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三話 ヘタレになるのは当然

この話から投稿の仕方を変えます。すみません。

 旅の準備をしていると、たくさんの街の人から助けた礼として色んな物をくれた。戦いに使える武器も貰って、むしろ良いのか悩んでしまった。


「また、来るんだよ?」

「ああ。新しい名物やパーンムを食べに来るよ」

「気を付けてな」

「もし、所長にあったらギャフンと言わせてやってくれ」

「他の街の人にも魔科学の危険性を言ってやってくれ。おそらく、ここと同じ目に遇ってるところもあるかもしれない」

「わかった」


 滞在時間はそんなに長くはなかったけど、街の人はおれたちに良くしてくれた。まあ、ギャフンどころか滅茶苦茶にするかもしれないな。

街の人たちに見送られて、おれたちはセントラルを出た。二人から距離を空けて、腰に装着させた刀で素振りをした。


「思ったより重いな」

「当たり前じゃない。武器なんだから」

「トウカのところでは、武器はないの?」

「これといった武器はないな。昔にはあったけど」


 国が違えば別だけど。身近なものでも凶器になるから、あまりこれといって違いはないんだよな。

認められてるか認められてないかの違いもあるけど。

使わないに越したことはないけれどな。



「まあ、大きな問題として」

「?」

「魔科学っていうくらいだ。魔法使いが必要だろ?」

「!」

「ここにいた囚人が、よそに移った。そして魔法使いの兄だとしたら」

「まさか、兄上……」

「そうじゃないことを祈るしかないな」


 おれが気になったのはその部分だから、何故行くかと問われたら、そうさせられてるような気がするコロナによって。

顔色が悪くなるウィズに心配をするルゥト。医療品を抱く腕に力が込められていた。


「はあ、ってか古城はどこなんだよ。ここから遠いのか?」

「そんなでもないわよ。ヘタレ」

「うっせぇ。一朝一夕で体力付くかボケ!」

「叫ぶ元気があるじゃない」

「互いにな」

「……」

「仲良いんだか、悪いんだか……ボク、未だに分からないよ」


 売り言葉に買い言葉を続けながら、退屈な道のりは多少は免れた。だが、更なる災難が久しぶりにやって来た。


「あーもうっ、最悪でしかないな!」

「やっつけてよ。せっかく武器があるんだから」

「初めて触るんだっての!」

「け、怪我はしないでね」


 キツネのような顔が二足歩行している。家族なのか大中小と並んでいる。魔物らしいが、初の本格的バトルに戸惑っていた。

ゲームとは違うんだからな。死んだら終わりなんだからな? いくらコロナがいようと、あいつは平気で見捨てるから頼れないし。

なんか、平然と復活させそうな気がする。

ただ、歯を見せた瞬間にべっとりと血が付いていて、表情が可愛くないのが救いだった。


「クリオネの捕食シーンの方が、まだ可愛いげがあるっつーの!!」


 それの動きは遅かった。意外と遅くて、こちらが動くよりも先に動いたはずなのに、進んだ距離が約倍近く長かった。昔に見たトラウマ映像を思い出し、貰ったばかりの剣を振り下ろした。

