第八話 『どうやら僕の根源色は翠玉(エメラルド)色らしいんだが、その話を聞いて欲しい』
「こんな綺麗な色の魔法陣初めて」
セイの【根源色】、魔法陣と姿を変えたセイの魔法根源の色が反映したそれは、美しく緑に輝く色彩を放っており、ロアナは死にそうになった直後だったが、率直に感銘を受けていた。
「【翠玉色の魔導師】って、ところかしらね・・・」
自笑しながら虚無的な表情を浮かべた。
それは彼女自身否応無く感じていたからだ。
さっきまでの死闘が、絶望感が、圧倒的な戦力の差が、セイの魔力によって簡単に埋まってしまった事に。
それどころか、優位に立っている。
あれほど大きく立ちはだかっていた『冥帝四天王』の一体があまりにも小さく見えていた。
これは現実なのだろうかとロアナ。
「それとも単なる勘違い・・・?私おかしくなっちゃったのかな・・・」
「何をぶつぶつと呟いている、人間がぁ!!」
低く唸る蟲王に、ロアナは改めて四肢を緊張させる。掌に汗をかき、膝が震える。
それは経験的な記憶がそうさせていた。
自身の切り札を「埃を巻き上げるだけ」と言われ、パートナーを死なせた恐怖。低い声がそれらを蘇らせる。
「くくく、魔法陣の色が変わろうと同じ事」
見下されたような声色にロアナは動揺したが、一度頭を振り思考回路を列車の分岐のように切り替えた。
一点集中。
自身の体の前で大きく六芒星を描くと、同じ翠玉色の魔法陣が現れる。
先ほどの掌に球体を生み出すものより、断続的に高濃度の魔力を射出出来る大技。第二の切り札。
しかしそれを敢えて【詠唱破棄】。
それが最善の策と思考が行き着いたのは、詠唱破棄はロアナが最も得意とする技術であったからだ。
「喰らえ!!」
蟲王が対面し、放つ台詞。
先ほどと同じ状況。
違うのは既に一度打ち破られた敗北感を頭のどこかで無視している事と、魔法陣の色。そしてそれが意味する相方の・・・死。しかしどこか勝機を見出せるのは、溢れ出すセイの魔力がひしひしと伝わるからであった。
思考回路を切り替えても、また元の思考に落ち着いてしまう自身の弱さをさらなる集中を持って濁す。強さと弱さの狭間で、翠玉色の魔法陣は火を噴く。
「何度やったところで、同じ・・・んん?」
蟲王は一瞬言葉に詰まった。
それは砲火された魔力がさっきのものとは比にならないほど、凝縮され、凝集され、集約されていたからだ。
その瞬間に、蟲王は自身の置かれた非常事態を知る。
そして全神経をもって全防御力を被弾箇所に集めた。
「い、イケる!!!!!!」
「な、んの。こ、れ、し、き・・・・!!!!!!!!」
百戦錬磨を優に超える四天王の一翼を担う蟲王。
凄まじい威力を持った翠玉色のを受け止め、次第に魔力が減衰していく。
「ぐおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」
蟲王を自身の魔力を高めた。瞳と同じ赤炎色の光が全身を包み翠玉色の波動を飲み込んでいく。
「だ、駄目か・・・・・・。くそっっっっっっ!!!!!!!!」
「ね、ねえ・・・。ちょっと質問」
その時セイが絶望に身を浸そうとするロアナに恐る恐る尋ねた。
「何よ!?」
魔法陣だった為に、なんでキレ気味なんだよ、という心の声をだだ漏れにしてから、要点に戻るセイ。
「もう一発撃てば良いんじゃない・・・?」