決闘
「やった……!」
シュノンはスペシャルから降りてライフルで敵を撃ち抜きながら、歓喜の声を漏らした。周囲の味方からも歓声が聞こえてくる。近くで戦っていたヌァザだけが、先を越されたかと残念がっていた。
上空では三人のアンドロイドが勢ぞろいしている。これがアンドロイドの、治安維持軍の力だ。
下手したら自分たちは必要ないくらいの強さを、彼女たちは有している。
「……ホープ?」
しかし相棒の顔はどこか憂い気だった。何か心配事がある。そんな顔をしている。
そしてホープが不安そうになっていると、いつの間にか自分にもその不安が伝播していた。
「全く、止めてよ、もう」
そう呟くと、シュノンは運転席へと乗り込む。後ろからはたくさんの味方が基地内へ侵入するべく津波のように押し寄せている。乗るしかないのだ。この大波に。例え荒波だとしても、あなたと私なら、平然と乗りこなせるのだから。
※※※
「よっし、これで邪魔な砲台とはおさらば」
「では、侵攻作戦を再開します」
「オッケー。あたしはしばらくお人形遊びを楽しむよ」
ウィッチはブリュンヒルドを見送った。ホープもシュノンと合流するべく通信を行う。全員が全員、一つの入り口に集中している。それはあまり芳しい傾向ではない。
安全性を高めるには、別行動する部隊も必要なので、正規突入部隊の護衛はブリュンヒルドに任せて、ホープは別のゲートから内部へと侵入するつもりだった。
「ま、あんたの考えている通り……好きにしなって。もうここからはあんたら次第だ」
「周辺の部隊の掃討は任せます、先輩」
「任された。魔女の魔法のお時間さー」
下方ではシュノンがタロスが出現した小ぶりの山付近へとスペシャルを走らせている。そこへ降下しながら、ホープはガトリングを発射。進路を妨害する敵をハチの巣にしながら装甲車へと着地した。その直後、神の鉄槌が下される。
さらに邪魔をしようとした敵兵を、ウィッチが操るタロスが殴り潰す。ホープは先輩に手を掲げて、ウィッチは手を振るジェスチャーをした。
「では、お邪魔するとしましょう、シュノン」
「うん……平気?」
「もちろん。具合が悪いのですか?」
「いいや、大丈夫」
簡素な会話を終えて、スペシャルは敵格納庫の扉を突き破る。
※※※
「数は多いが、弱いな」
アサルトライフルを斉射しながら、ヌァザは呟いた。通路に展開するテスタメントは動きこそよく訓練されたものではあるが、やはりヌァザの敵ではない。崩壊世界で鍛えられた腕前は伊達ではなかった。
それに、大いに奮い立ってもいる。友達の希望が叶えられようとしているのだ。出発前に作戦参加を見送った馬に、ヌァザは誓いを立てていた。
――お前の死を無駄にはしない。俺は俺のために、お前のために共和国を再興する。
復讐などという自慰衝動に駆られた愚か者が、そう簡単に贖罪できるとも思えない。だが、それでもやるのだ。お前のために。そして、俺のために。
皆がレーザーを使う中、実弾は異質な存在として有効だった。簡易レーザーフィールドも実弾は防げない。強力な武器が揃う中であえて劣った武器を使う優位性が、ヌァザの強さを補強していた。
「俺はこっちに行く。お前らは向こうに行け」
義手を振ってボディアーマーを着込む部下たちに指示を出す。二股に別れた道の右側へ部下たちが進んでいった。ヌァザは左側だ。選択に特別な理由はない。強いて言えば失った腕が左腕だからか。
ライフルを構えて慎重に進んでいく。そろそろ機械兵以外の敵が表れてもおかしくはない。よもやゲート防衛に全戦力を集中させているはずはない。もしそうだとすれば、もはや勝利は目前だった。
しかし敵がそんな単純な奴らではないことを知っている。だから、警戒を強めた。
そして研ぎ澄まされたヌァザの第六感が、敵の来訪を予期する。
「いらっしゃいませ」
それは敵を招くにあたって似つかわしくない挨拶だった。メイド姿の少女が、通路の真ん中で丁寧なお辞儀をしている。敵にあるまじき、戦場にいるべきではない格好だ。アプロディアといいこの少女と言い、どこかがズレている。
そしてそのズレは致命的だ。ヌァザは直感的にこの少女がオリュンポス十二神であることを確信した。
「投降しろ」
ゆえに言葉のキャッチボールを拒否して、自身の要求だけを銃口と共に突きつける。ヌァザは標的しか殺さない。それは復讐に身を投じていた頃から変わらないやり方だった。
