第十話 『どうやらマッサージ師に疑われているんだが、その話を聞いて欲しい』
空中に浮遊していた彼女は落下し始め、それに動揺したセイは魔法陣となった自身を発光させる。
次第にそのスピードはゆっくりとなり、地維に優しく彼女の体を横たわらせた。
その瞬間、セイの体が元の人間に戻る。
すると彼女を抱きかかえ、俗に言う「お姫様抱っこ」状態で仁王立ちする自分に気づいた。
「うおっっ!!!!」
と恥ずかしさのあまり顔を赤らめ改めてロアナを大地に寝かせるが、それでも動揺はしばらく消えない。
しどろもどろしながらその場で足踏みをしながら行ったり来たりするセイ。
「おい、お前っっ!!!!ここで何をしている!!!」
すると突然、教師のような固く厳しい声がセイに突き刺さった。
セイが振り向くとロアナと同じ白い軍服を着た男がセイに向けて指を差している。
5メートル程の距離があったが、それを一瞬で詰める。
セイは瞬く間に腕を締め上げられ、あれよあれよと身動きを封じられて拘束されてしまった。
「貴様見慣れぬ格好をしているな。一般人は避難警報が出たはずだか?」
「いててて!!いや、俺は、え〜っと、その・・・」
寝間着姿のセイを怪しみながらその男は尋ねる。
しかしセイは『寝る前に千回お願いしたら異世界に飛ばされた』と言ったところで信じてもらえる訳が無いというのが、簡単に見て取れた。
「一般人でないなら、魔導師か?生成者か?根源者か?魔導師許可証は?」
「あの、だから、そのぉ・・・」
「はっきり言え!!貴様、何者だ!!」
止まらない詰問。
曖昧に回答を続けるセイに腕を締め上げる力が強まる。
「分かった!言う!!僕、異世界から来たんですっっ!!!!」
「何?そっかぁ、なら仕方ない」
と一瞬力が緩まり、ほっとするセイだったが「とでも言うと思ったか貴様!!」とその男が今度はコブラツイストを決め始めた。
「いてててて!!!!!本当だって!!!それに一瞬人じゃ無くなって、この女の子にまとわり付いたような感じになって」
と顎で足元に横たわるロアナをしゃくった。
「んん?これは・・・、菫色の。ロアナか?彼女はジェノンというパートナーがいるんだ。それを無視するという事は協会を無視するという事!!それともお前!!冥帝の配下か!!!」
「最後のは違うっっっ!!蟲王は倒したよっっっっっ!!!!!」
「何を良い加減な事を!!『琥珀色様』も居ないのに、そんな事出来るか!!!」
男は流れるように関節技を変え、今度はロメロスペシャルを掛けた。
「うお、ちょっとマッサージ師か!あまり痛くないし、いや、ちょちょちょ、突然痛くなった!!!!たんまたんまたんま!!!!てか、嘘じゃないって!!!!!」
「なぜ俺の名前を知っている」
「はぁ?」
「今、マッサ・アジシと言ったろ!!!やはり怪しい奴!!!!」
「どんな奇跡だ、それーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
どんどん力が入り、セイの背骨が本格的に悲鳴を上げ始めた時に後ろから甘い優しい声がした。
「やめてやれ、マッサ」
「しかし、琥珀色様」
「彼じゃないよ、大丈夫だ。それに早くしないと彼の背骨が折れてしまう」
マッサが気づいた頃には、セイは口から泡を吹いていた。