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六話 新たな手段、それは船旅

 おれって、ロリコンだったりするのか?

そんな余裕な考え方が出来るほど思考に隙間があった。


「……なんで庇ってるのよ、バカ!」

「トウカ……っ」


 ウィズとルゥトが駆け寄ってくるのが見えて、ハルアはおれの腕から離れていった。


「……いってぇな。だれだよ、ここに、瓦礫作った奴」

「今、手当てを」

「へへっ、てめぇみたいな強い奴ともう少し戦いたかったが、状況が状況みたいだな。そこの稀少種」

「?」

「名前はなんだ」

「……灯架」

「トウカだな。おまえに免じて今日のところは退いてやる。次はおまえを必ず盗む」

「……おれは、物じゃねぇ、っての」


 ハルアを抱えるとロッツは誰もいない階段の方へと走った。残された部下も慌てて後を追いかけて行く。瓦礫だらけの広間には大男とおれたちしかいなくて静まり返っていた。

コロナはすでにいなくて、大男は疲れたのかその場に座り込んだ。


「っつぅぅぅ、しみるっっっっ」

「酷い傷だから当然だよ!」


 薬草から採ったものなのか、緑色の液体を、捲った服の下の背中の傷に吹き付けた。予想以上の威力でぶつけたよりも痛かった。

何度もギブアップを言ったけれど、ルゥトは聞き耳を持たなかった。

意外にも悪魔な……看護師か。



「……大丈夫?」

「おう、だいぶ休んだらマシになったぜ。ありがとな」


傷薬なのか休んだからなのか、ようやく落ち着いて体を起こしていた。

やっと天使な看護師に戻ったようだ。


「なんで庇ったのよ、命をねらってたのよ、あいつは」

「知り合いなのか?」

「っ、そんなんじゃ」

「庇ったのには理由はない。子どもが危険な目に遭うと思ったからな」


 年齢の概念で言ったらおれより年上なんだろう。十歳でも、こっちだと三十歳になるからな。そんなこと言い始めたらキリがないから考えるのは止めるけど。

おれは立ち上がると、大男の元へと向かった。


「あー、大丈夫か? 怪我してんなら、こいつに言えば治療してもらえるから」

「……してない」


 初めて聞いた声は予想通りに低かった。ただ、大きいことはないため、むしろ小さいからめ聞き取りにくい。


「オッサン、名前は?」

「……名前、ない。忘れた」

「忘れたって……。ここにいる理由は?」

「……忘れた」


 それって単なる物忘れか? おじいちゃん、朝ごはんは夜に食べたでしょって感じなのか?

それとも、記憶喪失なだけて実はピアノが引けたりとか。


「オッサン、生きる目的は?」

「……忘れた」

「オッサン、朝飯、なに食った?」

「……わ……食っては、いない」


 そこは忘れたじゃないんだな。これだけじゃ、どっちなのか分かんないな。


「オッサン、剣をなんで使えるんだ?」

「体が、覚えていた」

「……記憶喪失っぽい?」

「ボクは、記憶喪失だと思います」

「オッサン、もし行く場所とこがないなら一緒に来ないか? 記憶を取り戻すキッカケになるかもしれないし」

「……ああ」

「えっ、連れてくの!?」

「おう。この実力なら、所長をぶん殴るのも楽になるしな。それに、なーんか引っ掛かるんだよな」

「……四神騎のこと?」

「ああ」


 ウィズは反対なのかと思っていると、そうでもないらしい。勝手に決めてるため怒る気にもならないようだ。

新しく出てきて混乱してるというのに、スワル城とも関わりがあるとか……。こう考えるとスワル城に飛ばしたコロナは今更ながら強く思うが性格悪いよな。ラスボスがいるような場所に飛ばしたようなもんだろ?



「四神騎が所長と組んでることは確かにアレだけど、それを理解する術がないんじゃない? 目的地としては、リンドーか学園都市に行ってみるべきよね」

「学園都市なら、頭が良い人がいっぱいいるし聞いてみるの、良いと思うよ。この人の記憶喪失の原因も分かるかも」

「……ルゥトの治療って、医術なんだね」

「え?」


 ウィズとルゥトが二人で話をしている。医術って確か、医療の技術のことだよな。ルゥトが驚いたのは、おれと同じことを考えたのか、それとも別の何かがあるのか。


「そんな大したものじゃないよ」

「いやいや、天賦のものじゃない? だって、医師の中でも何割もいないんだよ」

「……こっちの、医術ってどういう意味だ?」


 なんだか意味が違うような気がする。天賦なんてそうそう使わないよな。おれ、小さい頃テンプじゃなくてテンブだと思ってた。変換も出来ないし、実在しない言葉なんだと勘違いしてたな。


