第三話 『どうやらニーハイ膝枕は素で羨ましいんだが、その話を聞いて欲しい』
「ロアナ、と言ったか、人間。この蟲王様が全てを悉く破壊してやる。冥帝の御名に賭けてな」
その野太い声の主は、巨大なムカデから発声されていた。
目を赤く光らせながら、体に纏う甲冑のような外殻は日の光を反射させるほど輝いている。
それに対峙する、これまた上半身白い軍服に下半身はブルマ、というよりもハイレグのような際どいラインのそれに身を包んだ「ロアナ」と呼ばれた若い女がいた。
つり上がった瞳とキツネのようなシャープなフェイスラインがSっ気のある勝気な表情を作っていたが、眉間に寄る皺が彼女の現状が窮地に立たされている事を表していた。
そしてロアナの腰のあたりには、謎めいた文字が書き連ねられた菫色に光る魔法陣が土星の輪のように循環していた。
「私の『グラウンド・ゼロ』を良く避けた事は褒めてやろう。だが、お前の仲間は吹き飛んでしまったぞ?」
そして蟲王はその体躯をうねらせた。
「何がグラウンド・ゼロよ。ただの体当たりじゃない」
「だが、お嬢。奴の攻撃で森の一部が欠けたぞ。気をつけろ。それにあいつのカーワックスで磨いたような殻がヤバい。魔法が全然効いてねぇみたいだしな・・・」
ロアナは吐き捨てるように強がったが、彼女の身を廻る魔法陣が注意を促した。
「ええ、多分私たちじゃ勝てない。奴の殻を攻撃してるからね」
とロアナは付け加えると、「弱点でも分かったのか!?」と魔法陣が聞き返した。
「良く聞いて。あいつが体当たりをしてくる直前、カラダを起こして力を貯める。バネみたいになってね。その時、あいつのお腹が覗く。そこには殻が無い・・・つまり・・・」
「攻撃が効く!!」
魔法陣はロアナの言葉を力強く受け継いだ。
「そこに最大出力をぶつけてやれば、ぶっ倒せるな」
「そういう事。次の攻撃に全力を賭けて」
「よっしゃ!!」
そしてロアナは大きく跳躍し、宙に浮くと覚悟を決めたようにカラダに力を入れた。
「作戦会議は終了か?くく、なら喰らうが良い!!『グラウンド・ゼロ』ォォォッッッ!!!」
そう唸ると蟲王は上体を起こし、蛇が威嚇するような臨戦体制になる。
その高さは小さなビルほどの高さにまでなった。が、身を起こしS字に曲げると腹部が露わになった。その時、魔法陣が一際強く瞬き始めた。
「お嬢、今だ!!やれっっ!!!!」
「くらええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」
するとロアナの両の掌から菫色に光る球体が出現した。
そしてそれは解き放たれるのを今か今かと待つかのようだった。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!
上空で菫色輝く二つの球体が蟲王に直撃して辺り一面に砂埃が舞う。
セイはそれを片目を瞑りながら顔を背けてやり過ごした。
「ぐはっっっ!!!」
突如セイの背後で、男の唸る声が聞こえた。
しかしそこに居たのはロアナだった。
「ジェノンっ!!大丈夫っっっ!?」
彼女は自身を循環する魔法陣に向け声をかける。
するとその魔法陣は一度発光し、男の姿に変わった。
「っっっ!!!」
セイはその現象に一瞬ビクッとしたが、すぐに「融合して魔法を撃つ」という自分の願いと一致している事を思い出し、その現象をこの異世界では常識であると理解した。
「なぁ、ロアナ。タバコに火ぃ、点けてくれよ」
赤い挑発を後ろに結い、顎鬚を少し生やしたジェノンと呼ばれた男は、、萎れたタバコを咥えた。
「しょうがないなぁ。まぁ、勝ったから良いか」
ロアナは自分のポケットからライターを出すと、そのタバコに火をつける。
「ふぅぅぅ、うめぇ。お前の火が一番美味く吸える。それとこの感触」
と言ってジェノンはロアナのニーハイソックスに包まれたムチっとした太腿に頭を乗せながら紫煙を勢い良く吐いた。
ロアナは照れたように顔を赤くして「ばかっ////」とはにかむ。
勝利後の一時。
「あ、あのイイ感じのところ申し訳ないんですが・・・」
軽いイチャつきを見せられ歯がゆさを感じながら、セイはロアナ達に声を掛けた。その声にロアナが振り返る。
が、その時。
ロアナは砂埃りに目線をやると、中から赤眼が光った。
「ま、ま、ま、まさか・・・・・・」
自身の顔面を蒼白させ、ロアナは呟く。
「くくく、貴様らの全力はその程度か?」
嘲笑と侮蔑を交差させながら、蟲王が漂う砂埃をかき消すように吹き飛ばす。
すると一切の傷の付いていないその身を現した。