擬態
鎌倉 横須賀中央駅前
神歴33年10月6日
作戦要領をヒラヒラさせながら、長田は呟いた。
長「彼女を含め、正面ゲートの予備役は皆死ぬぞ。」
ギョッとした顔で村井は
村「ど、どういう事だい?」
長「この作戦要領を。」
長田は2人に要領を見せる。
長「予備役と、他2つの正規部隊の突入場所。
同時に作戦を始めて、正規部隊が回り込むには、あまりに離れている。
ましてや敵の状況もはっきり書いていないのに、ただ『引きつける』しか書いていない。」
米「正面ゲートに正規部隊がいない…ありえないですね。
まさか、囮?」
長「取って喰われるまでが計算内かもしれんな。
どうせくだらん演説でもして、経験の少ない予備役将兵に疑問を持たせなかったんだろう。
…どこの国も、馬鹿な上がやる事は一緒か…」
長田は目を細め、つぶやいた。
◇ ◇ ◇ ◇
横須賀基地 正面ゲート前
「前進‼︎‼︎」
各30人程度の二個小隊に分けられた予備役将兵は、今まさに正面ゲートをくぐろうとしていた。
(いよいよ…ね!)
アンナは口をぎゅっと結び、自分を奮い立たせる。
アンナは前衛の部隊に組み入れられた。
後ろには、先に前進する部隊のサポートを行う後衛部隊がいる。
「おい見ろ!俺はこいつを持って来たぞ!」
後衛部隊の初老の男が、円板状の物体をとり出した。
「こいつは自作の手榴弾!奴らに復讐するために使うんだ。
前衛部隊!いくつか持って行ってくれ!」
皆手榴弾は支給されていなかった。
支給されないことに憤る者も散見された。
だが何故支給されなかったのかは、すぐに知ることになる…
(みんな凄いな。準備以上の事をしてきてるんだ。)
ゲートから数百メートル進むと、段々道が開け、看板や建物が多くなってきた。
「物陰に注意しろ!
もし敵に会っても近付くんじゃないぞ!」
「「了解!」」
ダダダンッ‼︎
突如銃声が響いた。
「出たぞー‼︎グロブスタだ!」
銃声に引き寄せられるかのように数体のグロブスタが出てきた。
(この数なら後退しなくても、対処出来る…!)
ゆっくりと呼吸を整える。
息を吸いながらM4を構え、吐きながら照準を合わせた。
指が震える。あの日の出来事がよぎる…が、
ダダダンッ‼︎
アンナは撃った。そして…当てた。
グロブスタは膝から崩れ落ち、地に伏せた。
(やった!やったよ…!)
皆、しっかり距離を置いて交戦する。
一方的に見えるこの状況。
「死ね!死ねぇ‼︎」
「息子の仇ぃー‼︎」
撃ちまくる兵士達
あちこちに転がるグロブスタの死体。
前衛部隊はどんどん前進していった。
「進めぇ!行けーー!!」
吸い込まれるように。
誘われるように。
あまりの快進撃に皆忘れていたのだ。
敵は自分達を恐怖に陥れた相手だと。
この地を奪った張本人だと。
……タコは色素胞(色素をもった細胞)を持っている。これが拡がると濃い色に、縮めると光が透過しやすくなり、擬態する事が出来るのだ。……
前衛部隊は興奮の余り、深く進んでいく。
すると先頭の数人が盾蟹が横一列の陣形を作り、迫ってくるのを発見した。
「連中が陣形を作った!ここらが引き時だー!
撃ちながら戻ろう‼︎」
ダンッ‼︎ ダンッ‼︎
緊張も何もなく、アンナはM4を盾蟹に向かって撃った。
(本当に盾ね。傷も付かない。)
皆、適切な距離を保ちながら後退する。
(誰も死なずに作戦成功出来るかな…!)
そう思った矢先。
「うわっ!」
1人の兵士が下を向いて叫ぶ。
「どうした?」
「なんか、この地面が変なんだ…踏んだらグニュッと…」
そこまで言いかけてその兵士は地面に飲み込まれた。
(えっ…⁉︎何、地面が…うねっている…)
地面と思っていた場所は、倒れて死んだふりをしていたグロブスタが、擬態して潜んでいた。
鎌倉 横須賀中央駅前
神歴33年10月6日
作戦要領をヒラヒラさせながら、長田は呟いた。
長「彼女を含め、正面ゲートの予備役は皆死ぬぞ。」
ギョッとした顔で村井は
村「ど、どういう事だい?」
長「この作戦要領を。」
長田は2人に要領を見せる。
長「予備役と、他2つの正規部隊の突入場所。
同時に始めて、正規部隊が回り込むには、あまりに離れている。
ましてや敵の状況もはっきり書いていないのに、ただ『引きつける』しか書いていない。」
米「正面ゲートに正規部隊がいない…ありえないですね。
まさか、囮?」
長「取って喰われるまでが計算内かもしれんな。
どうせくだらん演説でもして、経験の少ない予備役将兵に疑問を持たせなかったんだろう。
…どこの国も、馬鹿な上がやる事は一緒か…」
長田は目を細め、つぶやいた。
◇ ◇ ◇ ◇
横須賀基地 正面ゲート前
「前進‼︎‼︎」
各30人程度の二個小隊に分けられた予備役将兵は、今まさに正面ゲートをくぐろうとしていた。
(いよいよ…ね!)
