第一話 『どうやら女の子が浮き輪つけてるんだけどその話を聞いて欲しい』
静太郎はその見慣れない森を恐る恐る前進。
すると地維が揺れている感覚が足の裏に伝わる。
それは「揺れているような気がする」という疑問を抱かせる眇眇たるものから次第に確信へと変わっていった。
そして細やかに、微かに、継続的に振動しているかと思えば、槌で大地の裏から衝撃を与えたような感覚や大きな落下感などに不規則な周期で変化しながら、地震ではないそれはセイの華奢な体躯を轟かせるように響めいていた。
しかしベッドで寝ていたはずの静太郎にとっては、現在と過去、あるいは未来を繋ぐ手掛かりが、その振動のみであり、衝動的にそちらの方へと導かれていった。
ど・・・、ど・・・。
ど、ど、ど、。
どどどどどどどど!!
どんどんどんどんどんどんどんどん!!!!!
ドグガアアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーンッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
徐々にその『揺れ』は振動などという領域を逸脱し、災害レベルの規模、あるいは星の胎動のような常軌を逸したものへと変わっていった。
静太郎は、思わず腰が抜けその場で四つん這いになる。
その時にふと気付いた。自身が震えている事に。
彼の脳がその揺れの類が、何か得体の知れない危険を孕んだ恐怖として認識しているのだ。
その瞬間だった。
最悪の事態が、予測が、想像が、現実として目の前に具現化する。
ズガガガガガガガガガァァァァァァ!!!!!!!!!
山崩れのような光景が、静太郎の鼓膜と網膜を刺激した。
あと5メートルも進んでいたら、間違いなく巻き込まれていただろう。
しかし彼がその光景に現実感が帯び始める頃には、既にその轟音は止み、なぎ倒された木々と土石が何事もなかったかのように散乱していた。
そんな一瞬の出来事。
災害ではない、人為的な疾だった。
静太郎は自分の居場所が解らないという単純な不安から、激しい焦燥へと変貌していくのを血液が心臓を脈打つたびに感じていた。
顔は引きつり、体が震える。
血の気が引くような寒さを感じながらも、目の前に火花が散るほど血流が疾くなる矛盾を感じていた。
しかしその血流のおかげか、セイの脳内では今見た大惨事の中に妙なものが紛れ込んでいた事を思い出した。真っ白いキャンバスの中に黒い染みを落としたほどのその違和感。
「女、の子・・・?」
そう、山崩れのど真ん中に少女がいたような映像がセイの眼前でフラッシュバックしたのだ。
ただ彼の感じた違和感はそれだけではなかった。
群青色に光る『浮き輪のようなもの』を着けていたからだ。