嫌な感触が、直じゃないのに伝わった。調理で切るなんて安易なものじゃない。


 命を奪った……。



「……はぁ、はぁ」

「なにボサッとしてるのよ! まだいるわよ! 雷光の印、私はそれを契約とする」


 誤魔化すように言葉にしてみたが、やっぱり刀というのは別だ。望んでもないのに指先から震え出して体が動かなかった。

仲間か家族か、奪われたことに怒り襲ってくるのが見えたが、体が動かない。

ウィズの魔法が稲妻のように、分裂をして魔物に当たる。食らったために黒焦げとなり、焼いた肉の匂いがした。

敵がいなくなったのを見ると、腰が抜けて地面に倒れた。



「トウカ!!」


 ルゥトが慌てて駆け寄ってきて、おれの腕を掴んだ。脈を調べるためらしいが、おれは目を開けていた。


「トウカ……どこか怪我した?」

「当ててないわよ! あたし、何もしてないわ!」

「ははっ……、ダメだな」

「なっ、なに言ってるんだよ。嫌だからね、あの時みたいなのは……目の前で、誰も死んでほしくないんだよ」

「いや……、魔物一匹に、こんな……情けねぇ」

「……トウカ」

「バッカじゃない? カッコ付けた結果がこれなわけ?」

「そうだよ、カッコ悪いな」

「……っ、そんな、弱気にならないでよ! あんたが、強気じゃないと、誰がまとめるのよ」


 ウィズもらしくなく呟く。そういや、このグループって全員ガキだな。現実世界でなら長く生きてておれより年上なんだけどな。


「大丈夫?」

「……ああ。膝枕って、案外楽だな」


 ルゥトに膝枕をされてることに気付くと、膝枕の良さが理解できた。ただ、肉付きの良い人なら……だけど。筋肉だらけだと痛くなる。

ルゥトはちょっと脂肪が足りない。もうちょっとムッチリしたお姉さんなら大歓迎なんだが……。

って、論点が違った。


「まだ、痺れてる」


 地面に転がっている刀を見てから自分の手を見る。


「トウカが、嫌なら……戦わなくて良いよ」

「よくさ、一人殺したら、二人目を殺すことの枷ってなくなるらしいな」

「?」

「してはいけない、という倫理すら撥ね飛ばすんだろうな。殺すってことは」

「……」

「今は魔物だったけど、その黒い気持ちは……いつしか人に向けられるんだろうか。そう思うと、怖くてたまらない」

「……そうだね。ボクたちは生きるために、何かを殺してる。だからこそ、ボクは目の前で誰かに死んで欲しくない」

「矛盾してんな」

「うん。そうだね」

「あたしも、同じよ」


 ウィズがルゥトの前に座る。結果的に、二人に挟まれてしまった。太陽は二人の影に隠れてしまった。

「あたしは、昔は魔法を使えなかった。けど、あたしたち一族には……魔法使いになる儀式があったの」

「儀式?」

「それは命にかかわることで、魔法使いになれるか、死ぬかの両極端だった」

「……」

「死んだ人がいないって言ったら美談かもしれない。でも、実際は、半数近くは死んでるの」

「……なんで、止めないんだ」

「誇りだったの。魔法使いになれることは。魔法使いになれば、色んな国から頼まれる。守るために、攻め込むために……。一族を守るためには魔法使いになるしかない。でも、あたしはなりたくなかった」

「……」

「大好きな兄上と、下手したら別れるかもしれなかったから」


 ポツリポツリと吐き出すように言葉にしたものは、ウィズらしくない弱音だった。


「あたしは、失敗したの」

「!」

「奇跡的に、瀕死状態だった。生きてるのが不思議なくらい……。あたしの魔力は大きすぎたの。あたしの器では収まりきれないほどに……その時に、失敗した時にその魔力が、暴発した」


