プロローグ
「ベル、この試験に合格できれば、お前は一人前だ」
魔法の国――ここ、シャルム王国の王城でこの国の王女であるベル。つまり、私はこの国の王様である父上から最後の試験を受けていた。
内容は別の世界へとおもむいて、その国の人々の心を浄化し、その心の欠片をあつめてガラス瓶に詰めるというもの。
「はい、父上。この国の王女として、必ずやこの試験に合格します!」
「……うむ。しかし……うう、こんなにも早く最終試験となろうとは……! ベル、さびしくなったらいつでも戻ってきて良いんだよ」
「ばかいうな」
泣き出さんばかりに言った父上を叱ったのは、となりにいる王妃つまり母上だった。
「試験の途中で国に戻ってきたりなんかしたら、その時点で試験終了だよ。ベルも、ちゃんとわかっているね?」
「ええ、もちろん、母上。それでは、行って参ります!」
私は二人に背を向けて、部屋をとびだした。そこには、すでに私の使い魔である黒い猫の姿をしたミネが待ち構えている。
「もう~、待ちくたびれたよ」
「ごめん、ごめん。お父さんの話が長くて……それじゃ、もう行こう!」
私は右手の薬指に付けた指輪に口づけを落とした。すると、ポンと音を立てて魔法の力を宿した竹ぼうきがあらわれる。それにまたがれば、ほうきは青い空へ向かって飛び上がる。
「わあ! いきおい強すぎ」
「まったく、あいかわらず空もろくに飛べないんだから……」
「む! ミネ、ここから落ちたいの?」
「う、それだけは勘弁して。それよりも、どこの世界へ行くのか決めたのか?」
「うん。どうせ、行くならかわいい世界に行きたいなと思ってジュエっていう世界のプリッシュ王国にいくつもり!」
「はあ、なんであんな国に……って、うわああああ! スピード出しすぎぃ」
「ほうきが言うこと、聞かないのー!」
ほうきのスピードはぐんぐん速くなっていって、ついには空の雲をも追い越して、そこでやっと動きが止まった。
「はあ…はあ…こんなので、私やっていけるかなあ……」
「それはこっちの台詞! はやくしないと異空間の扉がしまっちゃうだろ」
「ほんと! いそがないと」
私がそう叫んだとき、またしてもほうきがスピードをあげて異空間の扉である“月の影”に飛び込んだ。