だから、もし彼女が標的から外れるとするのなら止めはしない。ヌァザは戦争を止めて、共和国を再興しに来たのだ。敵を殺しに来たわけではない。
だが、一方的かつ強引に投げられた要求というボールを、彼女は投げ返さなかった。否、彼女もまた自身の要請だけを投げ飛ばしたのだ。ヌァザに向かって。
「拒否します、治安維持軍。あなたには、死んでもらいま」
す、とまで彼女が口にすることはなかった。ヌァザのアサルトライフルが轟いたせいで。
彼女は呆けた表情をして、床に沈んだ。血……のような液体が床を濡らしている。彼女の手に握られた小さな拳銃が、ヌァザに引き金を引かせたのだ。あまり後味がいいものだとは言えない。実力差がありすぎるとこのような虚しい死に直面することがある。
ヌァザは少女……恐らくヘスティアの傍へと赴き、彼女の状態を観察しながら通信した。
「ヘスティアを始末した。……うん? これは」
ふと義手で血痕らしきものに触れる。赤い血……液体は、義手に搭載されたセンサーで自動的に解析される。結果は、これは血ではない、というものだった。色合いこそ血ではあるものの、機械製品が用いる人工血液……エナジー循環液だ。
「善い死に方をしましたね、私。今、仇を討ちましょう」
「――何ッ!?」
瞠目したヌァザが振り返った先にいたヘスティアが、ロケットランチャーで彼を吹き飛ばした。
※※※
「アプロディアめ、どこに行った」
チュートンはアプロディアが狙撃していた付近を捜索していた。しかし、彼女の姿はない。代わりに痕跡が置いてあった。
「衣服だと」
山肌に着地して、チュートンは左手でそのビキニのトップスを摘まむ。少し先にはパンツが放置してある。古い映画で見た、発情した恋人がパートナーをベッドに招くためのいたずらのようにも思える。
もしくは、バカな男を騙して殺すためのハニートラップの類か。
「……」
チュートンは愛用するレーザーライフルの狙いを投げ捨てられた衣類の先へと向ける。獣道の先には、洞窟の入り口があった。十中八九基地内部への侵入経路だろう。
それは明確な罠だった。誘われている。チュートンは室内戦よりも野戦の方が得意だ。ジェットパックの能力を最大限に生かせるからだ。
だが、ここで躊躇うわけにはいかなかった。アプロディアを放置しておけば味方に被害が及ぶ可能性が高い。つまりこの局面では学のない馬鹿者になる必要があった。美女の裸を妄想し、まんまと釣られて間の抜けた姿を晒す愚か者に。
(勝利のためには奴を殺す必要がある。止むを得んな)
チュートンは常に未来のために戦ってきた。父親からの言伝だったからだ。
馬鹿者ばかりの世界だが、お前はバカになるな。賢い男になれ。
――依頼は必ず果たせ。それが傭兵が持つべき信条だ。
「依頼を果たすのが俺の信条だ」
チュートンは警戒を怠らずに洞窟へと入った。中に入ってすぐに階段があり、音を立てずに降りていく。
全身を覆う強化装甲鎧はライフルの一発や二発で穴が開くような脆さではない。単純な撃ち合いでもチュートンには分がある。そして、自身がもっとも得意とする戦法が、レーザーマチェットを駆使した近接戦だった。アプロディアはその点を誤解しているか否かが、勝利へのカギとなる。
果たして、その答えをチュートンが知る由はなかった。
「何者だ?」
チュートンが対面したのは黒髪の少女だった。給仕服を着ている。戦場に相応しい格好ではない。
チュートンは図らずも神々の施設に侵入したことがあった。レインを依頼によって救出した時だ。その時見た光景は滅びた世界の中では非常に異質だった。異常と言ってもいい。正常に稼働する機械類、最新鋭の設備、一つの目的に向かって動く者たち。
だが、それでも彼女ほど浮いてはいない。しかし、だからこそチュートンは彼女は敵だと確信する。
「善き、神ですよ、人間」
「答えになっていないな」
銃を向けながらも、すぐには撃たない。なるべく情報を引き出したかった。アプロディアの居場所だ。彼女は彼の獲物である。しかし、そう簡単に白状するはずもないとわかっていた。
「お前は敵だ。俺は容赦しないぞ」
「無論です、私も容赦しませんよ」
そう言ってヘスティアはピストルを取り出す。にしては小柄な武器だ。可愛さすらも感じる。非力な女性用に設計された拳銃だ。とてもではないが、命中したとしてもチュートンにダメージを与えられない。
