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ある精神異常者

続き


 事の発端は、意外にもT氏以前に遡ると思われる。


 私は事情があって独身を続けている。それは本意では無い。したがって妻を欲している。


60億の人類の内の半分、つまり30億人は女性で有り、その内の適齢期で伴侶無く過ごしている女性は、、、1割?


1%としても3千万人はいることになる、、、、それが世界中に散らばっていれば、出会える確率など、極めて低いはずだが、0ではないと、私は夢見ている。


 たまたま、期待を寄せる女性がいた。 公開日記に、凄まじい体験を連綿と書き連ねて、悲鳴のような訴えの泣き声をあげていた。


 一読、精神状態の異常が察せられた。


 おそらく、誰からもまともには相手にされないであろうと思われた。


 その女性の日記へ、私はコメントを寄せていた。


異常な体験を書き連ねて恥じることの無い女性だったが、意外にも多くのコミュニティーに参加して、私が2~3知り合った人は、みな、彼女を知っていた。知ってはいても、どういう女性かは、誰も言わない。


 その参加オフ会の多いのには驚かされた。


幼少から適齢期、結婚。出産、離婚、と続く人生の全てで、取り巻く人々から暴力(DV)を受けてきたという。


隣近所の者からも嫌がらせをされて、住めなくなっているとかで、別天地を求めて移住しようとすると、希望の土地と当てにしている職場から、来るな、と暴言を吐かれて、何処にも行けなくなったとか…。


孤独な生活と愛の安らぎを持たない人間不信感のなせる技かと、私は理解して、こういう人こそ、私の助けが必要だと信じたのであった。


気掛かりな内容に、優しくコメントを送っている内に、彼女から会いたいと言うてきた。


SNSの建前上、連絡方法はとれない。 そこで彼女は、愛知県人会のT氏に、彼女が頼んだのであった。


彼女は愛知県人会の会員として登録されていたし、私が折しも加入して、彼女にも月例会に来るように誘ったのだった。


 オフ会で会えれば、コメントだけの会話よりも、人間らしい情を持って話しが出来る。


 しかし彼女は参加しなかった。そのかわりに、T氏に私の電話番号を知らせてやってくれと依頼した。そのあと、彼女の希望で、大阪からも京都からも近い所として、瑠璃渓が指定された。


 お互いに近いから、そこで会いましょうと、言うので、私は二人だけの密会をさけて「瑠璃渓オフ会」を設定した。


 その予定日が近付いたとき、彼女から断りのメールがきた。


 オフ会を確定した後である。 来てくれなくても、日時を決めた以上、例え誰も来なくても、と、私はその場所のその日時に待機したのであった。


昼から夕暮れ時まで待った。 彼女の不安は想像できた。私という人間については、単なる赤の他人の薄情さと儀礼的な付き合いで、後の責任は持たない、というような薄情人間で無いことは分かっていたはずで、それが返って心理的に不安になっていると思えた。


 それを解消するには、言葉の行き来だけで、意味の取り違えも発生しやすいメールやコメントだけではなくて、直接会うのにしくはない。


会えば、目を見て声を聞いて不安な憶測は氷解するものだが、その前に、会おうとすると、かっての肉親との拮抗が思い出されるのであろう。


私が言うたわけではないのに、「わたしは結婚できない」の一言で、約束をドタキャンされてしまった。


 そのときの、彼女の日記は、過去を思い出して、錯乱状態になって、息も出来ない状態に陥っている…と、苦しさを書き連ねていた。


人は、自分へ愛は持ってくれないと信じ込んでいる…人は、自分を虐めて冷笑するだけだと疑わないのだ。


少しでも、親切な言葉が寄せられると、それは自分の持っている財産・権利に食指を動かして、狙っているからだ、でなければ、早く死なせるか、精神異常者として病院へ送り込んで、財産を狙っている類い、と…。


私は、金にも財産にも、一切興味が無くて、最低収入で工夫しながら生活するだけの人間。そこに、手を携えてなけなしの食事と、気まぐれの旅にでも一緒に出られれば、幸せ、これにしくはなし …。


