甲斐国 新府城
1人目の主人公は甲斐国軍の新兵、飯野二等兵です。
甲斐国 新府城
神歴33年9月16日
カチャッ カチン‼︎
スライドを引き、引き金を落とす。
よし、異常無し!後は上部被筒を付けて…
「おい!飯野!64式小銃の整備はまだ終わらんのか?さっさと夕飯行くぞ!」
…立野上等兵だ。自分の銃整備をさせといてなんだってんだ…
「すいません‼︎すぐ行きます!」
立野上等兵はやれやれと首を振り、軽く髪の毛を立て直している。
64式小銃を定所に格納しつつ、自分の銃をチラリと見る。思わず溜息が漏れる。
不恰好に飛び出したネジ。握把は錆びており、銃身であるパイプは小さく凹んでいる。
これは最初に支給された銃、「簡易騎銃乙型」だ。
この銃はパイプや鉄くず、木などをネジや針金等を使ってボルトアクションライフルに近いものに仕立て上げられている。
技術の損失により、過去の遺物である64式小銃や89式小銃のように同一の材料、規格で製造するのが難しく、せいぜい修理程度しか出来なくなった。
そのため甲斐国では、新たに製造する銃はおおよその構造を示すのみで、構成部品はその場に任せるというスタンスが取られている。
このスタンスの発祥は、山を越え、甲斐国の東に位置する「日本帝国」である。
三之丸を出て食堂のある本丸へ向かう。
「相変わらずこの坂はダルいな〜…そうだ飯野!俺をおぶってけ‼︎」
相変わらず無茶を言う先輩だ。見た目は細いが、筋肉のせいでこの人は凄く重い。この前やらされて思い知った。
「いやいや…あ、そういえば!昼頃騎馬隊が出て行きましたよね。何があったんですかね?」
面倒なので話題を変える。
「んお?あー、警備騎兵が商人の双頭牛の死体を発見してな、明らかに襲われた跡があるから、無線で応援を呼んだらしいぞ。」
「そうなんですね。」
「それよりよー、お前いつまで丸坊主なの?髪伸ばせば?」
「いや、丸坊主の方が楽なんで…」
そんな話をしているうちに本丸が見えて来た。愛しの夕食は目の前だ。
…新府城
韮崎にあるこの城は数百年前に造られ、そのまた数百年後に文化財として復元されたそうだ。そして今、再び強固な要塞として人々の生活を守っている。
きっとこの先も、甲斐国西方の護りとして機能し続けるだろう。