その違和感とヌァザから響いたノイズ交じりの通信が、チュートンのジェットパックを起動させた。
「――無駄だ!」
チュートンは軽くジェットを噴射させ、壁を蹴って跳躍する。銃弾を回避しながらヘスティアを破壊し、自分がいた場所に飛来したランチャーすらも避けると、身体を捻らせて背後に待機していたもう一体のヘスティアをも撃ち砕いた。
そして、感心する。自分の狩猟方法と酷似している。
「あえてチャンスを与えて、本命を浴びせるのか。まずいな……」
殺したと誤解して、油断している敵を高火力で粉砕する。事前情報があれば簡単に避けられる単純な作戦だが、ヘスティアが複数体存在していることを知らなければ不意打ちされる恐れがある。
ゆえに警告しようとしたが、通信システムは機能していなかった。
チュートンは速足でアプロディアの捜索に戻る。依頼は必ず果たさなければならなかった。
※※※
キャノンとガトリング、ミサイルを全て発射して、リディルパックの主武装の残弾がゼロとなった。パックをパージしながらスペシャルに積まれていたエナジー缶を経口摂取。ホープが一気飲みをする横で、シュノンがリボルバーを握りしめて周辺を警戒している。
「まだ?」
「今終わりました」
缶を投げ捨てる。いけないんだー、とシュノンが窘めるが気にしない。勝った後に回収すればいいのだ。
「私が前衛を」
「で、私が後衛。わかってるよ」
連携方法の確認をしながら狭い通路へと向かっていく。辺りに転がるテスタメントの残骸を踏まないように注意しながら。自動扉をハッキングで開くと、数体のテスタメントが待ち構えていた。オーソドックスなレーザーライフル装備だ。思考ルーチンが判断を下す前に義体が動く。
パーソナルシールドを展開して、放たれるレーザーを防御。同時に右腕のデバイスをレーザーソードへと変更し、手前のテスタメントを両断する。そして、再発射されるレーザーを身体を傾けることで避け、右足のチェーンソーを展開。二体目のテスタメントの首を跳ねる。レーザーソードでレーザーを切り防ぎながら跳躍し、右手を握りしめてスタンモードを使用。雷撃し、動作停止に陥ったテスタメントを掴み取って、進路先へ投げる。締めに左足のミサイルパックからノーマルミサイルを選択。
「終わりです」
進路上で待機していたテスタメントたちが爆散。シュノンのように言えば、ガラクタのオンパレードが目の前に広がった。
しかし、当のシュノンは微妙に不機嫌になっている。
「シュノン?」
「私の役目がなくなってんじゃん」
「良いことではないですか、それは」
「ま、いいけどさぁ。次は頼むよ?」
「何を頼まれたのかいまいち判別できませんが、善処します」
珍妙なやり取りをしながら、ホープとシュノンは敵地を進む。例え敵の拠点の中でも普段のペースを維持すること。それが今を生きる戦士たちの処世術だ。敵のリズムに呑み込まれたら最後、そのまま殺されかねない。いくら戦術的に問題があっても、マイペースを保持した状態で進むのが最善だ。
「意外と敵の数が少ないね」
「ステルスしている可能性もありますので断言はできませんが、恐らく敵の大半はメインゲートに向かっているのかと」
そしてさらには、こちらの警備が甘いことには明確な理由がある、とも。
ホープは気付いていて、シュノンも何となく気付いているに違いない。これは意図的に誘い込まれている。自分たちの先に何が待ち受けているのか、確率計算しなくても導き出せた。
「んで? こっちにアレスがいるって?」
「恐らくは」
断定的にホープは告げる。レーダーに反応はないが、いる。確実に。
そのことを友軍や先輩に伝えようとしたが、ジャミングによって通信が妨害されている。内部から通信は難しそうだ。ジャマーの位置を特定して破壊するよりも早く、アレスはこちらと邂逅するだろう。最悪なタイミングでの、ある意味運命的な再会だ。
だが、怖じてはいない。勝利を確信している。感情アルゴリズムも最適な状態のまま問題なく稼働している。そしてそれはシュノンも同じはずだった。
「前勝てたし、勝てるでしょ? 約束したもんね?」
シュノンは顔色を覗くようにして尋ねる。ホープの即答に気をよくした。
「ええ、約束しましたから」
「さっきの不安顔はなんだったの?」
