インド入国 ホテルで 2日目
日本で予約していた最初のホテルは、朝食付きであった。しかし、肝心のホテルが客を取っていないのでは意味が無い。
私は電話をしてくれたW氏を疑ってしまった。
『インド人は絶対に信用してはいけない。彼らは世界一狡賢い民族だから』
と何度も言われていたからである。
しかし、注意深く様子を見ても、怪しい人物とは思えなかった。
亜喜音さんとの会話でもそれが察せられた。計略を持っているのなら、雰囲気が違うはず、と。
最後に、彼は念の為にと、タクシーのナンバーをカメラに納めた。それで私は安心した。信用してよかったと、納得した。
そして、自分たちの電話番号も教えてくれたのだ。
二泊目の予約ホテルは、旅の主催者達、つまり田沼夫妻と彼の友人松川たちが余裕をもって連泊予約をしているホテルである。
そのホテルにタクシーが着いたときは、?
一回目が奇妙な所で、間違いであったので、ここも?と疑わずにはおれない。
しかし、件の運転手は今度は自信たっぷりであった。メーターを止めてレシートを千切った。
その支払いは、ホテルを確認してからと思って、彼の促す貧乏くさい階段を登った。運転手は後ろから私の荷物を運んだ。
日本から持参していたホテルの写真と名称をフロント係に示すのだが、素直にOK、イエス、と言ってくれない。
なにやら、ゴニャゴニャと尖った声で質問する。
そのうちに、「ブッキング?!」と聞こえた。ブッキングコムからの予約であったので、その確認かと思ったのだが・・・・
ともかく目的のホテルには違いないようだから、運転手へ900ルピー渡した(880ルピーだったが)
運転手が去った後も、しばらく訳の分からない応酬が続いた。
私はもう一度、タブレットを出して、オフライン翻訳アプリを起動したのだが、やはり「データが壊れている」と表示されて、機能しなかった。
プリントしていたホテルの紙の予約番号を指差しながら、「ツディプリーズ」というのが、精一杯であった。
近くで見守っていた若い従業員が、私との応酬がおかしいのか、しきりに笑っていた。
この時の受け付けの男が、このホテルの支配人だったのであろう。その後も何回か顔を合わせたが、いつも不機嫌で、決して他の者のように笑顔を見せたりはしなかった。
パスパートが控えられ、サインを求められて、スクスク笑っていた若いボーイに部屋を案内された。
良かった。とにかく泊まれることになった。あとは、旅の企画者たちが来たときに、宿泊契約の確認をして貰えば良いだろう。
ボーイに50ルピー渡して、私は、インドの最初の夜を迎えたのであった。
部屋は三階で小綺麗であった。枕を二つ並べたダブルベットである。テーブルもそこそこに大きい。 荷物を取り出して、非常食を食べると、三種類の薬剤と二種類の眠剤を飲んで、歯磨き、そして、寝支度であったが、野外では野犬が吠え続けていた。犬同士の激しい喧嘩も起きていた。耳栓を忘れたのが悔やまれた。
ようやく眠れたものの、それも束の間の仮眠で終わった。 突然、スピーカーから流れるコーランなのか、読経の大音声に目が覚めてしまった。朝の6時である。朝食はないのだから、ゆっくり眠っていて良いのだが、二度寝が出来なかった。
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旅の企画者である田沼氏一行の到着を、一日千秋で待っていた。
犬の叫び声に悩まされ、コーランの読経で眠りから覚まされた日は、14日である。 企画者たちは、この日の昼近くに名古屋を出発する。そして、深夜、歴日が変わった15日に、バンガロールに着いて、このホテルに到着する。
ホテルからは、ペットボトル入りの飲料水が提供されていたが、私はそれさえ生で飲むのを恐れて煮沸した。
生水だけは飲まないように、と、全ての人々から注意されていたからである。旅券発行所のインド人の職員も注意してくれた。
キャピーと名乗るネットの知人も同様であり、彼は親切心から、様々な注意事項をネットを通して書き送ってきた。私はそれに従おうと多大な努力をしたのだ。
その内の一つに、簡易湯沸かし器があった。日本でテストすると、使い物にはならず、一度は放棄したのである。その代わりに、インスタントラーメンがそのまま入る小型湯沸かし器を購入していた。 しかし、嵩張る。邪魔であった。
なにしろ、荷物は少なく、いざと言うときは背負って歩けるぐらいにしろと、企画幹事の田沼氏に注意されていたからである。
そこで、考えたのだ。日本では電圧は100ボルト。インドでは200ボルト。 200ボルトなら使えるのでは? もしダメなら棄ててしまおう。そして、飲料水として売られている水だけを飲もう、と。
食中り予防の梅干しもあるのだし・・・・。
簡易湯沸かし器をテストすると?
驚きました!