 そんな私であれば。警戒することも要らないはずで…。


 それが分かって貰えれば、お互いに「愛」という宝を見いだして、不要な苦しみからも解放されるはずだが…。


愛知県人オフ会は、こまめに毎月行われていた。 京都からる駆けつけるには、250キロを走る。私は連続して参加していた。


 その参加も視野に入れて、T氏に個人情話を依頼したのだ。


 そのあと、つまり瑠璃渓オフ会をドタキャンしたあと、彼女が参加することに決めたという大阪の花見公園散策オフ会に誘われた。


彼女のいいなりに、その花見オフ会の会員申し込みを行った後、奇妙な事がおこった。


 そのオフ会幹事から、入会お断り の通知が来た。 さては、彼女が嫌って、差し金をしたのだな、と…。


 その日その日で、気分が変わる女性であったから…、なにも言わずに見守っていた。


 すると、間際になって、友達を誘っていいので、私の友達として参加して欲しい、とメールが入ってきた。


 やはり、私が気に成っているのだとわかった。 優しく理解してくれる人が…、いくら強がりをいっても、愛情が欲しいのには違いないのだ。


会えば、具体的に結婚を求められる…?それは、過去のEV記憶を呼び覚ます…、その葛藤を越えて、会う、と決断したのだった。


「私の友達、というだけにして、名前は言わないで」


彼女の依頼に私は全面服従した。 十数人の人々に会っても、彼女の腰巾着で、名乗りもしなかった。


 それは大変、失礼な事であったが、あえて、彼女との取り決めに従事した。


 待ち合わせの場所で、私は息を飲んだ。それらしい車があったのだ。


 その車のフロントは、ゴミの集積だった。


車中泊もすると言うから、少しはゴミや本などはあるだろう。


 ところが、小型バキュームカーが停車しているように見えた。


 かって、精神異常者が、身辺の片付けが出来ないで、ゴミ屋敷になっているのを何度か見た事があった。それと代わらなかった。


 でも、私は逃げない。そういう状況に陥って惰性化した者もいるであろうし、支える者がいれば、自然と変わっていくはずだ。


彼女と彼女の愛犬とで、公園を散歩した。


会の主催者は「飼い主に似てやんちゃな犬」と他の人に紹介していたが、じっさい、その犬は異常だった。


 その犬は、見掛ける者全てに休むこと鳴くのべつくまなく発狂したように牙を剝いて吠えまくる。


 ところが、紐に繋いで外を歩くと吠えないのだ。私が犬に慣れるために。手綱を取って歩いた。一時間ほど散歩して車に戻ると、また狂い吠えを始める。今にも噛みつきそうな剣幕である。


 「一緒に散歩して遊んだだろう。忘れたのか?」


私は左の指を犬の鼻先に差しだしてやった。


噛みつかなかった。匂いをかいで引っ込んだ。


「家族と認めてくれたのですよ。これからは三人で旅行に行けますね」


私の有頂天は、そこまでであった。


 帰宅してメールを送ると、


「あなたとは二度と会いたく有りません。貴方のような小柄な人は、私は大嫌いです。風貌も大嫌いです。二度とメールはしないで下さい」


奇々怪々な女と言うべきか、その真意はなになのか…。


文字通りなのか、伏せた思いが逆に出ているのか…。


刺激しないようにと、私からはメールは送らなかった。 そして、愛知県人オフ会へ参加したときに、


「わだかまりを解消して歓談出来るようにしたい。ここはTさんが呼びかけて、参加するように言ってあげて下さい」 と頼んだのだが…。


「それは久米さんが呼んであげて下さい。僕はそういうことはしませんから」


 この一件は、年末のオフ会の時に話題になった。


「彼女は久米さんが分かってくれていない、と書いていました」


 メールでT氏に訴えていたのだ。「わかってくれない、ということは、分かって欲しい、ということかも。分かって欲しいと訴えたのでは?」


だが、T氏は耳を貸さなかった。


 その意味は、Tさんに、私の思いを理解してくれるように助言して、取り直して欲しい、という女心のはずだが…。


「子供のときに虐待を受けた者はその恨みの仕返しを誰かにするものです。それが骨肉化しているから、いつでも、残虐になっていきます。そういう人とは関わりになってはいけません。そういう人は、放っておくのがいいのです」


 なにか、違うと私は思った。トラウマを負って、人との関わりの方法が身に付かずに、時には相手に暴言を(自分がそうされたように)心ならずも吐いてしまって、あとで悔やむ、ということはよくあることで…。


 そのとき、頼りにした助言者から相手にされない、ということは…、これは薄情というもので、苦しむ者の心中と、そこから抜け出たいという願望をあざけているようなものにほかならない…。


面倒見の良いT氏の、不吉な影を見たのであった。


彼には、彼なりの基準があるのだ。 劣っている者か、自分と同等か、自分におもねるか。 それ以上に、俗世の名声・地位などで肩書きのある人間になっているかいなか……。


 その峻別で、態度が変わる。 弱者とみなした者への冷淡さ、苦悩者への同情心の欠落……。 こうした人間性の劣悪さが、このあとのインドの旅にあらわれるのであった。


つづく


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