死んだフリに意味は無い
米倉二等兵 主人公
長田軍曹 米倉の上官
竹中ミツト 商人。
陳レイ 竹中の護衛
甲斐国 新府城
神歴33年9月21日
長「出発準備良し。門を開けてくれ。」
「はっ!」
警衛が門を開ける。
4人の男達が門をくぐり、外へ歩き出した。
長田は自衛隊迷彩服、米倉は上下濃緑の作業服に弾帯、黒色の工事用ヘルメットを装着し、バックパックを背負う。
一目で兵士と分かるだろう。
長田の装備は64式小銃と9mm拳銃。
米倉はA303散弾銃とニューナンブM60を携える。
竹中は米倉と同じく、渡された作業服を身に付けボロボロのマントを羽織い、ニューナンブM60をズボンのポケットに入れていた。
陳はタンクトップの上に前を開いた灰色の半袖パーカー。下は迷彩服だが、見た事のない柄だった。
連弩を手に持ち、矢筒は背中に背負っている。
今回通る 新甲州街道 はいわゆる『正規ルート』であるが、大きな障害物が無いのと警備兵の巡回ルートである事以外には、特に他の道と変わらない。安全では無いのだ。
(鬼が出るか蛇が出るか…ってとこですかね…)
◇ ◇ ◇ ◇
河原で昼飯を済ませた後、山沿いの道を歩いて行く。
左の斜面は草が生い茂っているが、大型獣蟲が隠れる事は出来ない。
右に視線を移す。向こうの山まで開けた土地。背の低い草が生え、ポツポツと崩れた民家が見える。
米「もうあの辺は探索済みなんですかね?」
長「多分な。探索隊に所属した事が無いから分からん。」
竹「フィールドワーカーって奴ですか。それを生業にしている人もいますよね。」
米「そうですね!そういった人とも取引をするんですか?」
竹「ええ、たまに…ですが。」
しばらく歩くと、建物が幾つか見えて来た。
長「もう少し歩けば小さな町跡に着く。そこで休憩だ。」
(町跡…日陰があればいいですが…)
陳「おい!あれ…」
護衛の陳が指差す方向を見ると、森から鹿の群れが飛び出してきた。
鹿…といっても戦前の鹿より一回り大きく、少し首が
長い。雄はかなり凶暴だと知られている。
(何かから…逃げてる?)
鹿の群れは次から次へと飛び出してくる。只事ではなさそうだ。
長「嫌な予感がする…急ごう。」
そう言った時だった。
バキバキバキ‼︎
森の中から姿を現したのは、無毛のヒビ割れた皮膚に覆われた 熊 であった。
体長は4、5メートル程か。
長「象皮熊…‼︎」
米「最近南下してきたとは聞いてましたけど…あんな大きな…」
竹「うわ…うわ…うわ…」
陳「旦那!しっかりして下さい‼︎
おい!さっさと逃げるぞ!」
町跡へ向かって走り出す4人。
陳「こっちに気付いたぞ!!!」
「ブォッボォオオッ!」
象皮熊が雄叫びを上げながらこちらに向かってくる。
長田が走りながら64式小銃を撃ち込む。
だが奴は怯まない。
米「町跡に入れば、隠れる場所がある筈です!どこか…どこか…」
ようやく4人は町跡の入り口まで辿り着いた。
今はもう誰も住んでいない町。
角を曲がり、奴の視界の外へ。
すると『ホテル』と書いてある大きめの建物が目に入った。半分程崩れているが、その他も焼けているか崩れている。
1番マシそうだ。
形を保てている建物も向こうにあるが、時間が無い。
陳「あのホテルって建物に入るぞ!
さあ旦那!こっちへ!」
割れたドアから中に入ると、上下に向かう階段が見えた。
米「地下へ!幾らか頑丈です!」
『管理人室』と書かれた部屋に入り、鍵を閉めた。
ハァーっハァー…
皆息が上がっている。
長「とりあえず明かりだ…ランタンに火を付けろ。懐中電灯は少し待て。」
米「了解!」
ボッ
ランタンに火をつける。
中は埃が舞っているが、そこまで酷いものではない。
(最近まで誰かが拠点にしてたのかな?)
ズン…ズン…
象皮熊の足音が響く。
じっとして息を止める。緊張のせいか。
しばらくこの建物の周りをウロついていたが、もう聞こえなくなった。
カチッ
懐中電灯を付ける。
大分部屋は明るくなった。
竹「ヒッ…ひっ…」
陳「落ち着いて。もう大丈夫です。」
(まだ商人さんは落ち着きませんね…)
長「…予定変更だ。念の為、今日はここに泊まろう。」
米「了解しました…」
重々しい空気が漂う。
思わず三人から目を背けると、壁の一角に幾つも紙が貼ってあるのを見つけた。
(これは…新聞ですかね。)
所々切れたり汚れている。
小さな文字はほとんど読めない。
読めるのは見出し程度だ。
(戦前のものかな…)
『南米 混 続く』
『 の悲願 朝 統一 府発足』
『英・仏 の危機』
『 中 戦 前夜』
『護 艦隊 海軍に 勝』
『 に隙 国 が九州上陸』
長「米倉!少し早いが夕食にしよう。明日は早朝に出発する。」
米「はっ、はい!」
(私は歴史学者じゃないですから。)
そう言い聞かせ、まだ読みたい気持ちを殺す。
米倉は夕食の準備を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
長「なあ、護衛の陳さんよ。あの商人とは長いんだろ?本当に昔からそんな感じなのか?」
2人が寝静まった後、長田が口を開いた。
陳「…なぜそんなことを?」
長「おれもそんなに話すのは好きじゃない。
だが、余りにも気になってな。
旅商人なんてのは肝が座って無いと務まらん。
ましては甲州商人連合だろ?
だが彼は…」
陳「…旦那もついこの間まではもっと活発だったさ。
だが、ラプトスの群れに襲われて護衛が死んだ時、いや、死なせてしまい、旦那は自分を責めたんだ。」
長「それであんなビクビクな…。分かった。ありがとう。」
2人は眠りにつくため、目を閉じた。
クマって怖いですよね。
ちなみにヒグマは本州に生息しておりません。
象皮熊は北海道からの南下もしくは動物園等にいたものと思って下さい