5分位で猛烈に沸騰したのだ! 日本では、30待っても熱くなるだけで、沸騰はしなかった。
完全沸騰するとわかって、以後は水道の水を利用した。準備していた非常食の即席ラーメンに、乾燥ワカメで、14日の食事としたのである。昼食はチーズと黒砂糖の角切り、煮干し4匹ほど・・・・ 運動しないのだから、大してカロリーも不要かと・・・・
しかし、空腹感は次第につのりだした。 宿泊ホテルは、大きなシティ駅の脇である。店やレストランは掃わいて棄てるほどあるのに違いない。
それを期待して、ロビーでボーイに聞くと「スーパーマーケット?おぉイエス!」 と地図を書いてくれた。
しかし、リキシャ、リキシャ、としきりに言う。100ルピー札(20ルピー札か50ルピー札か?)を三枚出して、リキシャ、というのだ。 ここのホテルからリキシャ(オート三輪車)で行けと言うているらしい。
すぐ近くなのに、タクシーを呼ぶこともいらない、と、リキシャを断って、駅を目指して歩いて見ることにした。 ホテルの路地を出ると、そこは埃まみれの大通りであった。駅の方向は見当が付いていたので、歩いて見たのだが・・・・。
私の手には、ハンディカムという小型のカメラが握られていた。とにかく荷物は徹底的に減量させろ、という至上命令を受けていたので、通常のコンデジカメラもやめたのである。
手軽ではあったが、広角レンズのために対象物を引き付けては撮せない。自分が側へ行ってシャッターを切るのだ。
インド人に見咎められて、カメラを押奪されては困る。なにしろ、何度も言われていたのだ。
『インド人ほど油断のならない人種はいない。隙があれば強奪するし、嘘は言うし、、とにかく用心して下さい』と。
警戒心旺盛にして、用心深く撮影したのだが、行き違う人々に、言われるような雰囲気はなかった。
カメラを興味深げに見はしても、冷淡なまなざしでは無かった。
安心したものの、目指すスーパーなど、コンビニは見当たらなかった。露天商たちも、いなかった。(実は一人、食べ物の露天営業をしていたが、食中りを起こしては困るからと近寄らなかった)
店のない大きな鉄道駅であった。 思うに、駅の裏側へ行ったのに違いない。
駅の正面へ行きたかったけれど、その為には駅の構内へ入って、多くの鉄道を越えなければ行けない。
その出入り口には、自動小銃を構えた兵士が警戒している。
構内へ入るには? 切符の購入が条件かもしれない。 兵士に指差して、
「あちらへ行きたい。キップ、チケット?」
「ノー、プリーズ」渡っていいと、指示してくれれば良かったのだが、その兵士は? 意味が分からない、という顔だった。
確証のない事は避けなければ・・・・、私は再び、元来た道を引き返したのだが、ホテルは近すぎて、このまま帰るのには惜しい、と、逆方向へ歩いて見た。
道路は、まともな舗装はない。埃がひどい。それと小便の臭気が立ちこめていた。車はひっきりなしに警笛を鳴らしている。人の歩く所などは、、駅の周囲以外にはなかった。
道路の反対側へ渡るのが大変であった。横断信号などはどこにもなかった。
私は他の人が渡るのに合わせて小走りで渡った。スリル満点であった。
結局、レストランもスーパーも、コンビニも見つからないまま、歩き疲れてホテルに戻った。
ホテルで持参の粉茶を飲み、また非常食を食べたのであるが、夕方、改めて食物探しに挑戦した。
二度目の食料品調達も、失敗した。
バナナ売りの爺さんがいたので、せめてバナナでも買って戻ろうとして、一房求めたのだが・・・・?
財布を持参していなかった。
ホテルへ小銭入れ取りに戻って、今度は大通りの反対側へ行こうと考えた。 そちらが、駅の正面になるはずだから・・・・
ところが、夕方である。ラッシュタイムなのであろう。車が凄かった。横断歩道など、ない。
車の隙をねらって渡らなければならない。
ようやく、道路の中央まで行った。そこには交通整理?員の囲いがあって、その一段高くセットされた椅子に、体格のいいインド人が座って、猛烈な大声で怒鳴り散らしていた。
車はのべつくまなく警笛を鳴らし続けている。その警笛に負けないほどの大声でないと、車や歩行者に注意出来ないのだ。
「向こうへ渡りたい」と、そのおっさんに指を差して伝えたが、だからといって、降りてきて一緒に行ってくれるわけではない。てんでんばらばらに猛スピードで走っている無数の車に対して、雷鳴にも等しい大声のおっさんでも、一人の歩行者のためには、成す術がないのだ。
車の途切れはなかった。渡るのを諦めた。ということは、食糧調達は出来なかったのである。
ホテルは無料WI-FIが3~4回線確保されていた。 そのアドレスとパスワードを教えて貰ったのだが、、、室内では? 繋がったり、切れたり、、ほとんど不通であった。
ロビーでは、確実に繋がった。 ロビーでネットへ入り、Skypeで昨夜世話になった亜喜音さんとWさんへ御礼の電話を試みた。 亜喜音さんには繋がった。しかしWさんには繋がらなかった。その代わりに、メッセージ送信が可能であった。
つづく