「あれは……引き込まれている気がしていたので」
少しだけ憂い気なフェイスモーションを浮かべる。今まではゼウスのシナリオ通りだった。オリュンポスデータベースの破壊からゼウスの計画から抜け出したつもりでいたが、その認識は誤りだったのではないか。そんな可能性に苛まれるのだ。
しかし、それは必要最低限の危惧であり、そのことで義体の出力が低下することは有り得ない。
「まぁそれは薄々みんな感じてることでしょ。大丈夫だって。私らはスーパーヒーローの治安維持軍だし」
「ええ」
会話をしながら進んでいくと、開けた場所……培養施設のようなところへ出た。数百のメンテナンス用カプセルが並び、その中には様々なミュータントやヒューマノイドが浮かんでいる。シュノンは気味悪げな声を漏らし、ホープの表情も不快のそれとなる。
ここにいる者たちは兵器として生み出された者たちだ。子は親を選べない、と言うがそれでもこんな非人道的行為は許容されるべきではない。可能な限り救出したい、と考える。子は親を選べない。しかし、その後の人生の選択は子に委ねられるべきだ。このままゼウスの元にいたら、彼に最適化されて選択の自由を喪失した人形となってしまう。
そう思いながらメインコンピューターの位置を探す。奇妙なことに、この場には警備兵がいなかった。今更、施設の警護は無意味だと考えているのだろうか。
いや、そうではないはずです。ホープはシュノンに警告する。
「気を付けて。罠かもしれません」
「そんな気がむんむんしてる。……あれは?」
シュノンが区画の一角を指し示す。不自然にカプセルが割れて、中身がこぼれ出ていた。同志が先に到着したということは有り得ないので、自力で被検体が逃げ出したか意図的に壊されたかのどちらかのようだ。
しかし、前者はともかく後者の意味がわからない。或いは、これこそが罠なのかもしれない。ホープはそう思ってゆっくりと近づく。
そして、アイカメラを見開いた。ショックのあまりフリーズしかける。
――エラー。システムを再起動しますか?
「ホープ? どうしたの?」
停止したホープを気にかけて、シュノンが接近してきた。ホープの隣に並んで、床に倒れている女性を見下ろす。そして、彼女も言葉を失った。
しばらく黙って、ようやく言葉をひねり出す。その単語はホープのフリーズを解除する起動コードとなった。
「ホープ……いや……パン、ドラ……?」
「き、きっと違います……」
そう応えたが、フェイスカラーは真っ青となっている。バランサーに不調をきたして、手すりへと寄り掛かった。レンズ内には数多のエラーウインドウが表示。
大丈夫!? というシュノンの気遣い。聴覚センサーは正常に稼働中。それはつまり、視覚センサーにも問題は起きていないことを示唆している。
この視覚情報は正しいのだ。人物データベースからヒットした女性は、間違っていない。
しかし、差異はあった。彼女はパンドラではあるが、パンドラではない。死体である、という点や凝固した血で体中が真っ赤になっているせいだけではなく、単純に別人だと解析結果が出ている。
これは言わばコピー品。クローニングの末に製造されたクローンだ。
だから、違う。違うのだ。絶対に違う。
治安維持軍が掛けていた嫌疑通りなどではなく、事故にあった彼女をゼウス陣営が回収し、わざわざクローンを作成したのだ。
違う。違う。私は、パンドラは違う。
――エラー。思考ルーチンと感情アルゴリズムの乖離を検知。
「ホープ! しっかりして!」
「違います、違う、違う……」
「何も違わないよ! あなたは私のパートナー!」
「シュノン……」
シュノンの必死な叫びが、混乱しかけたパーソナルデータを正常値へと引き戻した。
そして、さらなる音声データが、ホープを現実に直面させる。
「そうとも、そしてお前は俺が倒すべき敵なのだ」
「アレス……」
それはやはり、いや、先程予想していたよりも最悪な形での再会となった。
アレスが培養区画の隣のエリアで仁王立ちしている。彼は自身が構築した戦場へ、ホープたちを誘っていた。
※※※
「再会しちゃったか」
全裸のアプロディアは衣装棚からあらかじめ選んでおいた黒色のバトルスーツを身に着けていた。ぴったりとフィットするそのスーツは、豊満な彼女の体形を浮き彫りにする。もしかすると、自身にぞっこんなあの男はその無骨な鎧を脱ぎ捨てて欲情に駆られるかもしれない。
