海の不幸
第1章ラストです。
甲府城 司令室
神歴33年9月22日
パーシはグッと拳を握りしめて言った。
「ええ、獣蟲です。
我々は奴らの事を
『グロブスタ』と呼んでいます。
形や大きさは、人間とそんなに変わりません。
前面は白くぬめり、背面は日光に晒されても干からびぬよう赤く変色しています。
頭には大きな1つ目。
腕、というより触手は全体に吸盤がついています。
その吸盤に皮膚を剥がされ、苦しみながら海に引きずり込まれた仲間は数知れません。」
(皮膚を剥がされる…?形状を聞いても全く想像出来ないな…)
武「しかし、そちらには大量の銃があると先ほど仰いましたが。」
パーシ「ええ、始めて『グロブスタ』を確認した時は、人型であるものの、地面をゆっくりと這っているだけでした。
しかし、1月程で二足歩行する個体が発見され、その1週間後には近づいた兵士が襲われました。」
戌「で、その兵士は?」
パーシ「…出血多量で死亡しました。
奴らが姿を表すのは東沿岸部のみ。浦賀や横須賀でした。
我々は、発生源が浦賀水道周辺なのではと踏んでいます。」
武「失礼ですが、私の質問の答えになっていないです。
確かにその進化の早さは目を見張るものがありますが…」
パーシ「失礼。そのうち『グロブスタ』は他生物を操り出したのです。
それは蟹と海老。
巨大かサワガニとザリガニを想像して下さい。」
(…それは…うーん?確かに大きなザリガニは怖いかな。)
パーシ「グロブスタは、高さ2m半程で前背面共に銃弾を弾く甲羅を持つ盾蟹を前面に出しながら、体長2m前後の鋭いハサミを持った戦争海老に乗って侵攻してきました。もちろん単体の「グロブスタ歩兵」も連れて。彼らは軍団を作り出したのです。」
戌「その『グロブスタ』は、蟹やら海老やらと共謀したと?」
パーシ「いえ…強引に操っています。
「グロブスタ」は、対象の殻に穴を開け、頭の中に触手を入れることにより操っています。
逆に、支配を解かれた戦争海老が周りの『グロブスタ』を斬殺した例もあります。
現在はそこを利用して何とか食い止めている状況です。」
武「分かりました。ですが、その進化の早さを考えると、すぐに対応してきそうですね。」
パーシ「ええ…ですが我々には次の一手が…その為には横須賀基地の解放を…そのためにも!あなた方との軍事同盟が必要なのです…!」
戌「まあ落ち着きなさい。なるほどなぁ、それで軍事同盟か。
だがこちらにも旨味が無くては上はよしと言わん。
…まあ見てみないと何とも言えんか。
良いな、派遣隊にはカメラと無線を持たせる。出来るだけ多くの記録を撮ってきてくれ。
頼んだぞ。
こちらはこちらで色々根回しを始めてみるよ。」
パーシ「ありがとうございます…!」
少し落ち着きを取り戻したパーシがそう呟いた。
村「了解。では派遣準備を始めましょう。
とりあえず2人は隊舎で休んでくれ。
また要領を持っていくよ。」
武「了解しました。
失礼します。」
(あの人も国の為に必死だったのですね。
竹中さん、陳さんには申し訳無いけどな。)
司令室を出たあと、米倉は商人らの無事を祈りながら歩いていた。
3日後、彼らは鎌倉へ向け出発する。
燻る数多の火種が一斉に燃え上がるのを予期しながら。
連続更新になりました!
今話で第1章 「甲斐国 2人の二等兵」
は終了です。
第2章は 鎌倉 を舞台に物語が進みます。
どうぞよろしくお願い申し上げます。