「医療の魔法よ。文字通り、魔法で回復する人もいれば、薬草を全部把握してる人もいれば、調合で効果を倍増させる人もいる」

「魔法が関係ないのもないか?」

「ううん、見ただけで分かる特殊能力なのよ。覚えてるわけじゃないの」

「……ボクは、魔法は使えないよ。使えてたら、姉さんだって」

「ルゥト?」

「な、なんでもない!」


 この世界はやっぱり魔法が存在する世界なんだな。分かってたが、更に認めざるを得ない。


「じゃあ、次の目的は学園都市だな」

「船に乗らないといけないわね」

「船に?」

「船以外で近寄ることは無理なのよ。島国だから」

「へぇ」


 たぶん、おれが思うような島国とは違うんだろうな。なにせ、色んな学園がある都市なんだから。


「で、オッサン……、名前分からないみたいだし、オッサンで良いよな。オッサン、着いてくるか?」

「……ああ」


 名前付けるの苦手なんだよな。昔に、ペットの名前を付ける時にオスなのにジョセヒィーヤヌって名前を付けたことがある。なんて呼べば良いのか分からないって却下されたな。


「あーあ、せっかく一国の主になれたと思ったら即座に移動か」

「終わったらまた来れば良いじゃない。ここに入るような物好きいないし」

「それもそうだな」


 長く薄暗い城から出ると、体を伸ばすと、所々、骨が鳴っている。ふと後ろにある城を見上げると、入る前のことを思い出していた。

そして、城から視線を反らして歩き出した。

夕日が沈む寸前の、空と溶け合った紫色が城を照らしていた。



「ここが港か」


 潮風に混じり海と魚の香りがする。天日干しになっている魚がユラユラと風に揺れて、回収を忘れてるのかそれを猫のような生き物が狙っている。

大きな船がいくつも並んでいて、船員たちが走り回っていた。


「おお、タイミングが良いな。これが最後の便だ」

「……おー、良かったな。また野宿になるとこだったぜ」

「学園都市までは一ヶ月かかるぜ」

「は? そんなに?」

「いくつもの街を経由するからね。で、リンドーが最後だけど、その前が学園都市なんだよ。でも、それにしても一ヶ月は長くないかな?」

「最近、短縮する路に化物が現れるんだ。だから遠回りすることになるからな」

「……化物、か」


 野原にも魔物がいたんだから、海にいないはずがないな。まあ、時間で困ることはないから良いが、一ヶ月も船の上にいたら船酔いの地獄になりそうだな。


「あんたらが倒してくれるなら通るけどな! まあ、ジョウダ」


 ン、と言わせるよりも早くウィズのキラキラとした目を見て、おれが疑問に思ったことを聞いてみた。


「どのくらい短縮出来るんだ?」

「え、ああ、一週間で着く」

「そんなになのか……ふぅん」

「お、おい、冗談だからな?」

「なあ、おまえら。やっぱり海上はキツいよな」

「あそこら辺、荒れてるからね。けっこう厳しいかも」

「ふふふ、魔物退治。あたしの力の出番ね」

「……俺は、どうする」


 なんだか、思ったよりも戦闘狂が多いな。ウィズって戦うの好きなのかもしれない。というより魔物を退治するのが好きなのか。

一番無力なおれは、どうするかね。なにもしない、周りに任せる勇者なんて、そうそう存在しないんだろうな。


「じゃあ、退治するから短縮で通ってくれ」

「ぇええっ!? 本気で言ってるのか!!」


 声を裏返らせて興奮気味に話した船長。面白い話し方をする人だと思った。あまりに変な声になってるせいで、子ども組が声を殺して笑っていた。



「冗談のつもりはないが」

「……」


 百面相をしている船長は、海の男らしくムキムキの筋肉美は確かに美しいが、百面相をしてる姿は乙女っぽい。可愛い子がやるから良いのであって、マッチョなあんたがやっても可愛いげの一つもない。


「……頼んでも、良いのか」


 少女漫画のヒロインのように、頬を蒸気を出しそうなほど赤くさせる。

何だか異様な雰囲気に思わず、後込みをしていた。逃げたい、逃げたい、逃げたい。


「任せてよ!」


 ウィズが意気揚々と息を荒くして、おれの前にやって来たため少し間が空いたからホッとした。


「こんなヒョロヒョロ、しかも子どもばかりで……まあ何にせよ、頼れるのはおまえたちだけだ。頼むよ」


 まあ、戦えるのはその子どものウィズとオッサンだけなんだよな。おれはただ見てるだけの役目。


「じゃあ、出発する準備をするからな。入ってくれ」


 おれたちは船長に言われるがまま船の中に入った。何も考えず入ってしまう直球な考え方をしてる連中ばっかなのも問題だな。やっぱり参謀とか、止める係も欲しいよな。都合良く仲間にはならないんだけどな。

船内は客船なだけあって、廊下は狭いが寝泊まりが出来そうな部屋がある。


「一部屋二人か。どう別ける?」

「ボクは誰とでも平気だけど、ウィズは女の子だし一人の方が」

「あたしは平気よ。大部屋でも平気だったし」

「それなら、四人で眠れる場所もあるぜ。ただ、そこの大きな兄ちゃんは無理そうだな」

「オッサンじゃ、ベッドのサイズが合わないな」


 おれは、そんなに大きくないから足りるが大男であるオッサンじゃ足がはみ出てしまうな。


「……俺は雑魚寝でも構わない」

「オッサンがそれで良いなら。四人部屋の方が安くなるんだよな」

「何日目に来るのかな。やっぱり、魔物のことを理解すべきだよね」


 流石はルゥトだ。唯一、きちんと考えているが、困ったようにおれを見る。まあ、リーダーみたいなもんだし、しっかりしないとな。


「じゃあ、おれ聞いてみる」


 三人を部屋に置いていくと廊下に出る。ちょうど汽笛が鳴り驚いていると、ぐらりと揺れた。ちょうど出発のために動いたのか思ったよりも大きく揺れる。

誰に聞いてみるかと、廊下の先を左右に見てみる。横断歩道を渡る時みたいだな。

来た道を戻れば甲板に出るが、反対側は聞いたところ食事処だったり、大広間みたいな休憩場所があるらしい。


「船長は忙しいだろうしなー」


 出発前後は色々と大変だろう。ある程度、安定するまでは話しかけられない。甲板に出ようかと窓の外を見ると、薄暗いため出るのが少し怖くなった。こんなとこで落ちたら見つからないだろう。


「食事処なら誰かいるだろ」


 それか大広間ならいるだろうと思い、情報を探しに向かうことにした。これから酷くなるのかと思うと、気分が重くなる。



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