「いいや、それはないよねー。ヘスティアちゃん。姉妹は大丈夫?」
「私たちはエリニュスよりも完璧なので大丈夫ですよ、お姉様。私は私で、彼女は私なのです」
「うふふ、いい具合に言ってることがわけわかんないねー」
「わかりやすく説明しますとですね……あっ」
「ありゃ」
レーザーがヘスティアの可愛い顔を粉砕した。ああ、なんてひどいこと。この義体は今まで一番長くいっしょの時間を過ごしてきたというのに。
「ひっどーい。私の妹の顔をぐちゃぐちゃにー」
「アンドロイドだな。問題ない。同じ顔はたくさんあるだろう」
そう言って男は銃を向ける。予想通り彼は賢そうだ。崩壊世界で生きていながらも知性を兼ね備えている。何が悪で何が善か。どう生きるのがベストか知っているのだ。みんながそうやってるから、などという甘い理由で周囲に流されるような者たちとは違う。信念を、信条を持った男。
そういう男は好みだ。実に……殺しがいがある。
「素敵な人。でも、私にかまけてていいのかにゃぁ。お仲間たちはヘスティアの特性に気付いているかしら」
「問題ない」
「だったらH232は? 今、アレスと交戦しようとしてるとこだけど」
「そちらもな。あのドロイドにはシュノンがついている」
「信頼か……いいね」
アプロディアは手に取ったレーザーピストルをくるりと回す。胸元を大胆に開けた衣装とピストルは、そこはかとなくミスマッチだ。
しかし、それがいい。これが私のスタイルだ。そして男は、騎士の格好をした独特のフォーマルに身を収めている。
ああ、いい。とてもよい。早速パーティを始めましょう。
「レディの寝室に強引に押し入ってきた男は、丁重に持て成さないとね」
アプロディアは銃口をチュートンのヘルムに向ける。
チュートンは、ライフルの引き金を引いた。
※※※
H232は憔悴していた。隣にはあの女の模造品が転がっている。まさに姉妹のように顔が瓜二つだった。彼女はようやく手がかりを入手したのだ。
しかし、遅い。どこまで愚鈍なのだ。アレスは相棒と共に入ってくるH232にマスクを向ける。
エフェクトが掛かった呼吸音は普段のリズムを維持していた。しかし、彼女の調子はどうか。
「アレス……!」
「愚かで、鈍い。お前たちはいつもそうだ」
「うるさいよ、このッ!」
シュノンが喚いた。しかし、気にかからない。あの少女は才能を秘めているが、アレスの敵ではなかった。
今アレスが見つめるのは、眼前に立つ白の少女だ。そして、彼女もまたこちらを見ている。
「あなたを倒して、戦争を終わらせます……」
「戦争は当の昔に終わっている。お前たちが敗北したのだ。今行われている戦いは戦争などではない。反逆者を粛正するための処刑だ」
「私たちは負けてなどいません!」
感情的にH232は言い返した。感情の高ぶりは彼女に力を与える。
そうとも、怒るがいい。負の感情に身を置くのだ。そうすれば、より目覚ましい進化をお前は遂げることができる。
お前のその能力は、正の感情のみに左右されるものではない。怒りや憎しみ、暗い情念が、真なる力を解放することとなる。
だが、愚鈍なお前は自身の本当の力に気付いていない。そんなぬるま湯の中では、一生手に入れることができぬだろう。だから、お前はこちら側に来るのだ。
「お前の立ち位置は、こちらこそがふさわしいのだ」
アレスは本心を告げた。倒すべき敵であると同時に、救うべき仲間だった。
「そんなことはありません!」
しかし、彼女は気付かない。いや、既にわかっているだろう。恐れているのだ。自分の全てが壊れる瞬間を。だが、彼女は聡明だ。すぐに気付く。理解する。
ゆえに、その邪魔をする殻を俺が破壊してやらねばなるまい。
「お前は箱なのだ、H232。そのことを自覚できぬと言うのなら」
アレスは腰に刺してある刀を捨てる。これは不要なものだ。
代わりにワームホールから剣を手に取った。漆黒のレーザーサーベルを。
「自覚など……私は私です! ホープです!」
「そうだ! ホープはホープだ! あなたの戯言もこれまでだよ!」
H232はレーザーソードを展開して、こちらに肉薄してくる。
シュノンはライフルを構えて狙いを付けた。
それらをアレスは光剣を振るって迎え撃つ。
マスターの……全知全能の神の高笑いが聞こえた気がした。
女の悲しむ、泣き声も。