 ウィズは部分的に言葉を休めると、深呼吸をした。息が詰まりそうな空気で、心が締め付けられるような内容。

ウィズの表情から、色んな感情が読み取れた。


「あたしが無事だったのは、その時の力が一族を襲ったから」

「!!」

「死人は出なかったけど、あたしのせいで仲間が危険な目に遇った。だから……だから」

「ふうん、で?」

「えっ……だから、あたしといても良いことないから! だから、仲間になんない方が良いのよ!」

「おれは、おまえの力に助かってるし、それならお互い様じゃね? おれは巻き込まれやすい体質、ルゥトは不幸体質。良いことないのは同じだろ」

「また前みたいに大怪我させるのよ!?」

「しなきゃ良い」

「そんな単純なことじゃ……」

「あーもう。せっかく休んでたのに……誰もまだ死んでないんだろ? なら、それで良いじゃねぇかよ」


 体を起こすと、上半身だけ後ろにいたウィズに向ける。腰がゴキッと音を鳴らした。体が凝ってるみたいだな。


「まだって……いつか」

「そんな日は来ねぇから」

「!!」

「そうだよ。ウィズはボクたちの仲間だ。気を付ければ良いんだよ」


 ウィズは目にいっぱいの涙を浮かべて、白い頬を赤く染めた。目を見開かせたために、その赤い頬を涙が伝った。

「ってか、今、ぎっくり腰っぽくなった」

「トウカ~!!」

「あんた、最後まで締まらないわね」

「うっせ」


 そして久しぶりに三人で笑った。声を出して大きく息を吸って笑った。痛む腰に響きながらも、まるで学生の馬鹿話をするように……。


「……だいぶマシになったな」

「体が固すぎるんだよ。少し解したら?」

「まあ、それは今じゃなくて良いだろ。休めたし、今日中に古城に向かおうぜ」

「うん」

「そうね」


 魔物からお金と、ルゥトは薬草を見つけた。

埋めてやるべきか迷ったが、そんな時間もなく、この世界の理を悟ってしまった。生きるために、死なないために必死になる。


「……魔物を寄せ付けないってやつ、効果あるのか? 持ってた方が良いんじゃね?」

「ないに越したことはないんだけど、魔物の種類によっては無意味になるかも。あたしたちが、魔物の住み処に入り込んだりしてる場合もあるから」

「なるほどな。テリトリーに踏み込んでる可能性もあるんだな」


 それは対処のしようがないな。進むためには行かなきゃならないこともあるだろうし。出来れば避けて行きたいけど。

前に、全滅した村があると話していたが、やっぱり完璧な効果ではないのか。


「その慣れに溺れてないうちなら対処出来るな」

「え?」

「おれの世界でも、危険なものだけど使い方によれば便利になるものがある。今更、その便利を手放すことが出来ないほど、依存してるんだ。その依存性が温いうちなら何とかなるんだけどな」

「魔科学のこと?」

「ああ。危険だってことを理解して使うか、その利便性から逃れ危険を手放すか」


 それを、おれには出来るかと問われれば出来ないとキッパリ言うだろう。それほどまでに体に染み込んでいたから。

「……人は、昔からそれを出来たんだ。大丈夫じゃないかな」

「けど、文明は刻一刻と変わっていく。その文明レベルに合わせるってことになる。おれの世界じゃ、きっと過去の文明レベルに落としても生活は出来ないだろう。生まれてからそれぞれ、その利便性と隣り合わせだったからな」


 そういや漫画で過去の文明レベルに落として生活をするってのがあったな。最終的にはどうなったか覚えてないけど。

江戸時代に戻すテストみたいなものだったが、ああいうのって風呂敷を広げすぎて纏まらない状態になりやすいよな。


「50年くらいかな、いや、もっと長いか……短いか」

「?」

「大きく文明が変わってるんだ。最初は、遠くの人と会話することが出来た。もっと昔だったらそれも出来なかった。でも今じゃ、時間差もなく、相手に声が手紙が届く」

「手紙が届くって……瞬間移動の魔法があるのか!?」

「いや、魔法はないって。簡単に手紙って言ったけど、似たようなもんだよ。機械で、このくらいのサイズで、会話が出来たり、手紙を渡せる」


 携帯電話のサイズを手で表したが、そういや、携帯電話って持ってなかったな。あっちの文明機器は持ってこれないんだろうか。

持ってこれても、使い道が無さすぎて泣けてくるな。連絡は誰にも届かないし。あっちの技術が分かってたら、ここで発展させることは可能だろうか? 面白そうだが、文明レベルを大きく変えてしまうことになるし、何よりバカなおれには不可能。

「トウカの世界は不思議だな」

「おれにしてみたら、ここが不思議だ。魔法を使えるからな」

「ずっと黙ってたけど、あんたの服、不思議よね。それ普段着?」


 未だに、あんた呼びか。前に名前で呼んでいたのに、まだ気まずいと思ってるんだろうか?

ルゥトは目をキラキラとしていて楽しんでる。


「いや、これは制服って言って、ブレザーだけど、おれくらいの年齢の奴が学校に行くときに着るものなんだ」

「学校……」

「こっちにもあるのか?」

「学園都市があるの。騎士になるための学校だったり、博士になるための学校だったり」

「普通に勉強はないのか? おれのとこは、ほとんど、ある年齢までは強制だったな」

「学校に行ける人なんて、お金持ちのボンボンだけよ。ルゥトはお坊っちゃまなのね」

「……そ、そうじゃないよ」


 医者見習いだもんな。学校に通うにしても、ある程度、金持ちじゃないと無理だろうし。ルゥトって身形は、まあ良い方だし、賢そうな顔もしてる。ドジだけど。


「騎士もあるのか、ちょっと良いな」

「そういうのに興味あるわけ?」

「なんかカッコイイよな。でも、一番最初のとこで騎士の情けなさを見たから何か複雑だな」


 始末書がどうのこうのって、リアル過ぎだろ。あまり見たくなかった一面だったな。

まあ、騎士だって結局仕えてるわけだからな。


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