第十一話 『どうやらロラルルって人は琥珀色の伝説色らしいんだけど、その話を聞いて欲しい』
セイは目を覚ますと、誰かの膝の上に頭を乗せている事に気づく。
「あぁ、気がついたかい?」
優しく甘い声がセイの心に染み渡るように響く。
頭にあたる太ももの感触は逞しい筋肉そのものであり、膝枕を請け負っている人間は男である確信はあった。しかし顔は限りなく中性的で、肩まで伸びた金色の髪も美しく、その上甘い香りを放つその男からは凄まじい包容力を感じ、セイは同性ながらに頬を赤らめてしまった。
「あの、もう良いかい?」
「え?」
「膝さ。起き上がってもらえるかな?」
ニッコリと笑いながら、相手を傷つけずに優しく声をかける。
「あ、はい、すいません」
セイはぼーっとしながら、ゆっくりと起き上がる。
そして次第に木々がなぎ倒された光景、そして後ろに立つマッサのしかめっ面にビクリとしてから、自分が異世界に飛ばされた経緯や蟲王を倒した記憶が脳裏に蘇った。
「菫色ちゃんを助けたのは君みたいだね。話は彼女から聞いたよ」
「あ、ロアナは?」
セイはさっきまで力を全て使い果たし気絶していた、つり目の女の子を気遣った。
ロラルルは微笑を浮かべて「心配無いよ」と声をかける。
「仲間のところに行ったよ。なにやら『グラウンド・ゼロ』に巻き込まれたから助けに行くってね。救護班も一緒だ」
セイはその言葉に青い髪をした童顔アイドルのような少女、セレナの事を思い出した。
「私はリレルラル・ロラルル。皆からは【琥珀色の根源者】と呼ばれてる。よろしくね」
「あ、よろしくお願いします」とセイは一礼。
「ちなみに琥珀色様は、一級上位の【伝説色】の根源者だ」
後ろのマッサが補足した。
「伝説色?」
するとマッサは一度咳払いをして「えー、遙か古の」と朗々と歴史を語り出そうとすると、ロラルルは一度咳払いをして「伝説のクダリは今度にしてもらえるかな?」と冷ややかに言った。
「すみません、悪い癖です」
「つまり、まあまあ強いって事さ」
ロラルルは自重すると、代わりにマッサが慌てた様子でその謙虚さに補足。
「まあまあだなんてとんでもない!!神懸かり的な強さです、はい」
そして今度はセイの方を向く。
「大体、お前、そんな事も知らないのか!?琥珀色様!!こんな奴に自己紹介など、こいつが全ての元凶です。今すぐにでも」
マッサが怒りの矛先を、セイに向けると「だから違うって!!だいたいそんなに強いんだったらすぐに助けに来れば良いじゃないか」と遮った。
「貴様、此の期に及んで!!琥珀色様だってスグに駆けつけるはずだったんだぞ!?瑠璃色様があんな事さえしなければ!!」
その時言葉を遮るように「マッサ止せ!!」と言葉を制した。
「彼の言う通りだ。私は無力だ、申し訳ない」
ロラルルは深く頭をさげる。
その態度にセイも我に返り「いや、あの」とあたふたした。
「それにマッサ、彼は元凶なんかじゃないよ。それは分かる」
そして疑いが晴れた事に胸を撫で下ろすセイ。
「良かったぁ、話が分かる人がいて。もうこれでプロレス技は無しだよ」
ホッとしたようにマッサを見ると、彼は悔しそうに「ぐっ」と喉を鳴らした。
「ただ、【魔導師許可証】、つまり協会に登録してないとなると評議会の連中が何か言ってくるかもね・・・」
ロラルルは眉間にしわを寄せた。
「評議会?」
「【審問評議会】だ。魔導師協会の中の機関の一つで、魔導師達の処分を一手に引き受けている、まぁ、つまり『魔導師の裁判所』みたいなもんだ」
「【偉大なる市民】の一人ゴールドスミス氏が、つまり世論の代表が議長を務めているんだよ」
ロラルルは馬を呼んでセイを後ろに乗馬させた。
「じゃ、悪いけど付き合ってくれるか。僕が君の弁護について無実を証明するからさ」
そう労いの言葉も織り交ぜながら、ロラルルは馬を進ませた。