 思わず駆け出しそうになったが、思えば場所が分からない。


「ねえ、グホンさん。サーカスってどこにあるの?」



「部外者が知る必要は無い」


 ライオンのぬいぐるみ……もとい、サーカス団の団長であるリオンにばっさりとそう告げられた。


「なんで、ですか!」


 リオンは怒る私に背を向けて、さっさとサーカスのテントへと戻ってしまう。


「ごめんね、グホンさん。役に立てなくて」


「ううん、こちらこそ、わざわざ来ていただいたのにすみません。やはり、サーカスはやめてしまうんでしょうか」


 しゅんと肩を落とすグホンを気にするようす無くミネはリオンの方をじっと眺めていた。




 夜になり、宿を取ることも出来ないので(建物がすべて小さいので)指輪に口づけを落とし、人里離れた場所で家を出し、そこに住むことにした。


「ねえ、ミネは何を気にしていたの?」


「ああ、あの団長とかいう男……なにか、隠してる」


「やっぱり! あの恐そうな見た目だもの、きっと悪いことをたくさんしてきてるに決まっているわ!」


「どうして、そうなるんだよ!」


「違うの?」


 ミネは後ろ足だけで立って右の前足で私をビッとさした。


「おまえは、何のためにここへ来た?」


「はい! 人々の心を浄化し、心の中にある迷宮の庭園――カタルシスに眠っている感情を目覚めさせて、あふれる感情の欠片をあつめることです」


「なら、もっと人を見る目を養え!」


「ミネのくせに偉そう……」


「僕は偉そうでいいんだよ。そもそも、僕はベル自身に呼び出された使い魔じゃ無くて、王様がベルを守るために呼び出した使い魔だし」


「むむう……本当のことだから、言い返せない」


 悔しそうにしているとミネはいい気になって、人間の姿へ変貌した。悔しいが、人間の姿になっているミネはイケメンでかっこいい。むかつくけど。


「よしよし、良い子良い子」


 そんなことを言って、頭まで撫でてくる。


「子ども扱いしないで!」


「子どもだよ、僕からすればベルはまだまだ子ども」


 いくら五歳の時から一緒にいるからといって、この扱いはひどい。


「いつか大魔法使いになって、あんたをぎゃふんと言わせてやる!」


「はは、楽しみにしておく」


 余裕の表情を浮かべるミネを睨み付けたけれど、まったく効いていない。思わずため息をついて、窓から空を見上げた。


「よし、明日からグホンさんのためにうごくぞ!」


 決意をかため、私はぐっと拳を握りしめた。

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