第十八話 『どうやら智将が智将たる所以を教えてくれるそうだが、その話を聞いてほしい』
とある立食会。
互いの威厳を知らしめる為の催し物。
ウェッルジーナの著名人や『偉大なる市民』も集まり、シャンパンを片手に豪華な食事の前で自慢話を交えながら、互いの情報を交換する場。
セイとキャロル旅館に到達した同刻、それは行われていた。
「ゴールドスミスさん、本日も評議会があったとかで?お疲れ様でした」
「いや、それほど大したことは無いよ。だが、やはりどうやらこういう場は苦手なようだ。先にお暇するよ」
「もう少しこの都市の行く末について話したかったのですが、やはりあなたは人格者だ。ゆっくりとお休みください」
『偉大なる市民』にさん付けで呼ぶのは同格の証。
ファントムマスクをし金色のスーツを着た男がゴールドスミスを見送った。
別の場所では、黒王冠のゼクトとその金魚の糞のようにぴったりとつくポマード男が談笑していた。
「クジャナ、貴様の隊は順調か?今度視察にでも行こう」
「それはそれはっ!!准将が来ていただけば、隊の士気も上がるというもの」
ゼクトもそれが当然と言わんばかりに話を続ける。
「何を建前めいた事を言っている。准将である私と君との懇意が周りに知れれば、同階級を抑えられ昇級も早まる。この会に着いてきたのもそういう腹積もりだろう?」
クジャナはその言葉に一瞬ドキッとしたが、すぐさま心の内を晒す。
「そこまで見抜いていらっしゃいましたか。やはり智将には敵いませんなぁ。私もそこまで出世したいものです」
ゼクトはシャンパンを手に取り言った。
「出世したいか」
「ええ!もちろん」
「ではせっかくの機会だ。テストをしよう」
ゼクトはシャンパンを一口飲んで手を後ろに回し、他の人間に聞こえないように低く話し始めた。
「我々軍人は魔導師のように、魔法を操るセンスや才能も何も必要ない。魔剣を扱えるよう努力さえすれば手に入る武力だ。『努力』は『武力』。軍人になる時に最初に習う事だ。だがね、上に行けば行くほどそんなものに価値は無くなる。人の上に立つ何が必要か分かるかね?」
「はっ、『統率力』でしょうか」
その答えに「なるほど」と言って頷き、ゼクトはもう一度シャンパンをすすった。
「では次の質問だ。その統率力とはなんだね?」
それに対してクジャナは少し考え、言葉を選んだ。
「それは・・・・・・『忠誠心』か、と」
するとゼクトは、首を縦に振りながらその答えに「悪くない」と言った。
「では、最後の質問。どのようにして、その『忠誠心』を与える?」
クジャナはその答えに口をパクパクとさせた。
「そ、それは・・・。あ、あの・・・」
頭を全力で回転させ、「カリスマ性です・・・か?」と言葉が口を突く。
ゼクトは一気にシャンパンを飲み干し、ゆっくりと言った。
「及第点、と言ったところか」
「貴様の言う通り『忠誠心』とはね、従え、束ねる力だ。ただ、それを根付かせるのに一番良いのは『才能』でも、『実力』でも、ましてや『カリスマ性』でも無い」
「では一体・・・」
「『演説』だ。煮えたぎるような情熱と煽る言葉からしか忠誠心という『盲目さ』は生まれ無いからだ」
「盲目さ・・・」
濁った目を見開き、耳まで裂けそうなほど口を開き歪んだ笑みを作る。
「見ていろ、見本を見せてやる」
ゼクトは歯茎を見えるほど笑った。
悪魔のように。
次回、ゼクトの演説回です。