アンナは口をぎゅっと結び、自分を奮い立たせる。
アンナは前衛の部隊に組み入れられた。
後ろには、先に前進する部隊のサポートを行う後衛部隊がいる。
「おい見ろ!俺はこいつを持って来たぞ!」
後衛部隊の初老の男が、円板状の物体をとり出した。
「こいつは自作の手榴弾!奴らに復讐するために使うんだ。
前衛部隊!いくつか持って行ってくれ!」
皆手榴弾は支給されていなかった。
支給されないことに憤る者も散見された。
だが何故支給されなかったのかは、すぐに知ることになる…
(みんな凄いな。準備以上の事をしてきてるんだ。)
ゲートから数百メートル進むと、段々道が開け、看板や建物が多くなってきた。
「物陰に注意しろ!
もし敵に会っても近付くんじゃないぞ!」
「「了解!」」
ダダダンッ‼︎
突如銃声が響いた。
「出たぞー‼︎グロブスタだ!」
銃声に引き寄せられるかのように数体のグロブスタが出てきた。
(この数なら引かなくても、対処出来る…!)
ゆっくりと呼吸を整える。
息を吸いながらM4を構え、吐きながら照準を合わせた。
指が震える。あの日の出来事がよぎる…が、
ダダダンッ‼︎
アンナは撃った。そして…当てた。
グロブスタは膝から崩れ落ち、地に伏せた。
(やった!やったよ…!)
皆、しっかり距離を置いて交戦する。
一方的に見えるこの状況。
「死ね!死ねぇ‼︎」
「息子の仇ぃー‼︎」
撃ちまくる兵士達
あちこちに転がるグロブスタの死体。
前衛部隊はどんどん前進していった。
「進めぇ!行けーー!!」
吸い込まれるように。
誘われるように。
あまりの快進撃に皆忘れていたのだ。
敵は自分達を恐怖に陥れた相手だと。
この地を奪った張本人だと。
……タコは色素胞(色素をもった細胞)を持っている。これが拡がると濃い色に、縮めると光が透過しやすくなり、擬態する事が出来るのだ。……
前衛部隊は興奮の余り、深く進んでいく。
すると先頭の数人が盾蟹が横一列の陣形を作り、迫ってくるのを発見した。
「連中が陣形を作った!ここらが引き時だー!
撃ちながら戻ろう‼︎」
ダンッ‼︎ ダンッ‼︎
緊張も何もなく、アンナはM4を盾蟹に向かって撃った。
(本当に盾ね。傷も付かない。)
皆、適切な距離を保ちながら後退する。
(誰も死なずに作戦成功出来るかな…!)
そう思った矢先。
「うわっ!」
1人の兵士が下を向いて叫ぶ。
「どうした?」
「なんか、この地面が変なんだ…踏んだらグニュッと…」
そこまで言いかけてその兵士は地面に飲み込まれた。
(えっ…⁉︎いや、地面が…うねっている…)
地面と思っていた場所は、倒れて死んだふりをしていたグロブスタが擬態して潜んでいた。
バギボキッ‼︎
「ウブッ、え…」
飲み込まれた兵士の砕かれる音が鳴り響いた。
そこからはもう、恐慌。パニック。混乱。
「ウワアアア‼︎」
「なんで!殺した筈でしょ⁉︎」
逃げても倒した筈のグロブスタは何処にも転がっておらず、突如壁や地面から襲いかかる。
「待て!まだ俺たちが…ガヘッ…」
皆周りを撃ちまくり、敵も味方も見境がない。
兵士達はグロブスタを殺すのに必要なダメージを与え切れずに去ってしまっていたのだ。
「盾蟹の向こう側に手榴弾を投げろぉ!」
呼びかけに応じた兵士が、もらった手榴弾を投げる。
「これでもくらえ‼︎」
だが、グロブスタは空中で手榴弾をキャッチし、直ぐに投げ返してきた。
ボォン‼︎‼︎
数人が爆発に巻き込まれた。
恐怖で震え、腰にM4を抱え乱射する。だが、敵にダメージは無い。
そこに戦争海老が騎兵の如く突撃してきた。
「痛い…いだ…アア」
瞬く間に数人が切られ踏まれ絶命していく。
(お父さん…お母さん…ハドソン…)
アンナは走って逃げていた。
(怖い…嫌だ…嫌だ)
あの日を思い出し、アンナは完全に正気を失っていた。
潜んでいたグロブスタに足を掴まれ引き倒され、
走りながら皮膚を剥がされ悶え倒れるのは、運良くアンナの周りを走っていた兵士。
アンナは泣きながらひた走る。
後衛部隊が見えてきた。
彼らは確実にグロブスタにトドメを刺し、逃げる前衛部隊員を必死に助けようとしていた。
◇ ◇ ◇ ◇
前衛部隊がとめどなく進撃を続けていた時
後衛部隊員も興奮し、前進を望んでいた。
だが、後衛の小隊長は傷痍軍人だった。
彼は違和感を感じ、少し距離を置いていた。これが功を奏した。
案の定、前衛部隊が壊滅状態で逃げ帰ってきたのだ。
「この作戦自体変だったんだよなぁ。まあ今更だが。
…ここからが正念場かな。」