第五話 『どうやら僕のチートが解放され始めたらしいんだが、その話を聞いて欲しい』
シャキキキキキキキィィィィィィィィィィィィィィンンンンン
蟲王は十本ほどの自身の足を瞬く間に鎌に変化させ、ジェノンに向けた。
その時ジェノンは地所にある蟲王に押し付けたタバコに目をやる。
細々としかしちゃんと火種は残っており、巻き紙を燃やしていた。
そしてそれを拾い、ゆっくりと味わうように肺に含ませる。
「ふぅぅぅぅぅ。旨いタバコだ・・・。なぁ・・・お嬢・・・・・・」
振り向こうとした。
その時。
ザシュシュシュシュシュッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!
一斉に鋭い刃がジェノンの体躯を貫いた。
温かい鮮血がロアナの顔に掛かる。
目元から頬に斜めに飛んだその血を受けても、ロアナは目を閉じなかった。
むしろ大きく見開かれていた。
仮にそれが瞳の中に入ったとしても、眼前の出来事によって思考が停止した彼女には避けるという余裕はなかっただろう。
その目の前では鎌に心臓を貫かれた相棒が強風に晒される不憫な洗濯物のように、宙に持ち上げられていた。
ジェノンはその四肢を揺らし、無残な肉塊に変化していたのだ。
「ジェ・・・。ジェ・・・。ジェ・・・」
ロアナは思考を強制停止させたまま、壊れたように三文字を発生した。
そしてゆっくりと自分の頬に着いた血を拭い、確かめる。
それが血であるということを。目の前にいるのが・・・。
さっきまで一緒に戦ったパートナーであるということを。
火を点けただけで喜んだパートナーであるということを。
私の前でにっこり笑ったパートナーであるということを。
彼は。
死んだ。
「ジェノォォォォォォォォォンッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「ふん、下らん」
壊れたおもちゃを投げ捨てる裕福な児童の如く、蟲王はジェノンを「投棄」する。
「安心しろ、次はお前だ」
ジェノンとの約束など反故に、もとい元々約束などした覚えは無いといった様子で、蟲王はジェノンを貫いた鎌をロアナに向けた。
「死ね」
瞬時に鎌がロアナに向かう。
ロアナは下唇を噛んだ。
生を諦めた事を恥じたにも拘らず。
生を諦めないと誓ったのにも拘らず。
ロアナはこの絶体絶命の状況を怖がっている。
しかし責めても、目だけは逸らさないと決意する。
敵に頭を下げた相棒の為に。
敵に命を捧げた相棒の為に。
シィィィィィィ・・・・・ィィィィィィンンンン!!!!!!!
無意識に全神経が研磨され、刃の空を斬る音までもがロアナの鼓膜に届く。
そして鎌の刃が、眼前迫る。
すると目の端から見慣れ無い格好の青年が現れたのだ。
「え?」
それによって集中が乱れ、後は全く目にも止まらなかった。