第零話 『どうやら千回お願い事したら異世界に来られたんだが、その話を聞いて欲しい』
書き直しました。
「魔法のある異世界に行きたい・・・」
その青年は呟いた。
クラスに必ず一人は居るような、しかし誰も覚えていないタイプである。唯一特徴があるとしたら、顎にペンで書いたようなホクロがあった。
名は静太郎。
中肉中背のいたって普通の青年。
しかし彼の趣味は普通ではなかった。
部屋の壁には二次元の美少女ポスターが所狭しと貼り付けられ、セクシーで際疾いものは『自主規制』だとか『KEEP OUT』だとか書かれた紙テープで胸や局部を隠してあったが、その方がよりヤラしさが際立っていた。本棚には青年のお気に入りの著者のライトノベルが五十音順で綺麗に並べられており、そのとなりにはコミック、同人誌と続いていた。
そして本棚の隣にはスチールの棚が配置されており、『フィギアゾーン』とも言えるスペースが確保されていた。
そこにはミリ単位で角度を決められた魔法少女や妹属性的な樹脂造形物が臨場感溢れる角度で陣取っていた。
「そして出来たら女の子とハーレムになれるような世界に行きたい・・・」
電気を消して、静太郎は布団に入ると再度呟いた。
「魔法は、女の子と融合して撃つ方法が良い。そして僕はチート並に強い」
そして目を瞑って、就寝に備える。
(良しッ!千回言ったぞ!!何か起これッッッ!!!)
そう、静太郎はこの呟き行為を寝る前に繰り返していたのだ。
情報源は分からないが、ある時期を境に願いを寝る時に千回言えば叶うと信じていた。
そして三年という月日を要して、ようやく今夜その目標をやり遂げた。
途中挫折しそうになりながらも、決して諦めず、誰にも口外せずにひっそりと実行し到達したのだ。
(・・・・・・無理か)
一時間ほどしてなんとなく目が覚めたが、そこはいつものベッドの上。
何も変わっていない事に失望しながらも、「やっぱりね」と言葉に出し常識的な一面を垣間見せる。
(あぁ・・・・・・、分かってたけどね。・・・人生、そんな甘くないし。てか、人生そのものが変わるような願いなんて無理かぁ。ふふ、『彼女が欲しい』とか『お金持ちになりたい』とかにしとけば、良かった、の、かな・・・)
静太郎は訳の分からない後悔の念を自嘲しながら心の中で呟くと、また微睡の中に入っていった。
そして静太郎がしばらくウトウトしていると、『白いローブを着た』『肩まで伸ばした』『ウエーブ掛かったヨーロッパ風』の『痩せた中年男』が静太郎の意識の中に現れたのだ。
そしてその男はため息をつきこう言った。
「ったく、しゃーねーな」
そう一言言うと、すっと姿を消してしまった。
「な、なんだ!?」
静太郎は思わず起き上がった。
が、しかし。
そこは静太郎の部屋では無かった。
彼が目を覚ましたのは森の中だった。
朝靄のような霧があたりを包み、横たわっている静太郎の寝間着をゆっくりと湿らせていく。
「ここは・・・?」
そう。
静太郎は、異世界に飛ばされたのだった。